彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

差し響く 8

あれだ…暗闇に見えた玖未に、男が跨がっていて玖未かどうかも実際にはわからない。

でも玖未の声がした。うつ伏せか仰向けかもわからないが走り

「玖未っ」

はっきり見えたうつ伏せの玖未に跨がり、自分のモノに手を添える男と目が合った時には、その顎を蹴り上げていた。

こんな時間に一人で歩くような他の女ならどうでもいい。昼間でもうちの店が関係なければ、真横を通りすぎようが関わることはない。


でも玖未には触れるな。


蹴られた勢いで壁にぶち当たって崩れ落ちてくる男を落とすことなく思い切り蹴り上げる…ガッゴッ…っっぐぇ…

「若っ、ストップ…ここではストップしてください」
「悠仁っ、お前は玖未ちゃん優先だろっ」

完全に喉に入った蹴りを見て、野沢と右京が俺の腕を左右から取る。


聞こえてる…狂っちゃいねぇ…冷静に、狙った通りに入れただけだ。


喉を直撃したことに伴う損傷は、気管や頸動脈への直接的損傷、頭を大きくのけぞる頸部や肩への過伸展による頸髄損傷などが考えられる。見かけは軽微な外傷でも障害が長引いたり、時に生命危機につながることがある。

だが、野沢が言ったように‘ここでは’これ以上は出来ない。

「…玖未」

コートを脱ぎ、じっと動かない玖未をそっと仰向けにするとそのコートで包む。

彼女の様子から、どこかケガをしているのは間違いないだろう。ここはアスファルトで汚れた頬にキズがないかも見えづらい暗さだ。ゆっくり目を開けた玖未に

「遅くなって悪い、玖未」

苛立ちを見せないように伝え、頬についているアスファルトの砂利をそっと払った。

「もう大丈夫だ」

俺がそう言うと、抵抗し続けていたであろう玖未が意識を手放した。

コートも着ていないのに額に汗を浮かべているのは、力を振り絞っていたせいか、恐怖のせいか、どこかの痛みのせいか…