寝坊少年の悩みの種

KT

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第四章 文化祭と秘めた気持ち

4-5

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「文化祭! スタート!」
 三年生の先輩方と一部教師の方がお送りする文化祭オープニング。終始謎のハイテンションで置いてけぼりに思った生徒もいただろうが、これは楽しんだもの勝ち、内輪ウケ上等のロングコントだ。ちょっとクサいくらいがちょうどいい。
「おおー、なんだか文化祭が始まったって感じだな!」
 後藤のように興奮するのが正しい楽しみ方なのだ。
「それでは各クラス、準備に入ってください。今から一時間後に―――」
 来客に向けてのいろいろな注意事項がアナウンスされている。俺達は指示通り準備に入るとするか。

「これでよしっと」
 化粧をし、かつらをかぶり女子の制服を着る。サイズはばっちりだ。
「やっぱり遠藤君化粧映えするね」
 特徴のない顔だとでも言いたいのだろうか。正直まったくうれしくない。
「こらこら、目元気をつけてよ。気を抜くと目つき悪くなるんだから」
 メイク担当の女子の伊藤さんはそういいながら、今度は委員長のメイクがあるからと隣の教室に向かっていった。そういえば委員長の男装はまだ見てないな。
「橋本さんの男装気になるよな。それにしても遠藤似合ってるな。足も細いし美脚じゃん。これは下手したらそこらの女子より……」
「やめろ後藤。そんな目で俺を見るな気持ち悪い」
 後藤を前にした女子の気持ちが少しわかったような気がした。
「冗談だって。俺にそっちの気は無いから安心しろよ」
 こいつなら案外両刀でもおかしくはない。そう疑いの目を向けていると隣の教室で委員長の準備ができたのか、おおーと歓声が聞こえた。
 しばらくするとこちらにやってきた。少し恥ずかしそうにしながら準備中の教室に戻ってくる委員長。
「ど、どうですか? 結構いい感じじゃないかと思ってるんですが」
 親父のスーツのサイズは少し大きめだが、それがかえって体の細さを目立たなくしていた。かといって大きすぎるわけでもなく、しっかりと着こなされたスーツにきりっとした委員長の顔が映える。違和感はまるでなく、長い髪はまとめてポニーテールにしていた。
 まさしく男装の麗人といった言葉がピッタリとあてはまる。というかイケメンすぎる。
「すげーかっこいい!」
「話を聞いて時はどうかと思ったけど、これはかなりいいな」
「遠藤の奴、女装が板についているうえに委員長に男装が似合うのを見抜いたとは、やはり只者ではなかったか」
「瑞穂ちゃん! 抱いて!」
 変なことを口走っている者もいたが、みんなの反応はかなり良好だ。
「うん、かっこいいし、とっても綺麗だな」
 俺も素直な感想を述べた。
「き、綺麗って……ありがとう。あなたも可愛いわよ」
「それは嬉しくないんだが……」

 準備の一時間が終わり、本格的に校舎内は賑わいを見せる。外部からのお客さんもそれなりにいてちらほらと他所の学校の制服も見える。
「それじゃあ遠藤君はそろそろ校内の巡回始めちゃおうか。忙しくなるのはもう少し後だと思うけどそれまでには戻っておいてね」
 責任者の武田さんに指示を飛ばされる。とうとう覚悟を決めなければならんか。
「了解、行ってきます」
 俺は教室の場所と企画の内容が簡易的に書かれた札をもって、人混みの中に一歩踏み出した。

 結論から言おう。他校の生徒に結構な頻度で声をかけられ、その度に声で男と気づいた相手の男は何とも言えない顔で、店に行くことを約束してくれた。
 おそらく女だと思って声をかけてきたのだろうが、俺って結構イケてるのだろうか。なんだか楽しくなってきたかもしれない……はっ! いかんいかん、これが女装の一度やったらやめられなくなると言われる所以か。自分の顔を両手で叩き、俺は自分たちのクラスの戻ることにした。

 戻ってきた時間はちょうどよかったらしく、教室の前には少しだけ人だかりができていた。
「あっ! 遠藤君ナイスタイミング! 早く中に入って!」
「はーい」
 中から声をかけられて俺が返事をすると、何人かの人が振り返って俺の方を向き、揃って首をかしげていた。
 中に入るとお客さんが席についている。接客は主に女子がやることになっているため、男性客が多くなるんじゃないかと予想されていたが、女性客、とくに女子生徒が多く陣取っていた。
 武田さん曰く、委員長の男装のうわさを聞き付けた女子生徒が開店する前から並んでいたらしい。すげえな委員長。

 しばらく接客をしていると俺の見知った顔も来てくれた。
「おっす早織」
「えっ? 嘘、弘治!? 全然誰かわからなかったよ。ていうか似合いすぎ?」
 彼女は俺の女装を見て目を丸くしている。一緒に来た体育科の女子生徒と思しき人たちもびっくりしているようだ。
 俺、やっぱりイケてる……じゃなくて、俺もさすがにこういった反応には慣れてきていたため普通に接客をする。
「それではこちらへ。飲み物は何にいたしますか? お菓子もありますよ」
「その格好でそんな声で話されると違和感しかないよ」
 早織たちはたまらないといった様子で笑っている。他の人にも今のところ気持ち悪がられている様子はないので俺の精神は今日一日持ちそうだ。

「あっ! いたいた、女装男子」
 早織たちが帰った後、今度は串田がやってきた。すぐに俺と気づくあたり只者ではない。
「それと、瑞穂も! うーん、スーツにあってるね!」
「おっ、本当だな。これは貸した甲斐があったってもんだ」
 まずい父さんだ! ということは由紀さんもいるのか。そう思った瞬間後ろから声をかけられた。
「弘治君」
「うひゃ! やめてくださいよ由紀さん」
 思わず変な声を出してしまったが、やはり由紀さんも来ていたか。
「えっ? 弘治なのか!? 女装するとは聞いていたがなぜハイクオリティの方向で……もしかして元からそういう趣味があったのか?」
「んなわけないだろ!」
 串田親子の登場で変な声を出してしまった俺は部屋の中の人たちに注目されてしまっていることを失念していた。これじゃあ串田のお義父さんと仲がいい奴にしか見えない。
「ふう、いらっしゃいませ串田さんのご両親。こちらへどうぞ」
「急になんだよ弘治、気持ち悪いなあ」
 この馬鹿おやじ! 少しは察してくれよ!
「お義父さん! ここは家じゃないのよ」
 串田がたしなめるとようやく思い至ったのか、父さんも態度を改めた。しかし串田、その言い方は誤解を招くと思うぞ。
 おかげでクラスの奴からはそのあと色々聞かれた。噂の後に家族ぐるみの親交があるとか、もう誤魔化すのに一苦労だった。
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