嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ

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58、皇帝視点

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「それで…お前はラザ孤児院の出身だと?お前は確か貴族出身だと書類には書かれていたはずだが」
「それはイザベラ様が、ここで働く為にはそれなりの身分が必要だからと、私の籍を知り合いの貴族に入れさせたのです」
「何故そんなことを…」
「イザベラ様の手足になって動く人間が欲しかったからだと思います」


命が掛かっているからか、執事長はペラペラと躊躇いもなく口を開く。私としては手間が省けていいが、ここまで簡単に話をされれば信じていいものか疑いたくなる。だが、聞き出せる事は全て聞き、後で調べさせるのが一番良いだろう。


「イザベラは何故そんなものを欲しがったんだ」
「それは…この城で思い通りに動きたかったからではないでしょうか…」


急に歯切れが悪くなる執事長に眉をひそめる。そうすれば、分かりやすく目を逸らされる。


「どうやら私に隠し事があるようだな」
「いえ、そんな!ただ、私の口からはとても言えることではなくて」
「それはどういうことだ」
「ヒッ!も、申し訳ありません!で、ですが、この事については直接イザベラ様にお聞きしてくださいませ!お願い致します!」


怯えながら頭を床に擦りつけながら話す執事長に、これ以上この話をしていても時間の無駄だと考え次の話題に移る。本当に聞きたければいくらでも方法はあるのだし、1つの質問に時間を使うのが惜しい。


「わかった。では、皇后が受けるはずだった予算はどこに消えた」
「それは…私もよく分かりません…。ほ、本当です!イザベラ様が其れについては全て管理されていましたので!私は何も知らないのです!」


これについては本当に知らないみたいだな。


「ならば、イザベラ以外に知っていそうな人間は居ないのか?」
「どうでしょうか…。あ!ギ、ギルバート様!あの方なら何か知っているかもしれません!」
「ギルバート…誰だそれは」
「城内の騎士の1人です!」


何故騎士が皇后の予算について知っている可能性があるんだ…。それも、その騎士に対して様付けをする理由もわからない。


「一体その騎士は何者なんだ。何故そんなことを知っている可能性があるんだ」
「それは…あの方が、おそらくイザベラ様の大切な方だからかと…」
「………イザベラに大切な人がいるなんて話は1度も聞いたことがないが?」


イザベラに対して1度も恋心などは抱いたことがない。だが、私の事を家族のように思っていると言っていた彼女が、大切な人が居ることを私に告げなかった事に対して動揺する。


リアムが出来た以上、形式として婚姻を結ぶ事にはなったが、そんな人間が居るのなら相談してくれれば良かったのに。そうすれば、彼女がその人間と過ごせるようにリアムだけを引き取る事だって出来。それなのに、何故言わなかったんだ。


「私も確証があるわけではありませんし、イザベラ様も彼との仲を隠しているようですので…。ただ、おふたりが密会されるのを1度だけ見た時は、とても仲睦まじく愛し合っておられるように見えたので…」


隠れてまで会いたいのなら、初めから私の妻にならなければ良かったのに…。仮に、リアムを産んでから恋仲になったとしても、相談してくれればイザベラが幸せになれる方法を共に探したのに。


いや、そもそも、恋愛感情もない私とどうして子供が出来るようなことをしたんだ。


あの時は、私も父が急死して激しく動揺していたため、正常な判断は取れなかった。だが、慰めてくれたのは彼女からで、私からは手を出そうとも微塵も思っていたなかった。


そういえば…動揺していたとはいえ、そういう感情が全く起きなかった私が、どうしてイザベラを抱けたのか…。


イザベラからは、気が動転していればそういう事もある、と言われてあの時は納得してしまったが…。


今になってあの頃のことを思えば、あの時の自分は普通ではなかった。あれはまるで、皇后から渡された薬を飲んだ時のよう、だった…。


「っ!」


そこまで考えてハッとする。


いや、そんなはずはない…。
イザベラは、イザベラだけは私の事を理解して共に居てくれたんだ。だから、イザベラがそんなことをするわけが…。


『イザベラ様を信じるのは止めて、私の話を聞いて下さい…お願い致します…』


そんな悲痛な声が、記憶の奥底から聞こえてくる。
私が微睡んでいる時に涙を流しながらそう言っていたのは、夜を共にした次の朝の皇后だったか…。


あの時は、まだ頭が覚醒していなかったので勘違いかと思っていた。だが、あの時の彼女の声が聞き間違いでは無かったのなら…。


あの時の皇后の言葉を受け止めて、イザベラの全てを信じず何が正しいのかを明らかにすべきだ。


長年信じてきた彼女を疑う事は心苦しいが、彼女のせいで皇后が辛い思いをしているのなら覚悟を決めよう。もう夜に近付きつつあるが、皇后の憂いが払えるのなら早い方がいい。


「イザベラとギルバートと言う男を呼んできてくれ」
「承知しました」
「あの、私は…」
「お前も話に参加しろ。今から来る2人の顔色を伺って私に嘘でも付けば、即刻その首が飛ぶと理解しておけよ」
「も、もちろんです!陛下に嘘など絶対に付かないと神に誓います!」


人の顔色ばかり疑ってくるこの男を完全に信用する気は無いが、執事長という立場なら知っていることも多いだろう。


さて、これで役者が揃う。


今日は長い夜になりそうだ…。

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