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不快
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わたしがあの人に関心を持つようになったのはいつからだろう?
これまで他人に興味を持つということがなかったわたしが、こんな風に興味を持ったのは何でだっけ?
ああそうだ。確か、高校に入ってまだ間もない頃。多くの人が新しい環境に対して、期待や緊張を感じているそんな時期。
自分の望む環境を手にするために、わたし以外のクラスメイトは自分の関係を広げようとしていた。相手がどんな人柄なのかを知るために当たり障りのない話題を選び、おかしくもない会話に笑顔を作る。
わたしには理解できなかったが、どうやら彼らはそうやって『普通』でいることに安心を覚えるらしい。
そんな空気の中、わたしに話しかけてくる人間は少なからずいた。でも、適当に会話を流していることに気づくと、二度と話しかけてくることはなかった。そうした人はわたしにとって面倒ではあったが、少なくとも不快の種にはなかった。一度、自分と『合わない』と認識された時点で、彼らとわたしの間にそれ以上の関係は望まれない。ただの他人になることが決定したのだから。
けれども、みんながみんな同じように、勝手に遠ざかってくれるわけではなかった。ある時、いわゆるスクールカースト上位のグループが話しかけてきた時のことだ。
その時も相変わらず適当に流していると、グループの一人である男子が突っかかってきた。
「おいおい、雨水さんよ。それはないんじゃねーの?こっちが親切で何回も誘ってやってるのに、いつも用事あるだのほざきやがって」
ウザイな…。いつわたしがあんたに誘ってくれと頼んだのよ…。早くどっか行ってくれないかな…。無視を決め込むわたしに、イラついた様子の男子は続けざまに口を開く。
「おっさんにケツ振る用事がそんなに大事か?!なぁ?」
「真二言い過ぎ~ウケる」
下品な言葉に、他のメンバーも大声で笑う。
群れになってなければ『居場所』さえ見つけれれないゴミに、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ。
黒くて赤い感情がわたしの中に広がった。気付いた時には、ゴミの胸倉を片手で掴みもう一方の手を固く握りしめていた。
中学の頃までのわたしだったら、ここから先の行動は一択だっただろう。母親の強い後押しによって合気道を習っていたため、『普通』の女子より力が強かった。だから、相手が一切抵抗できなくなるまで暴力を振るう。殴る、蹴る、その他何でも。
暴力が悪いことなんて百も承知だ。ただ、それが『普通』を強要する暴力に対するわたしなりの『答え』だった。
でも、高校に入る少し前からそれが通用しなくなった。わたしの『答え』は『普通』をこよなく愛する母親によって否定され、これ以上問題行動を続けるなら面倒を見ないとまで言われたためだ。
そんなわけで、いくら目の前のゴミがウザくても、今までのような『答え』をぶつけるわけにはいかなかった。
そんな逡巡の中、グループの後方から男受けの良さそうな女性の声が響く。
「お話し中ごめんね?」
カスは、乱暴にわたしの手から逃れて苛立ちながら振り返る。
「あんだよ?!あ、小川町…」
自分に話しかけてきたのが意外な人物だったらしい。クズは今までの怒気を霧散させる。
小川町と呼ばれた少女はグループ全体に甘ったるい声で問いかける。
「みんな集まってどうしたの?」
少女の問いかけに、取り繕うようにゴミは喋る。
「いやぁ、オレ達カラオケに行こうと思っててさ。折角だから、雨水を誘ってたんだけど…」
ふむふむと軽い相槌を打ちながら、相手の言葉に耳を傾ける少女。すると、いい考えを思いついたとばかりにテンションを上げる。
「いいなぁ~私もカラオケ行きたいな」
「小川町って、今日バイトの日じゃなかったっけ?」
「いつもはね~。でも、やっぱり高校生ライフって一生に一度きりじゃん?今日くらいサボってもバチは当たらないと思うんだよね。だからさ、男子と一緒に遊びたいななんて…ダメかな?」
そう言って、無意識っぽくカスのシャツをちょこんとつまむ。
「いやいや、大歓迎に決まってるって」
「ほんとぉ?真二君優しい~」
少女の言葉に気を良くした能無しは、急に張り切り出してグループをせっつき始める。ノリを合わせるかのように彼女も呟く。
「早く行こー♪レッツゴー!」
男子を扇動していく彼女は、わたしの視線に気づくと可愛らしく手を振ってきた。
何だ?この女は?わたしを助けて神様にでもなったつもりか?ただの偽善者のくせに…。不快指数の上昇にもやもやしながらも、少女の表情を覗く。
けれども、覗いた瞬間わたしは彼女の認識を改めなければならなかった。そこには、楽し気な表情とは対極の色を纏った瞳があったからだ。
彼女の瞳の色はどこかで見たことがあった。それもそのはず、今朝鏡の中に映った自身の瞳の色と同じだったのだから。
この世界に何も期待していない。そんな瞳の色。
これまで他人に興味を持つということがなかったわたしが、こんな風に興味を持ったのは何でだっけ?
