異世界奇天烈食材を食べ歩く。

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加減を知らない生き物、それは子供

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「うぉっ、さっっぶ!雪降ってんじゃん。くっそあのハゲ部長め…自分のミスをこっちに丸投げしやがって、もうこんな時間じゃねぇか」

 星の見える晴れた夜空に雪がちらつく変わった天気のなか残業を終えた俺、武藤 光太(むとうこうた)は想定外の残業に愚痴をこぼしながら冷える体をさすり帰路についていた。

 世は大晦日、本来なら自分も定時で上がるはずだったのに無能っぷりに定評のある上司(ハゲ)にミスを押し付けられ、後三十分もすれば新たな年が明ける時間まで仕事をする羽目になってしまった。しかも一人で。大晦日に一人会社で残業…え?ミスった上司はどうしたって?

『わしは君と違って家族が待ってるんでな、後は頼むよ』

つって定時で帰りやがりました。しかも『君と違って』ってなんだ。29歳独身の俺に対する嫌味か?嫌味なのか?嫌味だな?…くそう。あんなにハゲ散らかした頭した部長ですら嫁と子供が居るってのに…同僚の奴らも嫁もしくは恋人が居るってのに…俺には嫁どころか恋人すら居ないなんて…



 やめよう、考えてたら鬱になるわ。もうとっとと帰ろう。あれだ、会社で年を明かす事にならなかっただけマシだな、うん。…コンビニ寄って飯買おう。


「いらっしゃーせー…あれ??こんな日に残業だったんすか?ウケる(笑)」

「黙れチャラ男店員、お前だってバイトしてんじゃねぇか、人の事言えねーだろが」

「あ、俺12時上がりで彼女とデートなんで。お客さんは?…もしかして、ぼっちニューイヤーな感じっすか?」

「」

「こっわっ(笑)!目付きヤバい ウケる」


 いつも立ち寄るコンビニの顔見知り店員を軽く殺意を込めた目で睨めば何が可笑しいのかケラケラ笑いだした。お前まで独り身を馬鹿にするのか、大体ぼっちニューイヤーってなんだよ、最近の若い奴はなんでも言葉を作って……

「あれ?お客さん怒った?ごめんって。俺が買うつもりで温めてたやつあげるんで機嫌直してくださいよ」

「ん?おぉっ!これエイト君肉まんじゃないか!まだ売ってたんだな~あぁ、ほんと可愛いな~」

 最近の若い奴はとおっさん臭い事を考え黙り混んだ俺を怒ったと勘違いしたチャラ男店員がレジ横に設置してあるスチーマーから取り出したのは、このコンビニ  エイト・エイト  のマスコット『エイト君4味一体DX肉まん』だった

 このエイト君というのはヘビをモチーフにしていてヘビなのにまるっこい白い体躯で背中に数字の『8』が縦に2つ繋がった模様があるつぶらな赤い目をしたキャラクターだ。

何を隠そう俺の最愛キャラだ……そこ、おっさんキモっと思っても良いが口には出すなよ。おっさん分かってても傷付くから。ほんと、おっさんは意外と繊細な生き物なんだよ。

 それにこのエイト君まんは可愛いだけじゃないんだよ、まず普通の肉まんと違うのはその見た目と大きさだな。エイト君の形を模した丸めの楕円形でホットドッグくらいのサイズだ。しかも!中身の具は オーソドックスな肉まんの具とスパイシーなカレー味・とろけるチーズ入りのピザ味に尻尾の方にはなんと甘いカスタードがたっぷり詰まっている。まさに『4味一体DX』の名に恥じぬ肉まんだ!

