100 / 105
大光寺の戦い 天正四年(1576)正月
天地否 20-4
しおりを挟む
家来らには到底理解できなかった。それは黒い筆の跡がありありと散りばめられ、雨が横なぶりに降っているようにも見える。ただしこれと地獄、どう関わるのか。
和尚は肩の間から分け入り、じっくりとそれを見つめる。そこに人間や鬼といった形はなく、ただただ同じ模様が続くだけ。
“……涙ですな”
為信は頷いた。
“これほど、優しい世界はありませぬ”
己は死んだら地獄行き。そう為信は思っている。大勢の人を殺め、誑かした。これからもそうだろう。本心とは違うと分けていたが……最近では同じ人格だと思えてくる。二つの何かがまじりあい、一つになった。
和尚は言った。
“神仏を頼りなされ”
為信は首を振る。
“これが、己の定めだ”
いまさら、曲げるわけにはいかぬ。
……その夜、為信は沼田と集う。ふと、昔の名で呼ぶ。
“面松斎”
沼田は “懐かしい響きですな”と少しだけ笑う。
「して、次にどのような手を打ちますか。」
急に現実へと戻された。為信は答える。
「田舎館の千徳分家を討ち、浪岡も併合する。」
沼田は腕組みをして、唸りながら悩む。
「田舎館はいいとして浪岡となりますと……安東をどうなさいます。」
安東氏と浪岡北畠氏は婚姻関係がある。浪岡を攻めることはすなわち、安東との手切れを意味する。為信も考え込んだが……今夜は深く想うことが難しい。手を大きくたたき、沼田にとあるお願いした。
”ひとつ、昔の様に占ってみないか”
和尚は肩の間から分け入り、じっくりとそれを見つめる。そこに人間や鬼といった形はなく、ただただ同じ模様が続くだけ。
“……涙ですな”
為信は頷いた。
“これほど、優しい世界はありませぬ”
己は死んだら地獄行き。そう為信は思っている。大勢の人を殺め、誑かした。これからもそうだろう。本心とは違うと分けていたが……最近では同じ人格だと思えてくる。二つの何かがまじりあい、一つになった。
和尚は言った。
“神仏を頼りなされ”
為信は首を振る。
“これが、己の定めだ”
いまさら、曲げるわけにはいかぬ。
……その夜、為信は沼田と集う。ふと、昔の名で呼ぶ。
“面松斎”
沼田は “懐かしい響きですな”と少しだけ笑う。
「して、次にどのような手を打ちますか。」
急に現実へと戻された。為信は答える。
「田舎館の千徳分家を討ち、浪岡も併合する。」
沼田は腕組みをして、唸りながら悩む。
「田舎館はいいとして浪岡となりますと……安東をどうなさいます。」
安東氏と浪岡北畠氏は婚姻関係がある。浪岡を攻めることはすなわち、安東との手切れを意味する。為信も考え込んだが……今夜は深く想うことが難しい。手を大きくたたき、沼田にとあるお願いした。
”ひとつ、昔の様に占ってみないか”
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる