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part 2-11
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「それだけ?」
「それだけだ」
「……それだけって簡単に言われても…方法がわからない」
「助けて、と言えばいいだけだ。言えなきゃ、この手を握れ。そこから連れ出してやる」
ふふっ…笑いが漏れた私を不思議そうに見る藤堂さんに
「覚えておきます」
そう言って立ち上がった。そして腕を引くと
「私、幸せは知らないけれど、甘い言葉が怖いことはよく知ってるんです」
そう言って入り口のレジに向かう。
夫と義父も母をホスピスに入れてくれるまでは良かったもの。そんなに甘い話に乗るはずがない。
「2000円です」
一度私を睨み付けたと思った女性店員さんがぐいっと押したカルトンに、財布から出した2000円を乗せようとしたところへ
「何をしてる?」
音もなく私の真後ろに立った藤堂さんの声が落とされ
「舞生」
彼は福嶋弟さんを低く呼んだ。
「ぅっす」
先日とは違って軽快な返事をした福嶋弟さん…長いから舞生さんがすぐに来ると彼は
「奥、下がれ」
と女性店員さんに告げてから
「先日に続いて失礼しました。ケガ、大丈夫ですか?」
にっこりと私を見る。
何がなんだか分からなくなってるんですけど?私のこの右手の2000円は?挨拶もしないと…
「大丈夫です。お世話になりました」
「いえ、お帰りですか?ボクが送ります」
「いえいえ、とんでもないです」
慌てて2000円を振りお断りするという失礼な行動に出てしまった私に
「この時間だ。舞生に送ってもらえ」
藤堂さんも言う。
「若の車は目立つので使いませんよ。くうちゃんの車を借ります」
「くうちゃん?」
「オレです。はい、キー」
「サンキュ」
オレです、と言って車のキーを舞生さんにぽいっと投げ渡したのは、あの細い男性店員さんで
「ありがとうございました。またお待ちしております。良かったらオレの名刺を…どうぞ」
カフェバーの名前の下に紀村空雅と書かれた名刺を差し出す。
「ボクのも、どうぞ」
福嶋さんに頂いたのと同じ‘株式会社ロータスハウジング&プランニング’という役職名のないシンプルな名刺を舞生さんに差し出され
「まずはその札をしまえ。いつ誰に連絡しても大丈夫だ」
藤堂さんはそう言って福嶋さんのいるテーブルへ向かった。
入り口でいつまでもこうしていられない。財布にお金を入れてから二人の名刺を受けとると
「藤堂さんにごちそうさまでした、とお伝えください」
と二人にお願いする。すると舞生さんが渡したばかりの名刺を私の手から抜くと、レジにあったペンで何かを書いてからもう一度私の手にそれを持たせた。
「裏に若の番号書いたから。あとでも、明日でも、いつでも自分で伝えてください。行きましょう」
「それだけだ」
「……それだけって簡単に言われても…方法がわからない」
「助けて、と言えばいいだけだ。言えなきゃ、この手を握れ。そこから連れ出してやる」
ふふっ…笑いが漏れた私を不思議そうに見る藤堂さんに
「覚えておきます」
そう言って立ち上がった。そして腕を引くと
「私、幸せは知らないけれど、甘い言葉が怖いことはよく知ってるんです」
そう言って入り口のレジに向かう。
夫と義父も母をホスピスに入れてくれるまでは良かったもの。そんなに甘い話に乗るはずがない。
「2000円です」
一度私を睨み付けたと思った女性店員さんがぐいっと押したカルトンに、財布から出した2000円を乗せようとしたところへ
「何をしてる?」
音もなく私の真後ろに立った藤堂さんの声が落とされ
「舞生」
彼は福嶋弟さんを低く呼んだ。
「ぅっす」
先日とは違って軽快な返事をした福嶋弟さん…長いから舞生さんがすぐに来ると彼は
「奥、下がれ」
と女性店員さんに告げてから
「先日に続いて失礼しました。ケガ、大丈夫ですか?」
にっこりと私を見る。
何がなんだか分からなくなってるんですけど?私のこの右手の2000円は?挨拶もしないと…
「大丈夫です。お世話になりました」
「いえ、お帰りですか?ボクが送ります」
「いえいえ、とんでもないです」
慌てて2000円を振りお断りするという失礼な行動に出てしまった私に
「この時間だ。舞生に送ってもらえ」
藤堂さんも言う。
「若の車は目立つので使いませんよ。くうちゃんの車を借ります」
「くうちゃん?」
「オレです。はい、キー」
「サンキュ」
オレです、と言って車のキーを舞生さんにぽいっと投げ渡したのは、あの細い男性店員さんで
「ありがとうございました。またお待ちしております。良かったらオレの名刺を…どうぞ」
カフェバーの名前の下に紀村空雅と書かれた名刺を差し出す。
「ボクのも、どうぞ」
福嶋さんに頂いたのと同じ‘株式会社ロータスハウジング&プランニング’という役職名のないシンプルな名刺を舞生さんに差し出され
「まずはその札をしまえ。いつ誰に連絡しても大丈夫だ」
藤堂さんはそう言って福嶋さんのいるテーブルへ向かった。
入り口でいつまでもこうしていられない。財布にお金を入れてから二人の名刺を受けとると
「藤堂さんにごちそうさまでした、とお伝えください」
と二人にお願いする。すると舞生さんが渡したばかりの名刺を私の手から抜くと、レジにあったペンで何かを書いてからもう一度私の手にそれを持たせた。
「裏に若の番号書いたから。あとでも、明日でも、いつでも自分で伝えてください。行きましょう」
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