「ニヤケ過ぎっしょ。ほんと、お客さんエイト君好きですよね。グッズが出たら速攻で買ってたし…あ、それ100円で良いっすよ」

「やるって言って金取んのかよっ!」

「商売っすからね、それにもう在庫ないんでそれが最後っすよ?残りは俺がだすし半額以下なんで良いじゃないっすか」

 そう言ってまたケラケラ笑うチャラ男店員。そう言われると最後の一個を格安で買えるのなら良いか。エイト君人気がありすぎて買えたの数回だけだったし。チャラ男、お前はチャラいが良い奴だな。なんて思いながら俺は最後のエイト君肉まんを譲ってくれたチャラ男店員に礼を言いつつ他にもいくつか買い物をしてコンビニをあとにした。

暖房の効いた店内から出ると外はいまだに雪がちらつき刺すような寒さでせっかくのエイト君肉まんが冷めてしまってはいかんと行儀は悪いが歩きながら食べる事にした。そんな俺の姿をいつの間に居たのか店内から恨めしそうな顔で見つめている子供に気付かなかった



「あーやっと着いた…とりあえず飯は後にして風呂が先か…な…………」

 コンビニから歩いて十分、見慣れた木造アパートに到着した俺は冷えた体を温めるためまずは風呂だなと口にしながら自分の部屋のドアを開けた、そして視界に入ってきたのは見慣れた自室…ではなく、白を基調としたなんか西洋の貴族っぽい部屋で毛足の長い絨毯の上で土下座をしている大人と子供だった。

 ……は?え、誰だ?なんで土下座…ってかどこだここ、俺んちじゃねぇ…え?俺、部屋間違えた?いやいや、こんな広い部屋このアパートじゃありえないって…セレブ?セレブなの?俺はいつの間にセレブの家に迷い混んだの?…やだ何あの立派なソファーすげぇお高そう……

「武藤光太殿!!申し訳ない!!!」

「うるさッ?!って、え?あ、あのどちら様でしょうか?ここ俺の部屋じゃ___高身長イケメン滅びろッ!」

「え?」

「あっ…すいませんなんでもないです、はい」

 ドアを開けたら知らない部屋でしかも知らない人が土下座かましてる予想外過ぎるシチュエーションに思考が迷走していた俺を現実に引き戻したのは土下座をしていた大人の男性のバカでかい声だった。あまりの声量に驚きつつあんたら誰だと問えば土下座の体勢から顔を上げた男性は、すごくイケメンでした。…雪降るこの季節に黒Tジーンズの。

 そんな季節感ガン無視の男性はなんというか雄々しいワイルド系イケメンで。かなり筋肉質で大柄だ。なにあの盛り上がった僧帽筋と胸筋。羨ま妬めしい。憎い…余談だが俺に恋人が出来ない理由は俺が低身長(ギリ160)でフツメンだからです。恋人が居た事はあったが『貴方の遺伝子で産まれてくる子供が可哀想だから結婚は出来ない』って理由で振られた経験有り……泣いた。何が言いたいかと言えば、高身長ついでに顔にも恵まれている奴が無条件で憎い。顔面腫れろ、縮め、水虫になれ。

「おぉい、大丈夫か?話を進めても良いか?」

「はっ!あ、大丈夫です。すいません…って、話し?貴殿方はいったい…」

「武藤光太殿。この度は息子が貴殿に大変な事をしてしまい誠に申し訳ない」

「へ?息子さんが…俺に?一体なんの事でしょうか?」

僻みで様子がおかしくなった俺にさっきとは違い常識的な声量で声をかけてきた男性が続けた言葉になんのこっちゃと答えれば、ワイルドイケメンは今一度土下座をしていた顔を上げて少し言いづらそうに頬を掻いたあと、さらっと一言…


「実は…息子が貴方を殺してしまった。すまん」

「………は?」

「うちの息子まだ神の力を上手く扱えなくて加減を間違えたようで…本当に申し訳ない」

「え?いや、え?」

「ほら、カレド。ちゃんと自分の口で謝りなさい」

「ひっ、ひぐ。ご…ごめんなさい。ぼ、僕のせいでおじちゃん死んじゃったの…ぐす」

 …俺が死んでる?え?この目の前で泣きじゃくってる子に殺された?……いやいやこんな天使みたいに可愛い美少年がそんな恐ろしい真似するわけ…そもそも初対面だよな?こんな美少年 会ったことないぞ……って、神の力?は………?

