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情報屋・フィーズとの出会い
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そして、リディルとラテュルの二人の旅は始まった。出発当日は、人気の少ない早朝に屋敷を出たため、住民から注目を浴びるようなことはなかった。マントとフードで体を覆い隠し、最小限にまとめた荷物を持ち、屋敷の裏にある小道を使って街を出た。
街の外では、盗賊や魔物が多いと幼い頃から聞かされていたため、リディルは剣を極めており、ラテュルも術を極めていた。
「…もし途中で辛くなったら、言って」
「えぇ、ありがとう。リディルも、あまり無理をしないようにね」
表情こそわからないが、リディルが自分のことを気遣っていることがわかり、ラテュルは嬉しくて微笑む。
それからというもの、二人は、おおよそ一日かけて隣町までの道のりを進んだ。その途中では、話に聞いていた通り、何体もの魔物に遭遇したが、ものともせずにリディルが一掃していった。
そして、あと数キロで隣町に着くというところまで来た二人。辺りはすっかり暗くなっており、ラテュルは灯石のランタンを取り出す。すると突然、リディルがそれを制した。
「ラテュル、待って」
「? どうしたの?」
「…何か来る…」
リディルの言う通り耳をすますと、自分たちが歩いてきた方向から、こちらに向かって大人数で走ってくる足音が聞こえる。中には、数頭の馬の蹄の音も聞こえてくる。二人はすぐさま、近くにあった茂みに身を隠した。しばらく様子を見ていると、ちょうど自分たちの目の前に、一人の男が慌てた様子で走ってきた。
「くっそ…! どこまでしつこいんだ、あの連中は!」
(…追われてる…?)
男のぼやきを聞く限り、彼は何かの集団から追われているのだろう。その予想より早く、追手の集団も男の元に追いついた。姉妹たちは、より一層息を潜めて見守った。
「…あんたらもしつこいよなぁ…いくらせがまれても、こいつは渡さねえよ!」
「あぁ? まさかそんな状態でこの人数を相手にするつもりか? 情報屋」
「…っ」
「それは俺ら盗賊団が正しく使いこなしてやるよ! ただの情報屋でしかないお前が持っていても、宝の持ち腐れだ!」
(情報屋…ってのも胡散臭いけど、自ら盗賊を名乗っている方を始末するのが先行ね…)
「…ラテュル」
「私は情報屋の人を保護すればいいかしら?」
「お願い」
お互いの考えが一致したところで、リディルはフードを目深に被り直し、腰に下げていた水色水晶を短剣に変換すると、盗賊と情報屋の間に割り入った。突然の乱入に、当然の如く驚きを隠せない双方。
「……………」
「なっ…なんだお前は!?」
「…通りすがりの盗賊狩り…とでも言えばいいか?」
「…っ? (この声…女性か…?)」
「はっ! 盗賊狩りだぁ? そんな細い形で何ができる!」
「…やってみなきゃ、わからないだろう…」
(そこの情報屋の方…!)
「!?」
(こっちです!)
盗賊団の意識がリディルに集中しているタイミングを見計らって、ラテュルが情報屋を隠れていた茂みに呼ぶ。辺りが薄暗いことを利用し、情報屋はラテュルのいる茂みへ駆け込んだ。
その間に、男性を装ったリディルが盗賊団に向かってゆっくり動く。瞬間──…大柄な男たちが次々と倒れていった。最後の一人を仕留めると、風に吹かれたフードが外れ、リディルの顔が露わになる。最後の一人が手にしていた灯石のランタンがリディルの足元に転がり、髪や瞳の色まではっきりと彼女の姿を照らしだす。
「お…っお前は…ま、まさか…!!」
「硝氷のリディル!?」
「にに…逃げろぉ!!」
(リディル…? 彼女が…)
彼女が何者なのかを認識すると、盗賊団員は口々に恐れをなして、散り散りに逃げていった。辺りは再び静かになり、リディルはマントを翻してラテュルたちの元へ戻った。茂みからはラテュルと、先ほど追われていた情報屋を名乗る男も表へ出てきた。
「お疲れさま、リディル」
「あ…ありがとう! 本当に助かった!」
「お礼はいらないわ。私は盗賊が気に入らなくてやっただけよ」
「それでも助けてくれたことに変わりない! 何か、俺が持っている物をタダで譲ってもいい!」
「えっと…情報屋さん…そんなに必死にならなくても…」
「フィーズでいいよ。情報屋のフィーズ。君ら、見た感じ旅人だろう? 役立つものだって、この中にきっとあるから、ね?」
「…じゃあ、さっき追われていた理由を教えて」
「え…?」
「リディル?」
「盗賊団に追われるってことは、それほど貴重な物を所持しているということでしょう? そんなものを、何故あなたが持っているのかが知りたい」
