『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

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第86話 準備

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 並んで廊下に出る。
 カーミラ嬢を迎えに向かう。
 ドレスに着替えることもあり、カーミラ嬢は来賓棟にいた。

 こちらもまた初めて来る場所だった。

「結婚式の時はこちらが満員になるそうですよ。祖母に聞きました」

 ニンフが囁いてくれる。

「……お待たせ、カーミラ、いろいろ済まないな」

「……いえ」

 急遽仕立てたドレスはカーミラ嬢に似合っていた。

「よかった、お似合いです」

「ありがとうございます、お妃様……お妃様と陛下もとてもお似合いです」

「ああ、カーミラ嬢、よろしかったら、私のこともミラベルと呼んでくださる?」

 言った後に、ユリウスの前で言うのは卑怯だったと気付く。
 これでは断りたくても断れない。

「…………」

 カーミラ嬢が逡巡する。

「あ、あの、無理をしなくとも……」

「わかりました、お妃様……いえ、ミラベル様」

「……ありがとう」

 私はユリウスのエスコートを断りカーミラ嬢と並んで晩餐の間に向かった。

 カーミラ嬢は口数少なかったけれど、それでも成り立つくらいの会話をいっしょにしてくれた。

 何よりユリウスが嬉しそうにしているのが、私もカーミラ嬢も嬉しかったのだと思う。

 デザートを食べている頃に、両親への説教を経てやつれきったドラキュラが帰ってきた。

「……陛下、ただいま戻りました。お妃様の護衛完遂できず申し訳ありませんでした」

「……いや、許す。なんかお疲れ」

 ユリウスは多くを聞かなかった。ただ、ドラキュラのやつれきった顔に何かを悟ったようだった。

「……お疲れのところ悪いが、結婚式について打ち合わせがしたい」

「はあ……次のご予定はパーティーだったはずでは……?」

「ミラベルからプロポーズされた」

「……ははは!」

 ドラキュラの疲れたきった顔に生気が戻ってくる。

「いい! いいですね! ミラベル様! さすがです、素敵です、不肖このヴァンパイア族ドラキュラ、魔王陛下の執事として陛下とお妃様の結婚式、見事し遂げて見せましょう!」

 もはやヤケクソに近いテンションに心配なものを感じたが、私はあえてドラキュラに笑顔を送った。

「うん、……そういうわけだから、ミラベル、今夜は会えない」

「わかりました」

 明らかに夜の関係をうかがわせる言葉にカーミラ嬢が取り乱さないか、目の端で確認したが、彼女はポーカーフェイスを保っていた。
 いろいろと彼女は彼女で吹っ切れたのかもしれない。

「結婚式……約千年ぶりの魔王の結婚式です。忙しくなりますね!」

 ドラキュラはそう言って笑った。

「頼んだ」

 ユリウスも微笑んだ。
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