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魔獣戦争
34話 絶体絶命
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魔族と正面で向き合って立つクロロ、レオの顔には、困惑と絶望が浮かんでいる。それを笑顔に見つめ、何も発さない先頭の魔族は、この状況を楽しんでいた。
ピリピリとした空気に沈黙が続き、今のところ一向に攻める気配がない。それが、精神面から追い詰められている心地だった。
そんな時、先頭に立つ魔族が口を開ける。
『十年前、俺達の仲間が一気に殺されたんだよ。一人の若い人間に。そいつを誘き寄せて殺すために、この計画を実行した。
だがな、急に隠れ家が爆発したんで、計画が狂っちまったよ』
リーダーらしき魔族は、最後の言葉を強調させながら、チラッとクラーレを見てニヤついた。爆発させた本人に、強い殺意を向ける圧が感じられる。
その話を聞いて、クロロとクラーレがセスキの方を見る。レオは、なぜ二人がセスキを見たのか分からなかった。
「それ、俺の親父じゃね……?」
『そいつはどこだ?』
セスキの言葉に、魔族はすぐさま反応して聞き出そうとした。セスキの父親が偉い人だとは前々から少し知っていたが、レオは初めて聞いた話に驚く。
怯えたように首をすくめると、おどおどした声で答えた。知らない、と言うと魔族の表情が無表情と冷えた目に変わる。機嫌を損ねてしまったことに、ゾッと鳥肌が立った。
『それじゃ、こいつらには用がないねぇ。ヒド、もう殺していいかしら? 私、さっきから無性にイライラが止まらないのよ』
『リン、簡単に殺しちゃ面白くない。痛ぶり苦しめようぜ』
『リン、ルクロ、落ち着けよ。俺は、肉体的にも精神的にも追い込めて、その崩れた表情をゆっくり見つめたいんだ。せかせかしなくても、こいつらは逃げられねえよ』
後ろで飛んでいた女の魔族が、先頭の魔族に提案した。すると、隣にいる黒い魔族が、リンという女の魔族に突っ込みを入れて指摘した。先頭の魔族はヒド、女の魔族はリン、黒い肌の魔族はルクロというらしい。
魔族達の不気味な会話に、四人は曇った表情をさせる。どうしようもない深刻な事様で、もうダメだと思ってしまう。しかし、クロロは自分の頬をパシンッと叩くと、何かを決意したような顔をした。
「これは、どうやっても勝てない。死を前提で戦うぞ。もう逃げられねえ俺たちにできることは、最後まで戦い抜くことだ」
クロロとレオがヒドに向かって走った。セスキが詠唱を唱え、結界魔法を次々に展開する。クラーレも勇気を出して、火や雷などの攻撃魔法を発動させた。ロック鳥は、リンやルクロに飛びかかる。
『遅い』
「うぐっ……」
しかし、それよりも遥かに早く、ヒドはレオ達に近づくと、クロロの腹を殴り、レオの首を締めた。桁違いの威力で、クロロは腹を押さえながら落下し、レオは必死にもがきながら足をジタバタさせる。持っていた剣で、魔族を刺そうとしたが、力が入らず皮膚の奥に通らない。
『すぐに死なれたら困るよ』
「かはっ……ゴホッ、ケホッ」
手を離した束の間、回し蹴りし横に吹っ飛んだ。やっと首が解放され、レオが咽せながらも慌てて呼吸をしあ。すると、休む暇もなく、物凄い勢いでヒドはボクシングのように殴る。胸ぐらを把持し、そのまま上空へとレオを投げた。
その後、地面に衝突する寸前のクロロの足を掴み、ぶんぶんと振り回しながらレオの所へ飛んでいく。そして、その遠心力の勢いも使って、上空から下降するレオに向かってクロロを投げた。
自動車同士がぶつかるような衝撃が生じる。クロロの手から剣が落ちた。
反撃することは一度もなく、攻められっぱなしが続いた。死んでしまう手前の手加減で、魔族は意図的にレオ達を苦しめる。
「キャーー!」
リンとルクトによって、ロック鳥の翼の骨が折れた。クラーレとセスキも一緒に、重力で墜落していった。こんな状況では結界魔法も張ることができなくなり、レオ達の空中戦も一方的に不利になる。クラーレは目をぎゅっと瞑り、これが早く終わることだけを祈った。
『おい、起きろ。おい、おい人間』
