天音 1st Singl Amane/Amaoto(両面A) 初回限定仕様

三宅 大和

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1A-3(Amane)

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    七月二十一日、日曜日、午前十時半。

    集合時間の十二時までにはまだまだ余

裕があるが心配性の俺はいつも三十分前

に到着するように家を出てしまう。家か

ら五分歩いて最寄りの駅の前まで来る

と、ちょうど電車がプラットホームに姿

を現すのが見えた。別に次の電車に乗っ

たところで三十分前到着が二十分前到着

になるだけなのだが、この蒸し暑い季節

に五分以上待機することを考えると自然

と足は駆け出していた。

    扉が閉まるギリギリでなんとか乗り込

めた俺は自分でも驚くくらい息を切らし

ていた。高校を卒業して三ヶ月、体育の

授業の偉大さに気付く。

    車内はかなり涼しかった。弱冷車にも

かかわらず、かいた汗が冷えて少し凍え

そうになるくらい。これで『弱』ならそ

うじゃない電車は乗れたものじゃないな

と思いながら車窓に貼られた『弱冷車』

のステッカーを眺めていると、その下の

方に小さい文字で『混雑時は強冷操作い

たします。』と補足されているのに気付

いてようやく合点がいった。

    こんなに人の多い電車に乗るのはかり

久しぶりだ。高校卒業以来じゃないか? 

    もちろん平日の登下校時に比べたら日

曜の昼前なんて大したことないが、バイ

トの出勤は朝の十時でちょうどガランガ

ランな時間だし、そもそも休日にどこか

へ出かける事自体が極稀という生活を送

っていると座席が全て埋まっている時点

で多く感じてしまう。
 
    さっき入ってきたドアにもたれ掛かる

と向かいのドアガラスに自分が薄っすら

映っていた。黒いカッターシャツにベー

ジュのチノパン。

    思えば私服を着ることすら久しぶりな

気がする。家ではずっと寝間着だったし

外出するにも、ついでにバイト先に向か

えるようにいつも白いカッターシャツに

黒のチノパンというコーデで・・・

    色変わっただけやん。

 それはそうと、ベースは持ってこなく

てよかったのだろうか。昨夜、念のため

光也みつやに確認はしたが、「ま

あ、顔合わせみたいな感じやし・・・れ

に、曲だってまだ出来てないやろ。」と

言われた。

    確かに自分たちの曲は無いし、合わせ

練習はまだ必要ないのかもしれないが、

十二時集合って、いったい何時間ミーテ

ィングするつもりなんだ・・・

 まあ、これはあくまで俺の予想なのだ

が、集合時間が十二時間でも光也の言う

顔合わせみたいなものが行われるの

は・・・ざっと考えて早くても二時過ぎ

だな。簡単な話だ、顔合わせをしように

も、その肝心な顔がなければ何も始まら

ないのだ。

 えーっと、今が十時五十分だから、今

から一時間十分後、待ち合わせの改札前

に居るのは俺を含めた三人だ。俺には分

かる、そこに彼女の姿は無い。そしてお

そらく彼女はその時、俺達のスマホに向

けてこんなメッセージを送ってくること

だろう。

『いま起きた。』

 いつもそうだった。それが彼女、俺の

よく知る寿天音ことぶきあまね

いう女だ。
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