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56、アレックス視点
しおりを挟む殺風景な小屋の中に、唯一置かれている古びた収納机の引き出しを開ける。
「思ったほど無いな…」
中にあったのは、今入れられたであろう手紙と、2通の手紙しか無かった。皇后陛下が嫁いで来られてから2年は経つので、もっと量があるかと思っていたが…。
もしかすると定期的に処分しているのかもしれない。とりあえず、中に入っている手紙を手に取って中を確認する。
「マシか…」
手紙を読み進めて行くうちに、段々と眉間にシワが寄っていく。
これは皇后陛下が妊娠されてからクライアンス公に送ったものなのだろうが、内容が全く穏やかではない。
皇帝の子を身ごもったので、どうか返事をください。から始まり、この城で受けている不当な扱いや、イザベラ様からの陰湿な言葉の嫌がらせに耐えられないこと、皇后陛下について出回っている噂は全て嘘だと弁解している旨が書かれていた。
どれも衝撃的な内容だが、皇后陛下に予算が全然回っていないのはどういう事だ。予算についての書類には十分な金額が記載されていたはずなのに…。
まさか、どこかで横領がされている…?
これについても要調査だな。
今度はクライアンス公から皇后陛下宛に送られてきた手紙を確認すれば、皇后陛下をとても心配している旨が書かれていた。
そりゃ、嫁いだ娘からおそらく1度も連絡が無ければ心配するのも当たり前だよな。
次の手紙もクライアンス公の物か、さっき執事長が確認していた物だな。この手紙も、会えなくて寂しいというもののようだ。
手紙に関しては、これ以上収穫はなさそ…。
「ん?」
手紙を封筒の中へ戻そうとした時に、封筒が二重になっているのに気づく。そして、重なった内側の方に、微かだが文字が書かれているのが見える。
封筒を綺麗に割く為にペーパーカッターが無いかと別の引き出しを開けてみる。そうすれば…。
「なんでこんなものがここに…」
何故か公爵しか持っていないはずの、クライアンス家の紋が入った印が引き出しから出てくる。
今持っている手紙に押された印と比べれば、微妙な違いはあるが、かなり似せて作られているのが分かる。一体なんのためにこんな物がここにあるんだ…。
それに、公爵家の印を偽装するなんて大罪だぞ。即刻首が飛んでもおかしくない事を、まさかこの城内で行われていたなんて信じられない。
こんな事がバレれば大変な事になるくらい容易に想像出来るだろうに、そうしてしまうという事は、バレないという確証があるという事なのか…。
どうかは分からないが、この事はルミリオに報告する必要があるな。
とりあえず、ペーパーカッターはなさそうなので、これも一緒に持っていくか。
一応他にも怪しいものがないか全ての引き出しを確認したが、特に収穫はなかったので、偽装された印と手紙を持って外へ出る。一旦この事をルミリオに伝えてからもう1つの調査に向かおうかな。
それにしても、こんな場所よく見つけたよな。こんなに奥まで来るのは庭師くらいしかいないんじゃないか?執事長について来なかったら、絶対にたどり着けなかっただろう場所だし。
帰りは来た道を戻ればいいから問題ないが、またここに1人で来いと言われてもすんなり来れるかどうか…。一応帰る途中に木に目印でも付けておくか。
木の根っこの方に石で気付かれない程度に傷を付けておく。それを何度か繰り返していると、遠くの方に開けた場所を見つける。
ほぼ初めて来た場所だし、あんなところもあるんだな。なんて呑気に眺めていたら。
ボロボロのメイド服を着て、至る所に痛々しい傷がある女性が木に括り付けられているのが視界に映り込んできた。
「…は!?」
何故あんな状態になっているのかは分からないが、すぐに走り寄って縛られている縄を解いて満身創痍の女性を解放する。
「おい、大丈夫か!おい!」
声を掛けても意識が朦朧としている様で、うわ言のように何かを言っている。
「リア……リ、ァム、さま…」
「リアム様?」
そういえば、この女性をどこかで見たことがある。顔にも叩かれた後や擦り傷みたいなのがあって分かりにくいが、確かこの女性は…。
リアム様の乳母じゃないか!
「おい、一体何があったんだ!おい、しっかりしろ!」
「たす、け…」
「助けるって何を!っ、まずはアンタの治療が先だ」
何かを言おうとしている様だが、息をするのもやっとのようで、意識もすぐに途切れてしまいそうだ。とりあえず、彼女を治療出来る場所に連れて行かないと!
「っ、」
抱き上げた彼女はかなり痩せていて驚く。まるで、何日も食事を取っていなかった人の様だ。
どういう経緯でああなっていたのかは全く検討がつかないが、誰かに彼女を連れて行くところを見られるのは良くないだろう。それも、イザベラ様側の人間には絶対に見つかってはいけない。
おそらく、彼女をあそこへ放置したのはイザベラ様側の人間だろう。でなければ、リアム様の乳母がこんな状態で放って置かれるはずがない。普通なら、乳母が姿を消したとなれば探すだろうしな。
だが、イザベラ様の目となる人間がそこら中にいるこの場所で、どうやって見つからないように移動すればいいんだ…。それに、何処に彼女を匿えばいいんだ。彼女を覆えるような物は持っていないし、どこかで布でも調達出来ればいいんだが。
苦しそうに顔を歪める彼女を抱き上げながら周りを見回す。
そういえば、ここから行けば人に見つからずにキッチンの裏口にたどり着けるんじゃないか?キッチンなら使用済みの箱や布袋があるだろうし、一旦そこに行って彼女を隠す何かを調達するか。
人が居ないのを確認して裏口からキッチンに入り、じゃがいもが入っていた布袋を拝借する。そして、木の影に隠れるように座らせた彼女にそれを被せて肩に背負う。
そして、あの場所へと彼女を連れて行く。あそこなら、きっと彼女も安全だろうし、ゆっくり休めるはずだ。
彼女を預けて、ルミリオに手紙の調査で知った事を報告する。そうすれば、ルミリオは何も言わずに手を握りしめてからゆっくりと顔を上げて静かに言った。
「今すぐにその執事長をここに連れて来い」
「承知致しました」
どうやらかなり頭に来ているようだ。執事長の首が物理的に飛ぶ未来しか見えないな。した事がした事なので同情すら出来ないが、頑張れと言いたくなる。
おそらく、首が飛ぶ前に死んだ方がマシだと思える程のことが待っているだろうから。
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