ヒデがレオの顔をパシパシと叩き、気絶した彼を起こそうとした。肩に意識を失っているクロロを乗せ、器用に左手でレオの服を引っ張りながら叩く。
すると、ハッと意識を戻した。視界がゆらゆらと揺れている。一瞬、何が起こっているのか分からず、思考が停止し、記憶も曖昧だったが、魔族の顔がはっきり見えると思い出した。そして、手から離れかけている剣を握りなおし、殺意を込めて首を狙う。
しかし、全く刃は進まなかった。手が震えて力が入らず、皮膚には一ミリも傷がつかない。
『勝手に失神しないでよね。ほら、仲間の死が見れないじゃん。こいつ死んだよ。お前に見せるために、いちいち肩に乗せたんだ』
目を閉じたクロロの顔が脳裏に焼き付く。意識を戻った束の間、見せつけられた人の死に思考が追いつかなかった。周りを見ると、人間は誰もいない。ロック鳥も、クラーレも、セスキもおらず、眼前ではクロロがぐったりを倒れている。
「死んだ」という言葉が、頭の中で繰り返し再生された。そして、やっと理解が追いつくと、気が狂わんばかりの喪失感がレオを襲った。
もう、誰も死なせないって決めたのに……。自分が弱いせいで、また誰かを守ることができなかった。
呆気なく、躊躇いもなく、死は突然やってきて残した人を後悔させる。失望にぐんと重くのしかかれ、がらんと胸に隙間ができた気持ちになった。
『あー、そうそう! そういう顔が見たかったんだ。一番真面目で、優しそうな顔しているからさあ、やりがいがあると思ったんだよねー』
愕然としたレオの表情が、みるみる雑巾を引き絞るように歪み始めた。青ざめた苦しげな表情に、魔族はさぞ嬉しそうな声をだす。
レオの反応を見ると、欲が出てきたヒドは言葉で逃路もないように追い詰める。
『でもさー、君らもやってるよね。魔獣たくさん殺してきたくせに、仲間が死ぬと反応が違うなんて、自己中だと思わない? 俺達の仲間もさ、人間に殺されたんだよ。おあいっこでしょ』
魔族は、レオに事実を告げる。レオ自身も知っていた嫌な事実。ヒドは耳元で何度も囁き、人間の醜い性質を吹き込んだ。
好青年の優しい顔は、化け物のような笑みに変わっている。最初に作っていた微笑みと違い、化けの皮が剥がれたように狂気に満ちた笑みだった。
ピリピリとした空気に沈黙が続き、今のところ一向に攻める気配がない。それが、精神面から追い詰められている心地だった。
そんな時、先頭に立つ魔族が口を開ける。
『十年前、俺達の仲間が一気に殺されたんだよ。一人の若い人間に。そいつを誘き寄せて殺すために、この計画を実行した。
だがな、急に隠れ家が爆発したんで、計画が狂っちまったよ』
リーダーらしき魔族は、最後の言葉を強調させながら、チラッとクラーレを見てニヤついた。爆発させた本人に、強い殺意を向ける圧が感じられる。
その話を聞いて、クロロとクラーレがセスキの方を見る。レオは、なぜ二人がセスキを見たのか分からなかった。
「それ、俺の親父じゃね……?」
『そいつはどこだ?』
セスキの言葉に、魔族はすぐさま反応して聞き出そうとした。セスキの父親が偉い人だとは前々から少し知っていたが、レオは初めて聞いた話に驚く。
怯えたように首をすくめると、おどおどした声で答えた。知らない、と言うと魔族の表情が無表情と冷えた目に変わる。機嫌を損ねてしまったことに、ゾッと鳥肌が立った。
『それじゃ、こいつらには用がないねぇ。ヒド、もう殺していいかしら? 私、さっきから無性にイライラが止まらないのよ』
『リン、簡単に殺しちゃ面白くない。痛ぶり苦しめようぜ』
『リン、ルクロ、落ち着けよ。俺は、肉体的にも精神的にも追い込めて、その崩れた表情をゆっくり見つめたいんだ。せかせかしなくても、こいつらは逃げられねえよ』
後ろで飛んでいた女の魔族が、先頭の魔族に提案した。すると、隣にいる黒い魔族が、リンという女の魔族に突っ込みを入れて指摘した。先頭の魔族はヒド、女の魔族はリン、黒い肌の魔族はルクロというらしい。
魔族達の不気味な会話に、四人は曇った表情をさせる。どうしようもない深刻な事様で、もうダメだと思ってしまう。しかし、クロロは自分の頬をパシンッと叩くと、何かを決意したような顔をした。
