『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

文字の大きさ
47 / 105

第47話 明るい朝

しおりを挟む
「ん……」

 朝の光が少しずつ差し込んでくる時刻。
 ベッドからか細い声が聞こえてきた。
 ユリウスがやっと目覚めてくれた。

「ユリウス……」

 私はホッとした。全身から力が抜けていったけれど、ユリウスの手を握る手だけは離さなかった。

「……ミラベル……なんで床の上に……」

 さすがに床の上そのままではない。
 ニンフがクッションを持ってきてくれたので、その上に座っている。

「そういう問題では……うっ」

 起き上がろうとしたユリウスは痛みに呻いた。

「ああ、まだ、駄目です。しばらくは安静に、と村から戻ってきたお医者様が言っていました。ええと、サルース、さん?」

 ユリウスが寝ている間にやって来たお医者様は女性だった。
 人間にしか見えないタイプの魔族だった。
 ユリウスの包帯を取り替え、傷の様子を見、まだ床で寝ているヴァンパイアの手腕を褒めると、薬を置いていった。
 医者がつきっきりでいるほどではないことに、私は大いに安心した。

「こちらお薬です。起きたら飲ませろとのことでしたから……水をお注ぎしますね」

 ニンフが置いていってくれた水差しからコップに水を注ぐ。

「お口を開けて、苦いそうです、お覚悟を」

「ああ……」

 薬を飲み込んで、ユリウスは私の手の傷を見つめた。
 きっと気にするだろうから、隠しておきたかったけれど、薬を飲ませていると、どうしても隠すことはできなかった。

「……ミラベル、手に俺の爪痕が……」

「この程度、問題ありません」

 少し血がにじんでいるけれど、じんじん痛むけれど、ユリウスの痛みに比べれば、どうってことはない。

「大丈夫です」

「……すまない」

 ユリウスはそれだけ言うと、またウトウトし始めた。

「おやすみなさい、ユリウス」

「……君も、寝なさい。もう、大丈夫だから」

「……そうします」

 離れがたかったけれど、あまり私がかたくなになっていてはユリウスが休めない。
 私はユリウスの部屋から自室に戻った。
 扉は開けっぱなしになっていた。

「…………ふふ」

 昨夜の慌ただしさを思い出して、私は少し微笑んだ。
 ユリウスが目覚めたおかげで、微笑む余裕を取り戻していた。



 その後、私が起きたのはなんと昼前だった。

「お、起こしてくれればよかったのに!」

 ニンフに思わずそう叫ぶ。

「そうはまいりません」

 ニンフ今までで一番厳しくそう言った。

「お疲れのところを叩き起こすことなどできません。……陛下があのご容態ですから、時を告げる鐘も今日は打つのをやめておりますしね」

「そう……」

「ああ、今日の勉強は休みだと賢者の方から連絡がありました」

「そう、ね……」

 こんな状態では勉強に身が入らないだろう。
 ありがたくそうさせてもらおう。

「ヴァンパイアは? まだ床の上かしら」

「さすがにお目覚めになって『節々が痛い!』と叫びながら、お部屋を後にされていました」

「そう……」

 床で寝たのだ、そうもなるだろう。
 ……魔族も意外と人間のような痛覚をしているらしい。

「……陛下は?」

「もうお目覚めで、ベッドの上で長座くらいはできるようになっています。お妃様が起きられたら、話をしたいとおっしゃっていました。お昼をご一緒するのがよろしいかもしれませんね」

「そうね、陛下が了承されたら、そのようにしてちょうだい」

 私はベッドから出ると入浴した。
 ユリウスの爪痕に水がしみて少し痛んだ。
 お風呂上がりに用意されていたドレスは今日ばかりはシンプルなつくりであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご
恋愛
「お前に期待するのは、その背後にある実家からの支援だけだ。それ以上のことを望む気はないし、余に愛されようと思うな」  新婚初夜。政略結婚の相手である、国王リオネルからそう言われたマリアローザ。  持参金目当ての結婚!? そんなの百も承知だ。だから。  「承知しております。ただし、陛下の子種。これだけは、わたくしの腹にお納めくださいませ。子を成すこと。それが、支援の条件でございますゆえ」  金がほしけりゃ子種を出してよ。そもそも愛だの恋だのほしいと思っていないわよ。  出すもの出して、とっとと子どもを授けてくださいな。

だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)

春瀬湖子
恋愛
【2025.2.13書籍刊行になりました!ありがとうございます】 「婚約破棄の宣言がされるのなんて待ってられないわ!」 シエラ・ビスターは第一王子であり王太子であるアレクシス・ルーカンの婚約者候補筆頭なのだが、アレクシス殿下は男爵令嬢にコロッと落とされているようでエスコートすらされない日々。 しかもその男爵令嬢にも婚約者がいて⋯ 我慢の限界だったシエラは父である公爵の許可が出たのをキッカケに、夜会で高らかに宣言した。 「婚約破棄してください!!」 いらないのなら私が貰うわ、と勢いのまま男爵令嬢の婚約者だったバルフにプロポーズしたシエラと、訳がわからないまま拐われるように結婚したバルフは⋯? 婚約破棄されたばかりの子爵令息×欲しいものは手に入れるタイプの公爵令嬢のラブコメです。 《2022.9.6追記》 二人の初夜の後を番外編として更新致しました! 念願の初夜を迎えた二人はー⋯? 《2022.9.24追記》 バルフ視点を更新しました! 前半でその時バルフは何を考えて⋯?のお話を。 また、後半は続編のその後のお話を更新しております。 《2023.1.1》 2人のその後の連載を始めるべくキャラ紹介を追加しました(キャサリン主人公のスピンオフが別タイトルである為) こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

【完結】死に戻り伯爵の妻への懺悔

日比木 陽
恋愛
「セレスティア、今度こそ君を幸せに…―――」 自身の執着により、妻を不遇の死に追いやった後悔を抱える伯爵・ウィリアム。 妻の死を嘆き悲しんだその翌日、目覚めた先に若い頃――名実ともに夫婦だった頃――の妻がいて…――。 本編完結。 完結後、妻視点投稿中。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしております。 ご投票頂けたら励みになります。 ムーンライトさんにも投稿しています。 (表紙:@roukoworks)

猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響
恋愛
侯爵家の令嬢であるリリアーナ・グロッシは、婚約者であるブラマーニ公爵家の嫡男ジュストが大嫌いで仕方がなかった。 紳士的で穏やかな仮面を被りながら、陰でリリアーナを貶め、罵倒し、支配しようとする最低な男。 ジュストと婚約してからというもの、リリアーナは婚約解消を目標に、何とかジュストの仕打ちに耐えていた。 そんなリリアーナの密かな楽しみは、巷で人気の恋物語を読む事。 現実とは違う、心がときめくような恋物語はリリアーナの心を慰めてくれる癒やしだった。 特にお気に入りの物語のヒロインによく似た国王の婚約者である女侯爵と、とあるきっかけから仲良くなるが、その出会いがリリアーナの運命を大きく変えていくことになり………。 ※『冷遇側妃の幸せな結婚』のスピンオフ作品となっていますが、本作単品でもお楽しみ頂けると思います。 ※サイコパスが登場しますので、苦手な方はご注意下さい。

閨から始まる拗らせ公爵の初恋

ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。 何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯ 明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。 目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。 流行りの転生というものなのか? でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに! *マークは性表現があります ■マークは20年程前の過去話です side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。 誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7

【完結】 初恋を終わらせたら、何故か攫われて溺愛されました

紬あおい
恋愛
姉の恋人に片思いをして10年目。 突然の婚約発表で、自分だけが知らなかった事実を突き付けられたサラーシュ。 悲しむ間もなく攫われて、溺愛されるお話。

俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 第四騎士団に所属している女性騎士モニカは団長のカリッドより呼び出され、任務を言い渡される。それは「カリッドの恋人のフリをして欲しい」という任務。モニカが「新手のパワハラですか」と尋ねると「断じて違う」と言い張るカリッド。特殊任務の一つであるため、特別報酬も出すとカリッドは言う。特別報酬の魔導弓に釣られたモニカはそのカリッドの恋人役を引き受けるのだが、カリッドは恋人(役)と称して、あんなことやこんなことに手を出してくる――というお話。 ※本能赴くままにノープランで書いたギャグえろお話です。

処理中です...