 ダメだ。言われた事が理解の範疇越えてんだけど…脳みそがフリーズしそう。フリーズすんのはスロットだけで良いんだよ…あぁ、2回転でフリーズを引いたあの時の衝撃、一撃三千枚オーバーからの引き戻してのまさかの万枚越え……いや待て、今はそんな事どうでもいいんだよ。神の力とか訳の分からん事は置いといて、もっと重要な事を言われただろ。俺が死んでるって………なんで?

「あの、俺死んでるんですか?なんで?」

「おぉ、この状況で取り乱さないとは貴殿は冷静な方だな。話せば長くなる…茶でも飲みながら聞いてくれ」

 いや別に冷静なんじゃない。聞きたい事の要点を一つに絞って理性を無理矢理保ってんだよ。でなけりゃ脳みそフリーズどころかキャパオーバーでぶっ倒れとるわ。高身長イケメンの前でチビなおっさんが取り乱すなんて、なんか悔しいから必死こいて平静を装ってんだよ。ギリギリなんだよ、ちきしょう。

 そんな俺の内心に気付く事なくワイルドイケメンはいまだに泣きじゃくるカレドと呼んだ自身の息子と共に立ち上がりおもむろに指を鳴らした。すると、何もなかったはずのやたら立派なソファーの前にこれまた立派なテーブルが現れた。ティーセット付きで。

……わぁーすごーい、なんか出てきたーえーどっから出したのーそんなデカいテーブ…ル…………

「………………」

「さぁ座ってくれ。紅茶で良かったかな?コーヒーもあるが。」

「…紅茶でいいです。」

あぶねぇ!ちょっとフリーズしたわ。どっから出てきたこのテーブル…これが神の力ってやつか?……って、今さらだけど俺の目の前に居る二人、ワイルドイケメンと美少年って神様…?

「さて、まずは自己紹介をさせてもらおう。俺はグランツ、こっちは息子のカレドだ。」

「ぐす。カ、カレドです」

「あ、武藤光太です…って、俺の名前知ってましたね、何故か。」

「あぁ、俺は貴殿…人の認識でいう神だからな。勿論、息子もだ」

「あーそうなんですね。納得しました。」

ソファーに促され親子と対面する形で腰をおろすとワイルドイケメンは泣き止まない美少年が腕にくっ付いたまま自分達は神だと言った。…やっぱ神様なんだ。なんかもう驚かねぇわ。うん。にしてもこの紅茶美味いな…どこのだろ、神様が出してくれた紅茶だし天界産?うまー。

「…貴殿は本当に冷静だな。驚いたり取り乱したりするかと思ったが」

「いや、十分驚きましたよ。驚きが一周回って墜落して落ち着いただけです」

「…そうか。まぁその方がこちらとしても助かるな。あまりに取り乱されると話しも出来んからな」

「そうだ、俺が死んでるって話しでしたね。実感ないから忘れてた」

「忘れてたのか?くっ、貴殿はなにやら面白い人間だな。あぁ、その貴殿についてなんだがな…」

 俺の反応が予想外だったらしく俺を見て興味深げに笑ったあと、ワイルドイケメン…もといグランツさんが話してくれた内容をまとめると_

グランツさん親子は息子のカレド君の神としての見聞を広げるついでに色んな世界と星を旅行中だったと。スケールでけぇ。んで、今回地球を旅行中に寄ったコンビニのレジ横のケースに居た俺の最愛キャラ『エイト君』をカレド君がとても気に入り食べ物だと知って買おうと思っていた…所を俺が買って食べてしまったものだから、横取りされた気持ちになったカレド君は俺へ神が扱う力の一つ『天罰』を使ってしまったそうで…なにそれこわい。

 カレド君本人はドアを握ったらちょっと凄い静電気でビリッてなっちゃえくらいの気持ちで力を使ったらしいんだが、まだまだ神としても子供で力加減が上手に出来なかったみたいで…

結果、俺はドアに触れた瞬間 落雷級の静電気で死んでしまったと……やだこわい。カレド君見た目天使なのに。加減を知らない子供こわい。



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