津軽藩以前

かんから

文字の大きさ
41 / 105
屋裏の変 元亀一年(1570)秋

毘沙門堂 8-5

しおりを挟む
 堂を囲む後ろより、信直の味方が現れる。晴政の軍勢は挟み撃ち。火縄への恐れも重なり、兵らは逃げ惑った。丘を下り、迫る敵をはねのけ、元来た方へ引き返していった。

 だたし晴政はふとともを撃たれており、思うように動けない。周りにいた兵らは仕方なしにその重い体を支え、一時だけの隠れるところを探した。……すると、猟師の納屋が目に映る。急いでその中へ入る。

 信直の兵はそれを見逃してはいなかった。すぐさまおかみへ報告し、彼はその納屋を鉄砲隊で囲む。立場が逆転した。

 信直は、兵らにわざと壁の上側に目標を向けさせた。そして乱撃ちをさせる。……実をいうと、さきほど晴政の右のふとももを撃ったのは正確だった。心の臓を狙うより、永遠の苦しみを味合わせてやろうという考えである。

 納屋の中は、銃声に怯える羊ら。すでに命は敵のもの。

 ……信直は、笑顔である。月の光に照らされると、それは人間界のものではない。悪霊が乗り移っているかのよう。

 

 一刻過ぎ、大半の敵兵が逃げ去ったころ。屈強な武者が馬に跨って、信直の方へ近づいてきた。彼は晴政の企みを教えてくれた北信愛である。

 北は深刻そうな顔で、大声で怒鳴る。

 「何をなされておいでか。」
 
 信直は平然と “主君殺しよ” と答えた。北は続ける。

 「あなたを思い憚って、難から避けていただこうとお教えしたのに……馬鹿殿。」

 そういうと、信直の頭から兜を奪い、力強く投げ捨てた。

 「城では大殿を救おうと、他方に援軍を頼んでおります。九戸勢はもう少しで到着。そうなれば……このような小勢などひとたまりもない。私とて、あなたを討たざるを得なくなる」

 “ふん、妻の仇だ。魂を救うためだ”

 北のあきれようは半端ない。

「なにを……翠様は生きておいでですぞ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...