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しおりを挟む会場を出て連れてこられたのは、馬車の待合室。
「はぁ…疲れた…」
「お嬢様、まだ終わってないのですから、そんなに気を緩めないでください」
椅子の背にだらんともたれかかれば、ラルクから注意が飛ぶ。その表情には、さっきまでの必死さは全くなく、とても落ち着き払っている。
「いやぁ、それにしてもさっきは名演技だったよ。あの会場にいる人達は絶対に騙されたね」
「ですから、まだ終わってないのですから口調にも気をつけてくださいね」
「はーい」
「全然気を付ける気無いですね?」
呆れるラルクに肩を竦ませておく。
「だって、ですわ、とか言いたくないんだもん。なんで皆あんな硬っ苦しい話し方しか出来ないのかなぁ。ホント私、貴族に生まれるべきじゃなかったと思うのよね」
「それ平民に言ったら袋叩きにされるんで気を付けてくださいね」
「でも事実なんだもん」
「確かに、お茶の時間より畑仕事が好きだと豪語する君は、皇后には相応しくないな」
ラルクとの会話に、聞きなれた声が参加してくる。
「あ、ヒルデガルト。さっきはいい演技だったよ。アリスちゃんも、よく頑張ってくれたね」
偉い、偉い、とアリスちゃんの頭を撫でれば、アイリちゃんが私に抱き着いてくる。
「クラリス様!私達のために、あんな目に遭わせてしまって、本当にごめんなさい!」
今にも泣き出しそうなアイリちゃんに苦笑して、落ち着くように背中を撫でてあげる。
「あれは私達のためでもあったから、アリスちゃんが罪悪感を感じることは無いんだよ」
「…でも、クラリス様は皆さんが言うような悪い事は何もしていませんし…平民の私にも気さくに接してくださる素敵なお方なのに…」
「あはは、そこまで言われると照れちゃうな。でも、私達の願いを叶えるには、あの方法が1番良かったと思うよ。でしょ?」
ヒルデガルトに話を振れば、素直に頷いてくれる。
「そうだな。俺はアリスと結婚を望んでいて、クラリスは執事のラルクと共にいることを望んでいるのだから。これくらいしなければ周りも納得しなかっただろうな」
「でも…」
「良いんだよ、アリスちゃん。これは私自身が望んだ事なんだから」
断罪される事も、廃嫡される事も、追放されることも。
そもそも、私がヒルデガルトと婚約をしたのも互いの利害が一致したからだ。
私は元々令嬢としての言葉使いや振る舞いが嫌いで、いつも貴族社会から逃げ出したいと思っていた。そんな時に、気まぐれでこの国に仕事を探しに来ていた、当時12歳のラルクを拾い、私専属の執事にした。
ラルクの故郷での話はとても魅力的で、いつしか私もそこで暮らしたいと夢見るようになった。そして、願わくば、ラルクのお嫁さんになりたいと。
だけど、私の両親は家紋を繁栄させることしか考えていなくて、私の結婚も政略的な面でしか見ていなかった。口を開けば、『家紋のために、良き相手と結婚をしろ』と言っていた。
そんな両親に、ラルクへの気持ちや、家を出たいなんて口が裂けても言えなかった。
そんな時、女性から過度なアプローチをされ続けて女性恐怖症になりかけていたヒルデガルトと会い、互いに婚約のことで何も言われたくないと思っていたので、利害が一致して婚約を結ぶことになった。
互いに恋愛感情を抱くことは全くなかったけど、友達としては最高の仲だったと思う。お互いになんでも話し合えて、ラルクとの事も相談出来て、おかげでラルクと恋人関係になれて、いいことしか無かった。
そして、15歳になり学校へ入学すると同時にヒルデガルトとアリスは互いに一目惚れをした。私とラルクを結び付けてくれたお返しに、私も2人が心大きなく愛し合えるようにある計画を立てた。
その名も、クラリス悪女計画だ!
この計画名を言った時に、ラルクとヒルデガルトから冷たい視線をもらったけど、アリスは真剣に話を聞いてくれた。
計画の内容は至って簡単。
私がヒルデガルトと仲のいいアリスに嫉妬して虐めているように見せ掛け、ついでに周りにも横暴な態度を取って周りから嫌われていく。
そして、卒業パーティに大罪を侵してアリスにそれを見つけさせ、私は罰を受けて廃嫡、追放、追放先でラルクと幸せに暮らす。アリスは国を守った事でヒルデガルトとの仲が認められ、国王公認カップルに。そしていずれは結婚して2人幸せに…。
というものだったけど、正直、こんなにも上手くいくとは思ってなくて、断罪イベントには笑いそうになってしまった。
「お嬢様、顔がにやけてますよ」
「つい、ね。計画通りに行ってよかった!それと、私はもうお嬢様じゃなくて、ただのクラリスだからね」
「……分かってる。クラリス」
ぐはっ!タメ口に呼び捨てなんて、なんて素晴らしいの!
「胸押さえんな…」
呆れながら乱暴な口調もまたいい!
「おほん。クラリス、嬉しいのは分かるけど、もうすぐ僕たちの別れの時間が近付いてきているから、話をしてもいいかな」
「あ、ごめんなさい。つい、嬉しくて」
ラルクに興奮してしまったけど、これからラルクの故郷に行くということは、もうヒルデガルトとアリスちゃんには会えないという事。だから、ちゃんとお別れの挨拶はしておかないと。
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