津軽藩以前

かんから

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大千同盟 元亀二年(1571)晩夏

命乞い 15-4

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 八木橋の続けざまに話す様を見て、隣の森岡は急に怒鳴った。

 「八木橋。殿が話すなと申したではないか。少しは慎め。」

 頭の回ることは認めるが、殿には殿のお考えがあるのだ。森岡は八木橋を諭す。八木橋はというと、元はお前が私に話を振ったんだろうと思いながらも、とりあえずは口をおさえた。

 
 森岡はため息をつく。そして向かいに座る沼田へ問うた。お前はどう思うと。沼田は一回だけ礼をし、ゆっくりと話し始めた。

 「大浦家は大きい存在になりました。……偶然にも騒動を治め、旧石川領を併せた。このようなときです。独立どうこうと申すよりも、周りをもうすこし見るべきかと。」

 周り……。

「はい。特に新当主がどう思われているか。不穏な動きがあるなしに関わらず、旧領の返還を求めて来たらどうなさいます。」

 南部信直は南部の新しい当主。彼の一存ですべてが決まる。もし彼が為信を倒せと号令したら、自らは動かなくても孤立は免れない。滝本だけでなく、立場復活の機会だとして千徳も攻めてこよう。例え津軽統一を進めようとしたところで、四面楚歌ではきつい。

 ここで為信が口を出す。

「沼田の言うとおりだ。信直公がどうお考えであるか、今一度確かめる必要はあるな。千徳のことよりも大事なことだ。」

 “八木橋、行ってみるか”

 八木橋は“私ですか”と驚く。本来なら兼平が適任だが、今は臥せっておる。森岡はこのようなことは苦手だろう。お主だからこそ、頼めることだ。

 彼はしばらく黙ったままだったが……隣の森岡に肩を叩かれた。すでに怒ってはいない。少しだけ笑顔で、まるで“行ってこい”と言わんばかりの顔だった。

 かくして、八木橋は信直のいる三戸へ向かうことになった。千徳の件は明日にするとして、話し合いをお開きにしようとしたその時。家来の一人が外から駆けてきた。

 「千徳政氏様が、自ら参上しております。」
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