「これは、どうやっても勝てない。死を前提で戦うぞ。もう逃げられねえ俺たちにできることは、最後まで戦い抜くことだ」
クロロとレオがヒドに向かって走った。セスキが詠唱を唱え、結界魔法を次々に展開する。クラーレも勇気を出して、火や雷などの攻撃魔法を発動させた。ロック鳥は、リンやルクロに飛びかかる。
『遅い』
「うぐっ……」
しかし、それよりも遥かに早く、ヒドはレオ達に近づくと、クロロの腹を殴り、レオの首を締めた。桁違いの威力で、クロロは腹を押さえながら落下し、レオは必死にもがきながら足をジタバタさせる。持っていた剣で、魔族を刺そうとしたが、力が入らず皮膚の奥に通らない。
『すぐに死なれたら困るよ』
「かはっ……ゴホッ、ケホッ」
手を離した束の間、回し蹴りし横に吹っ飛んだ。やっと首が解放され、レオが咽せながらも慌てて呼吸をしあ。すると、休む暇もなく、物凄い勢いでヒドはボクシングのように殴る。胸ぐらを把持し、そのまま上空へとレオを投げた。
その後、地面に衝突する寸前のクロロの足を掴み、ぶんぶんと振り回しながらレオの所へ飛んでいく。そして、その遠心力の勢いも使って、上空から下降するレオに向かってクロロを投げた。
自動車同士がぶつかるような衝撃が生じる。クロロの手から剣が落ちた。
反撃することは一度もなく、攻められっぱなしが続いた。死んでしまう手前の手加減で、魔族は意図的にレオ達を苦しめる。
「キャーー!」
リンとルクトによって、ロック鳥の翼の骨が折れた。クラーレとセスキも一緒に、重力で墜落していった。こんな状況では結界魔法も張ることができなくなり、レオ達の空中戦も一方的に不利になる。クラーレは目をぎゅっと瞑り、これが早く終わることだけを祈った。
『おい、起きろ。おい、おい人間』
ヒデがレオの顔をパシパシと叩き、気絶した彼を起こそうとした。肩に意識を失っているクロロを乗せ、器用に左手でレオの服を引っ張りながら叩く。
すると、ハッと意識を戻した。視界がゆらゆらと揺れている。一瞬、何が起こっているのか分からず、思考が停止し、記憶も曖昧だったが、魔族の顔がはっきり見えると思い出した。そして、手から離れかけている剣を握りなおし、殺意を込めて首を狙う。
しかし、全く刃は進まなかった。手が震えて力が入らず、皮膚には一ミリも傷がつかない。
『勝手に失神しないでよね。ほら、仲間の死が見れないじゃん。こいつ死んだよ。お前に見せるために、いちいち肩に乗せたんだ』
目を閉じたクロロの顔が脳裏に焼き付く。意識を戻った束の間、見せつけられた人の死に思考が追いつかなかった。周りを見ると、人間は誰もいない。ロック鳥も、クラーレも、セスキもおらず、眼前ではクロロがぐったりを倒れている。
「死んだ」という言葉が、頭の中で繰り返し再生された。そして、やっと理解が追いつくと、気が狂わんばかりの喪失感がレオを襲った。
もう、誰も死なせないって決めたのに……。自分が弱いせいで、また誰かを守ることができなかった。
呆気なく、躊躇いもなく、死は突然やってきて残した人を後悔させる。失望にぐんと重くのしかかれ、がらんと胸に隙間ができた気持ちになった。
『あー、そうそう! そういう顔が見たかったんだ。一番真面目で、優しそうな顔しているからさあ、やりがいがあると思ったんだよねー』
愕然としたレオの表情が、みるみる雑巾を引き絞るように歪み始めた。青ざめた苦しげな表情に、魔族はさぞ嬉しそうな声をだす。
レオの反応を見ると、欲が出てきたヒドは言葉で逃路もないように追い詰める。
『でもさー、君らもやってるよね。魔獣たくさん殺してきたくせに、仲間が死ぬと反応が違うなんて、自己中だと思わない? 俺達の仲間もさ、人間に殺されたんだよ。おあいっこでしょ』
魔族は、レオに事実を告げる。レオ自身も知っていた嫌な事実。ヒドは耳元で何度も囁き、人間の醜い性質を吹き込んだ。
好青年の優しい顔は、化け物のような笑みに変わっている。最初に作っていた微笑みと違い、化けの皮が剥がれたように狂気に満ちた笑みだった。
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