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疑問

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ミズハは、松明に照らされた道を幾ばくか進んでいくと、一つの鍵付きの扉があった。
「いかにもって感じの扉だよね。そういえば、ここの扉の奥にあったのは大広間だっけ?」
扉の鍵を壊すと中に入った。大広間は真っ暗な空間だった。
「僕暗いとこ苦手なんだよなー」
とひとりごとを言いながら進んでいくと、自分の進行方向から、小さい人影が近づいてくるのが見て取れた。その人影が小さく指を鳴らすと、真っ暗な空間に一斉に光が灯る。壁に掛けられていた松明に明るい炎が灯る。ミズハは目の前の人物に目をやると、にっこり微笑んで語りかける。
「お久しぶりですね。セリアさん。元気でしたか?」
セリアと呼ばれた女性は、黒い髪をなびかせて、手に持つ剣を地面と平行にして構える。
「おかげさまでな。貴様は何故ここにいる?それに、この前あった姿と随分違う様子だが?」
黒髪の女性は、視線をミズハから離さず問いかける。彼女の意図を察したミズハは相好を崩す。
「そうなんですよ。脱獄する時に、僕の身体蜂の巣にされちゃいまして。すごくお気に入りの身体だったのに。でも、そろそろリミットが来ていたので、切り替え時だったのかもしれないですね」
「切り替え時の人間の提供は、我々の指示に従ってもらう約束だったとも思うが?」
凛とした態度を崩さず、彼女は問い詰める。
「そうでした。夢中になっていて失念していました。でも、僕やっぱりここで皆さんとやっていくの無理そうなんですよ。だから別のところに行くことにしました。そんなわけで、出来れば何も言わずにそこを通してくれませんか?」
金髪の男は、剣を構える女性の方に向かって軽やかに歩みを始める。セリアは、額に脂汗を浮かべながらも警告する。それでも、ミズハの足は止まらない。距離が10メートルほどになったところで、彼女は攻撃を開始した。自身の剣をミズハに向かって穿つ。その剣先は、深々とミズハの胸元に突き刺さった。本来であれば瞬時に絶命する攻撃のはずにも関わらず、彼を自身の身体に突き刺さった武器について感想を漏らす。
「なるほど。これが、噂に聞く武器なんですか。本物で刺されたのは初めてです。人類の進歩は目まぐるしいですね」
そう言って金髪の男は脱力し、後ろ向きに倒れた。あまりにも呆気ない幕引きに戸惑いつつも、男が息絶えている様子を確認したセリアは、上官に連絡を取る。
「こちらセリアです。対象を排除いたしました。遺体の搬送をお願いします」
「了解。至急、隊員を向かわ、、、グシャ」
大きな音がしたと同時に、一度上官との連絡が途絶える。得体のしれない嫌な感じを持った彼女は、再度連絡をとる。繋がらないとも思ったが、3コールで繋がった。
「アルバトロス様、ご無事ですか?」
上官の安否を真っ先に確認する。すると、よく知った上官の声で返事がくる。
「ああ、大丈夫だ。連絡が中断してすまない。それで、被験体の遺体の搬送についてだったかな?祈りを捧げて、外にお墓をつくってあげてください」
上官の台詞に違和感を感じ取った彼女は、失礼だとは知りつつも上司に確認を取る。
「恐れ入りますが、アルバトロス様は本当にアルバトロス様でしょうか?」
彼女は通信機器を持つ手が小刻みに震えているの感じていた。
「ばれちゃいましたか。記憶にある通りに演じてみたのですが、やはりあなたは誤魔化せませんね」
声は彼女が良く知る上司の声質であるのも関わらず、口調がガラリと変わる。つい先ほどまで真向かいに面していた青年の口調に。
「貴様なぜ生きている?私が今貴様を葬ったはずだが?」
焦る気持ちをおさえて、質問を投げかける。
「その答えは、簡単ですよ。僕たちはあなたたちとは違う生命体なのですから。あなたがたが常識と思っているのは、あなたたちにしか当てはまらない。でも、まあ僕たちも不死身なわけではないですが、そこまでネタ晴らしする気もないので。じゃあ、お元気で。そのうちまた遊びましょう」
ミズハはそう一方的に言って、連絡が途切れた。彼女は、暫くその場に立ち尽くしていた。


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