津軽藩以前

かんから

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石川高信、病没 元亀一年(1570)春

最後の鷹狩 6-3

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 平原は、新しき命に湧く。新緑は勢いづき、冬眠から覚めた獣たちが駆け巡る。野兎など小さな花を見つけては片手で触ってみたり、花を近づけて匂いを確かめていた。

 為信ら含む津軽衆は、郡代が到着するのを待つ。大光寺や千徳など、名だたる武将が集結していた。その中でも唯一、為信だけが布に包まれた長い棒を持つ。隣の者が面白がり、“ほう、珍しいこと” などと話しかけてくる。


 遠くより、石川高信公は籠に乗せられてやってきた。その隣を馬に乗って次男石川政信が付き従う。後ろには、籠の簾を半開きに外を見る女もいた。老齢に見えるが……高信の奥方か。女を連れてくるのは異例である。

 高信は籠から降ろされると、寄り添う奥方の肩に寄りかかり、もう片方を家来に支えてもらう。顔は少し膨れ、肌は黄色がかっていた。ただし息は荒れておらず、苦しい素振りをみせない。

 高信は問うた。

 「信直は、まだか。」

 政信は辺りを見回す。上座にはもちろん、家来らの中に紛れ込んでもいない。

 「いないようです。」

 高信は歯がゆそうだ。もともと領地が遠いため、少し遅れるとは聞いていたが、そうとわかっていても寂しそうであった。

 その長いあご髭を触る。次に手を開いて、じっと見つめた。何本もの毛が抜けて、汗で手の平についていた。決して外は暑くはない。高信の体のどこかしこ、おかしくなっている。絶え間ない疲労感。それでも無理を押してやってきた。……これが、最後。

 
 狩は始まった。

 一番手は野原に足を置き、棒であたりを叩く。白い兎がびっくりして、高く飛び跳ねる。遠くへ逃げようとするが、鷹が素早くその鋭い嘴で獲物を捕える。
 
 二番手は長い槍を持ち、自分の力だけで獲るという。慎重に辺りを観察し、茶色い毛肌のイタチが見えた。そこをすかさず突き刺す。獣は悲鳴を上げ、その場で倒れこむ。
 
 次は三番手。鷹を使って大きな獲物を捕まえるという。木々の生い茂る方へ近づき、なにかいないかと探る。……すると、大きな角を持った鹿が一匹。鷹は木々の間を飛びぬけ、大物を挑発する。鹿は角をつつかれて、鷹の逃げる方へ向かう。すると森の出た先に、武者は待っている。
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