津軽藩以前

かんから

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大光寺の戦い 天正四年(1576)正月

天地否 20-4

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 家来らには到底理解できなかった。それは黒い筆の跡がありありと散りばめられ、雨が横なぶりに降っているようにも見える。ただしこれと地獄、どう関わるのか。

 和尚は肩の間から分け入り、じっくりとそれを見つめる。そこに人間や鬼といった形はなく、ただただ同じ模様が続くだけ。


 “……涙ですな”


 為信は頷いた。


 “これほど、優しい世界はありませぬ”


 己は死んだら地獄行き。そう為信は思っている。大勢の人を殺め、誑かした。これからもそうだろう。本心とは違うと分けていたが……最近では同じ人格だと思えてくる。二つの何かがまじりあい、一つになった。

 和尚は言った。

 “神仏を頼りなされ”

 為信は首を振る。

 “これが、己の定めだ”

 いまさら、曲げるわけにはいかぬ。



……その夜、為信は沼田と集う。ふと、昔の名で呼ぶ。

  “面松斎”


 沼田は “懐かしい響きですな”と少しだけ笑う。

 「して、次にどのような手を打ちますか。」

 急に現実へと戻された。為信は答える。

「田舎館の千徳分家を討ち、浪岡も併合する。」

 沼田は腕組みをして、唸りながら悩む。

 「田舎館はいいとして浪岡となりますと……安東をどうなさいます。」

 安東氏と浪岡北畠氏は婚姻関係がある。浪岡を攻めることはすなわち、安東との手切れを意味する。為信も考え込んだが……今夜は深く想うことが難しい。手を大きくたたき、沼田にとあるお願いした。
 

 ”ひとつ、昔の様に占ってみないか”
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