津軽藩以前

かんから

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偽一揆 永禄十二年(1569)正月

岩木山、雪の陣 2-1

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 ……冬は眠りの季節。じっと春を待つ。

 そんな悠長なことを、民は言っていられない。秋の収穫はめっぽう少なく、さらには相川西野の乱による兵糧徴収。在来の民にとっても過酷だった。
 為信は家来衆に蔵から兵糧米を施そうと幾度となく訴えたが、願いかなわず。次の戦に備えてとっておかねばならぬと、煙たがられる始末。
 民を苦しめておいて何が戦だと心の中は煮えたぎっていたが、無理やり抑え込んで平静を保つように努めるしかなかった。


 “偽一揆” は、雪が降りやんだ日に決行された。その日は偶然にも正月であった。万次は他国者だけでなく仲間内の荒れ狂うものも集めたので、為信が想像していた人数よりも多かった。その数、三百人。
 万次らの寺に近づく音は、降り積もった雪でまったく聞こえない。聞こえていたとしても正月である。法師らは酒や女に夢中で、外に何があろうとも気が付かない。

 ……このような寺であるので、正月に訪れる庶民などいない。

 一揆勢はそのまま山門に突入。大勢の仲間が門に体当たりすると、屋根に積もっている雪が音を立てて下に落ちる。中の者はそれで目を覚ます。ぼんやりしているうちに、門は解き放たれた。あくまで抵抗しようとする者もいたが……呑んだくれの力は皆無。生き残った山法師らは仏殿で縄にかけられ、荒れ狂う者らの苛めに使われた。
 解放された女らもまた、餌食となった。

 山の異変に気付いた民の中には、本物の一揆だと勘違いをして参加をする者も多く、併せて四百人の規模となる。

 ……岩木山は大浦城より西側。大浦家の領内である。一揆勢を鎮圧するため、為信を総大将に総勢千人の兵が岩木山山麓の百沢ひゃくざわに着陣。ただし、実質的な指揮権は家来の森岡が持った。彼は大浦家の古参であり、老練な戦上手だ。

 森岡は言う。

「低い方から高い方に攻め入るのは難しい。山であればこちらより雪深く足をとられる。ならばこのまま留まり、相手の兵糧が切れるのを待つのがいい。」

 しかし兵にとっても、このまま付陣し続けるのはつらい。ほら、雪も降ってきた。いくら松明を燃やしても、早く終わらしたいのにはかわりない。
 だが森岡の言う事は、勝つためには正しい。敵は屋根の下で寒さに強いが、いずれ兵糧は切れる。こちらは城から送ってもらえばいい。加えてあちらは聖域。なるべく血を流すのは避けたい。
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