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泊めていただけるようです。
しおりを挟む「え…なんで…」
目元まで伸びた前髪とかけられている眼鏡でハッキリとは見えませんでしたが、私を捉えた瞳は動揺で揺れ、驚いたようにその場で立ち上がり後退りをする。
「う、うわぁ!」
足元に本が積み重なっていたせいで、後退した時に足に引っかかりそのままに後ろに倒れてしまう。
「あの、大丈夫ですか?」
どしんとお尻を打ち付けたように見えますが、大丈夫なのでしょうか。
心配で手を差し伸べれば、肌荒れで所々赤くなっていたお顔全体が真っ赤に染る。
「だ、だだだだだだ大丈夫だ!ど、どうして貴女みたいな人が僕の所へなんて来たんですか!?」
顔を隠すように両腕を前に出されてしまいました。
私は何かに彼にとって嫌なことでもしてしまったのでしょうか。
「突然訪問してしまい申し訳ありません。少し困ったことがございまして、厚かましくも助けていただけないかとこちらまで訪問してしまったのです」
「困ったこと…?」
「はい…。ですが、やはり不躾ですよね。読書をされていたのに手を止めてしまい申し訳ありませんでした。それでは、私は失礼させていただきます」
やはり突然の訪問は失礼でしたよね。
せっかく寛がれていたというのに邪魔をしてしまいましたし、私の顔をあまり見たくないようですし、早くこの方の前から去らなければいけませんわ。
「待って…」
お辞儀をして去ろうとすると、ワーズス様に声をかけられる。返事を返さないのは失礼なので足を止めて振り返る。
「どう、いたしましたか?」
「…………先程、困ったことと言いましたが、どうされたのですか?」
もう腕で顔を隠してはいませんが、顔を背けて未だに私を見ようとして下さらないワーズス様が質問をされる。
その様子に、もしかするとルーファス様が提案されたの婚約は、ワーズス様の意志関係なく私が一方的に結んでしまったものなのかも知れないと思い至る。
知りもしない私が勝手にワーズス様との婚約を結んでしまったのなら、こんなにも私を嫌う素振りをすることに納得がいきますわ…。
まさか渡りに船だと思ったルーファス様の提案が他者に不快な思いをさせてしまうなんて、本当に申し訳ありませんわ…。
私が目の前にいることはこの方にとって不愉快でしょうに、私が何に困っているのかを聞いてくださるなんて、なんてお優しい方なのでしょう。
そんな方に余計な心配をさせてしまうのは本意ではありませんわ。
「いえ、大したものではございませんので、どうかお忘れください」
「わざわざここに訪ねてきたのですから、それなりの事があるのでしょう。だいたい予想はつきますから、言ってください。きっと私ならお役に立てると思いますので」
どこか投げやりな言い方でワーズス様は言ってくださる。
確かにワーズス様なら解決して下さるとは思いますが、私のことを不快に思ってらっしゃる方にこんな事をお願いしてもいいのでしょうか…。
言おうか言わまいか悩んでいると、ワーズス様の近くにたっているサラさんと目が合う。
サラさんが困った様に笑いながらも、私に話すようにと頷いてくれる。
「そ、その…実は家から出ていくように言われまして、不躾なお願いだとは重々承知していますが、どうか私をここに少しの間住まわせては頂けないでしょうか…」
サラさんに勇気をもらってお願いをしてみましたが、言ってしまっても良かったのでしょうか。
ワーズス様の髪と眼鏡で半分ほど隠れているお顔を見れば…………何故かポカンとした顔をされていました。
「家から、追い出された…?」
「は、はい。恥ずかしながら、父の怒りを買ってしまいまして…」
「そんなこと、ですか……なんだ、僕はてっきり…この婚約を…いや、それよりも部屋なら余っていますので好きなだけ泊まって頂いて構いません」
「本当ですか!ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
何故か安堵のため息をつきながら私の願いを聞いてくださったワーズス様に深く頭を下げる。
知らせもせず訪問した私の願いを聞いてくださるなんて、本当にワーズス様はお優しい方ですわ。
おそらく私が一方的に結んでしまった婚約ですが、ワーズス様が婚約者になって下さって本当に良かったですわ。
「本当にありがとうございます!」
「そんなに頭を下げられると困ります…。書類上とは言え、私達は、その…こ、婚約者、なのですから、これくらい当然です」
私が一方的に結んでしまった婚約なのに、私を婚約者として扱って下さるなんて本当にお優しい方ですわ。
ワーズス様に感謝してもしきれませんわ。
ですが、これ以上感謝をすればこの方を困らせてしまうでしょうから、心の中で感謝させて頂きましょう。
「サラ、マルクス嬢を部屋に案内してくれ」
「もちろんです!」
ワーズス様の指示によってサラが部屋まで案内してくれる。
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