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第90話 戴冠へ
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「陛下、こちらをどうぞお妃様に」
エルフが取り出した箱の中に収まっていたのはティアラだった。
「魔王城に代々伝わる王妃様のティアラです。こちら手に触れられるのは陛下と陛下に選ばれた王妃様だけですので」
「……年代物ね」
ゴクリと唾を飲む。
たしか魔王の結婚式は約千年ぶりだったはずだ。
「ミラベル」
「はい」
私はシルフの手を借りて、身をかがめた。
ユリウスが私の頭にティアラを被せる。
「お、落としそうで怖い……」
「大丈夫ですよ、髪をそれ用に結い上げましたから」
そろりそろりと立ち上がる。
「…………すばらしい」
エルフが感極まったようにそう言った。
「ああ……千年前を思い出します……」
千年前、私の父方の祖父母が結婚をしたとき。
いったいどういう魔族たちだったのだろう。
祖父は賢者に厳しかったそうだけれど……。
「さて、では、ストラスが来ておりますのでお二人とも玉座の間に」
「結婚式の練習……?」
「いいえ」
エルフはゆるゆると首を横に振った。
「ストラスは画家です。お二人の肖像画を描かせます」
玉座の間に向かう前に画廊に寄った。
「これが、君の父だ、ミラベル」
一人で肖像画に収まっている魔王がいた。
なるほどアーダーベルトとよく似た角がついている。
「そしてこっちが……会ったことはないが君の祖父母だな」
千年前に結婚した魔王夫妻。
祖父は父と同じ角がついていて、祖母は尖った牙をしている。
「……祖母ってもしかして?」
「ヴァンパイア族だったと聞いている」
「じゃあ、私、ドラキュラやカーミラ嬢とも遠い親戚なのね……」
何もかも、知らないことばかりだった。
私達はしばらく父と祖父母の肖像画を眺めていた。
「ここに、私とユリウスが並ぶのね」
「……悲願、ですな」
しわがれた声が画廊の入り口からした。
振り返ると賢者がそこにいた。
「まあ、賢者先生」
「……先代魔王陛下は人間との婚姻を強く望まれていましたから……これがこうして少し変わった形とは言え成し遂げられる……すばらしいことです」
「……そう、ね」
私はずっと父に捨てられたと思っていた。
でも、むしろ、父は母に拒絶されていた。
母はどうして魔界には来なかったのだろう。
……私ほど、辛い人生ではなかったのかもしれない。
それとも生まれてくる私のためだったのだろうか。
あるいは、魔界がただ怖かったのか。
今となっては、もうわからない。
賢者は礼をして去って行った。
「…………」
「俺たちも行こうか、ミラベル」
ユリウスが優しく私の腕を取った。
「……エスコートが上手くなったわね」
「……最初に出会ったときのことを言っている?」
「ええ」
私は笑った。
「あの時はすまなかった……とにかく気が急いていた……」
「ちょっと怖かったわ」
「……すまない」
「いいの」
ユリウスの腕に支えられ、私達は玉座の間に向かった。
長時間、絵のモデルになるのは少し不安だったけれど、玉座の間では座って絵を描いてもらえた。
絵を描いてくれたストラスはカラスの姿で私達を待っていたけれど、絵を描くのに人間の体になった。
「変身……できるのですね」
「72族いる悪魔族の一部は変身ができます。私はその一部ですね」
「72……」
覚えられる気がしない。
「安心しろ、俺も魔王城によく出入りする奴しか覚えていない」
ユリウスが元気づけるようにそう言った。
長時間を経て、ストラスは満足げにうなずいた。
「仮絵ができました。結婚式には間に合わせますね」
「ありがとう、ストラスさん」
その後、仕立て部屋に戻り、私達は着替えると、自分たちの部屋に戻った。
エルフが取り出した箱の中に収まっていたのはティアラだった。
「魔王城に代々伝わる王妃様のティアラです。こちら手に触れられるのは陛下と陛下に選ばれた王妃様だけですので」
「……年代物ね」
ゴクリと唾を飲む。
たしか魔王の結婚式は約千年ぶりだったはずだ。
「ミラベル」
「はい」
私はシルフの手を借りて、身をかがめた。
ユリウスが私の頭にティアラを被せる。
「お、落としそうで怖い……」
「大丈夫ですよ、髪をそれ用に結い上げましたから」
そろりそろりと立ち上がる。
「…………すばらしい」
エルフが感極まったようにそう言った。
「ああ……千年前を思い出します……」
千年前、私の父方の祖父母が結婚をしたとき。
いったいどういう魔族たちだったのだろう。
祖父は賢者に厳しかったそうだけれど……。
「さて、では、ストラスが来ておりますのでお二人とも玉座の間に」
「結婚式の練習……?」
「いいえ」
エルフはゆるゆると首を横に振った。
「ストラスは画家です。お二人の肖像画を描かせます」
玉座の間に向かう前に画廊に寄った。
「これが、君の父だ、ミラベル」
一人で肖像画に収まっている魔王がいた。
なるほどアーダーベルトとよく似た角がついている。
「そしてこっちが……会ったことはないが君の祖父母だな」
千年前に結婚した魔王夫妻。
祖父は父と同じ角がついていて、祖母は尖った牙をしている。
「……祖母ってもしかして?」
「ヴァンパイア族だったと聞いている」
「じゃあ、私、ドラキュラやカーミラ嬢とも遠い親戚なのね……」
何もかも、知らないことばかりだった。
私達はしばらく父と祖父母の肖像画を眺めていた。
「ここに、私とユリウスが並ぶのね」
「……悲願、ですな」
しわがれた声が画廊の入り口からした。
振り返ると賢者がそこにいた。
「まあ、賢者先生」
「……先代魔王陛下は人間との婚姻を強く望まれていましたから……これがこうして少し変わった形とは言え成し遂げられる……すばらしいことです」
「……そう、ね」
私はずっと父に捨てられたと思っていた。
でも、むしろ、父は母に拒絶されていた。
母はどうして魔界には来なかったのだろう。
……私ほど、辛い人生ではなかったのかもしれない。
それとも生まれてくる私のためだったのだろうか。
あるいは、魔界がただ怖かったのか。
今となっては、もうわからない。
賢者は礼をして去って行った。
「…………」
「俺たちも行こうか、ミラベル」
ユリウスが優しく私の腕を取った。
「……エスコートが上手くなったわね」
「……最初に出会ったときのことを言っている?」
「ええ」
私は笑った。
「あの時はすまなかった……とにかく気が急いていた……」
「ちょっと怖かったわ」
「……すまない」
「いいの」
ユリウスの腕に支えられ、私達は玉座の間に向かった。
長時間、絵のモデルになるのは少し不安だったけれど、玉座の間では座って絵を描いてもらえた。
絵を描いてくれたストラスはカラスの姿で私達を待っていたけれど、絵を描くのに人間の体になった。
「変身……できるのですね」
「72族いる悪魔族の一部は変身ができます。私はその一部ですね」
「72……」
覚えられる気がしない。
「安心しろ、俺も魔王城によく出入りする奴しか覚えていない」
ユリウスが元気づけるようにそう言った。
長時間を経て、ストラスは満足げにうなずいた。
「仮絵ができました。結婚式には間に合わせますね」
「ありがとう、ストラスさん」
その後、仕立て部屋に戻り、私達は着替えると、自分たちの部屋に戻った。
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