シニカル ショート ストーリーズ

直木俊

文字の大きさ
73 / 99

新一年生のみんなへ

しおりを挟む
俊介という小学一年生の少年がいた。

彼は、おばあちゃん子で甘やかされて育った。兄弟は活発で頭の良い兄がいる。父親は別居状態で、年に数回しか家に帰らない。一家の家計は、母親の稼ぎと、祖母の年金でまかなわれていた。

幼稚園には行かず、保育園児から小学生になった為、授業というものには全く馴染めなかった。なぜ、みんな黙って座っているのか意味が分からなかった。頑固なほど宿題などの提出物は出さず、毎日のようにみんなの前で先生に叱られていた。

なぜ、宿題をしなかったのか?それは、家で鉛筆で何かを書くという発想がなかったのだ。家はあくまでも遊んだり、テレビを見る場所なのだ。しかし、先生からのお小言が書き連なった連絡帳に、保護者印を押して提出するという悪知恵だけは持ち合わせていた。

ある日、いつものように教科書を忘れたので、となりの子に見せてもらう事となった。
その時、先生が、
「俊介君!こんな時、どんなふうに言うのですか?」

「ご、ごめんなさい。」
と、俊介が言うと、クラス一同、笑いに包まれた。

「お友達に何かをやって貰ったときは、“ありがとう”ですよ!」

俊介は、大人に囲まれて育った為、ごめんくださいませ、のように、「ありがとう」を使ったという意味もあるが、「ありがとう」では、反省していないようで、軽いと感じたのだ。なので、「ありがとう」を省略し、行間に忍ばせ、「ごめんなさい」と言ったのだが、先生も分かる筈も無い。

しかも、申し訳ないと思う位なら、最初から、教科書を忘れなければ良いだけだ。しかし、彼には、確固たる信念があったのだ。意味を理解出来ない物はやらないと。俊介に教育の意義を教えるものは、誰一人居なかったのだ。

特に算数は、最初の段階で挫折した。まず、授業では数の数え方を教えられると思うが、なぜ、ゼロから初めてはいけないのか、ゼロとは何なのかが分からず、数えられなくなったのだ。

美術の時間には、まず背景から塗り始め、終了時間には、一面水色に塗られた紙が出来上がった。母親は参観日に「わからん」と名付けられた謎の絵と遭遇する事になる。(題名は先生の聞き取りにより本人の答えをそのままを書き写したものである)

母親は、仕事の忙しさもあり、この謎の生物を早くから諦めていた。兄は見込みがあるので、俊介は、適当に育ってさえいれば、良しとしようと早くから妥協していたのであった。

ある日、俊介のクラスメートは、俊介の机の裏側に、信じられない量の、乾いて固まったハナクソを発見した。その後、クラス全体が恐怖に包まれた事は言うまでもない。

そんな俊介にも、たった一つの特技があった。だれがうんこをしたいかを言い当てることが出来るのだ。顔色、体の動き、醸し出すオーラなどから、敏感に感じ取るのだ。その精度は、百発百中といっても差し支えなかった。

その時代、トイレの大に行くことは死を意味していた。大便器の扉が閉まっていると、大騒ぎになり個室から出てくるまで、皆が息を呑んで待ち構えている。そして一ヶ月は「うんこ」というあだ名で呼ばれるので、学校でうんこをする強者などいなかったのだ。

そんな状況で、俊介の鋭い観察眼にかかった者は、クラス全員の監視下に置かれることになる。まさに生き地獄と言って良いだろう。

しかし、神はそんな俊介の悪行を見逃すはずはなかった。

ある日、汚れたパンツを入れたビニール袋を持った、俊介のおばあちゃんが学校の廊下で先生に頭を下げている場面が、通りがかった生徒により目撃されたという。俊介は最大級のあやまちを犯し学校中の伝説となった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

今日の怖い話

海藤日本
ホラー
出来るだけ毎日怖い話やゾッとする話を投稿します。 一話完結です。暇潰しにどうぞ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...