ああそうだ。確か、高校に入ってまだ間もない頃。多くの人が新しい環境に対して、期待や緊張を感じているそんな時期。
自分の望む環境を手にするために、わたし以外のクラスメイトは自分の関係を広げようとしていた。相手がどんな人柄なのかを知るために当たり障りのない話題を選び、おかしくもない会話に笑顔を作る。
わたしには理解できなかったが、どうやら彼らはそうやって『普通』でいることに安心を覚えるらしい。
そんな空気の中、わたしに話しかけてくる人間は少なからずいた。でも、適当に会話を流していることに気づくと、二度と話しかけてくることはなかった。そうした人はわたしにとって面倒ではあったが、少なくとも不快の種にはなかった。一度、自分と『合わない』と認識された時点で、彼らとわたしの間にそれ以上の関係は望まれない。ただの他人になることが決定したのだから。
けれども、みんながみんな同じように、勝手に遠ざかってくれるわけではなかった。ある時、いわゆるスクールカースト上位のグループが話しかけてきた時のことだ。
その時も相変わらず適当に流していると、グループの一人である男子が突っかかってきた。
「おいおい、雨水さんよ。それはないんじゃねーの?こっちが親切で何回も誘ってやってるのに、いつも用事あるだのほざきやがって」
ウザイな…。いつわたしがあんたに誘ってくれと頼んだのよ…。早くどっか行ってくれないかな…。無視を決め込むわたしに、イラついた様子の男子は続けざまに口を開く。
「おっさんにケツ振る用事がそんなに大事か?!なぁ?」
「真二言い過ぎ~ウケる」
下品な言葉に、他のメンバーも大声で笑う。
群れになってなければ『居場所』さえ見つけれれないゴミに、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ。
黒くて赤い感情がわたしの中に広がった。気付いた時には、ゴミの胸倉を片手で掴みもう一方の手を固く握りしめていた。
中学の頃までのわたしだったら、ここから先の行動は一択だっただろう。母親の強い後押しによって合気道を習っていたため、『普通』の女子より力が強かった。だから、相手が一切抵抗できなくなるまで暴力を振るう。殴る、蹴る、その他何でも。
暴力が悪いことなんて百も承知だ。ただ、それが『普通』を強要する暴力に対するわたしなりの『答え』だった。
でも、高校に入る少し前からそれが通用しなくなった。わたしの『答え』は『普通』をこよなく愛する母親によって否定され、これ以上問題行動を続けるなら面倒を見ないとまで言われたためだ。
そんなわけで、いくら目の前のゴミがウザくても、今までのような『答え』をぶつけるわけにはいかなかった。
そんな逡巡の中、グループの後方から男受けの良さそうな女性の声が響く。
「お話し中ごめんね?」
カスは、乱暴にわたしの手から逃れて苛立ちながら振り返る。
「あんだよ?!あ、小川町…」
自分に話しかけてきたのが意外な人物だったらしい。クズは今までの怒気を霧散させる。
小川町と呼ばれた少女はグループ全体に甘ったるい声で問いかける。
「みんな集まってどうしたの?」
少女の問いかけに、取り繕うようにゴミは喋る。
「いやぁ、オレ達カラオケに行こうと思っててさ。折角だから、雨水を誘ってたんだけど…」
ふむふむと軽い相槌を打ちながら、相手の言葉に耳を傾ける少女。すると、いい考えを思いついたとばかりにテンションを上げる。
「いいなぁ~私もカラオケ行きたいな」
「小川町って、今日バイトの日じゃなかったっけ?」
「いつもはね~。でも、やっぱり高校生ライフって一生に一度きりじゃん?今日くらいサボってもバチは当たらないと思うんだよね。だからさ、男子と一緒に遊びたいななんて…ダメかな?」
そう言って、無意識っぽくカスのシャツをちょこんとつまむ。
「いやいや、大歓迎に決まってるって」
「ほんとぉ?真二君優しい~」
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「早く行こー♪レッツゴー!」
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何だ?この女は?わたしを助けて神様にでもなったつもりか?ただの偽善者のくせに…。不快指数の上昇にもやもやしながらも、少女の表情を覗く。
けれども、覗いた瞬間わたしは彼女の認識を改めなければならなかった。そこには、楽し気な表情とは対極の色を纏った瞳があったからだ。
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