「…それだけでいいのか?」
「お礼はいらないと言ったはずよ」
しばらく互いを見つめ合うと、フィーズは荷物を地面に置き、中を探った。
街の外では、盗賊や魔物が多いと幼い頃から聞かされていたため、リディルは剣を極めており、ラテュルも術を極めていた。
「…もし途中で辛くなったら、言って」
「えぇ、ありがとう。リディルも、あまり無理をしないようにね」
表情こそわからないが、リディルが自分のことを気遣っていることがわかり、ラテュルは嬉しくて微笑む。
それからというもの、二人は、おおよそ一日かけて隣町までの道のりを進んだ。その途中では、話に聞いていた通り、何体もの魔物に遭遇したが、ものともせずにリディルが一掃していった。
そして、あと数キロで隣町に着くというところまで来た二人。辺りはすっかり暗くなっており、ラテュルは灯石のランタンを取り出す。すると突然、リディルがそれを制した。
「ラテュル、待って」
「? どうしたの?」
「…何か来る…」
リディルの言う通り耳をすますと、自分たちが歩いてきた方向から、こちらに向かって大人数で走ってくる足音が聞こえる。中には、数頭の馬の蹄の音も聞こえてくる。二人はすぐさま、近くにあった茂みに身を隠した。しばらく様子を見ていると、ちょうど自分たちの目の前に、一人の男が慌てた様子で走ってきた。
「くっそ…! どこまでしつこいんだ、あの連中は!」
(…追われてる…?)
男のぼやきを聞く限り、彼は何かの集団から追われているのだろう。その予想より早く、追手の集団も男の元に追いついた。姉妹たちは、より一層息を潜めて見守った。
「…あんたらもしつこいよなぁ…いくらせがまれても、こいつは渡さねえよ!」
「あぁ? まさかそんな状態でこの人数を相手にするつもりか? 情報屋」
「…っ」
「それは俺ら盗賊団が正しく使いこなしてやるよ! ただの情報屋でしかないお前が持っていても、宝の持ち腐れだ!」
(情報屋…ってのも胡散臭いけど、自ら盗賊を名乗っている方を始末するのが先行ね…)
「…ラテュル」
「私は情報屋の人を保護すればいいかしら?」
「お願い」
お互いの考えが一致したところで、リディルはフードを目深に被り直し、腰に下げていた水色水晶を短剣に変換すると、盗賊と情報屋の間に割り入った。突然の乱入に、当然の如く驚きを隠せない双方。
「……………」
「なっ…なんだお前は!?」
「…通りすがりの盗賊狩り…とでも言えばいいか?」
「…っ? (この声…女性か…?)」
「はっ! 盗賊狩りだぁ? そんな細い形で何ができる!」
「…やってみなきゃ、わからないだろう…」
(そこの情報屋の方…!)
「!?」
(こっちです!)
盗賊団の意識がリディルに集中しているタイミングを見計らって、ラテュルが情報屋を隠れていた茂みに呼ぶ。辺りが薄暗いことを利用し、情報屋はラテュルのいる茂みへ駆け込んだ。
その間に、男性を装ったリディルが盗賊団に向かってゆっくり動く。瞬間──…大柄な男たちが次々と倒れていった。最後の一人を仕留めると、風に吹かれたフードが外れ、リディルの顔が露わになる。最後の一人が手にしていた灯石のランタンがリディルの足元に転がり、髪や瞳の色まではっきりと彼女の姿を照らしだす。
「お…っお前は…ま、まさか…!!」
「硝氷のリディル!?」
「にに…逃げろぉ!!」
(リディル…? 彼女が…)
彼女が何者なのかを認識すると、盗賊団員は口々に恐れをなして、散り散りに逃げていった。辺りは再び静かになり、リディルはマントを翻してラテュルたちの元へ戻った。茂みからはラテュルと、先ほど追われていた情報屋を名乗る男も表へ出てきた。
「お疲れさま、リディル」
「あ…ありがとう! 本当に助かった!」
「お礼はいらないわ。私は盗賊が気に入らなくてやっただけよ」
「それでも助けてくれたことに変わりない! 何か、俺が持っている物をタダで譲ってもいい!」
「えっと…情報屋さん…そんなに必死にならなくても…」
「フィーズでいいよ。情報屋のフィーズ。君ら、見た感じ旅人だろう? 役立つものだって、この中にきっとあるから、ね?」
「…じゃあ、さっき追われていた理由を教えて」
「え…?」
「リディル?」
「盗賊団に追われるってことは、それほど貴重な物を所持しているということでしょう? そんなものを、何故あなたが持っているのかが知りたい」
「…それだけでいいのか?」
「お礼はいらないと言ったはずよ」
しばらく互いを見つめ合うと、フィーズは荷物を地面に置き、中を探った。
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