これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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06 しゃべる『勇者の剣』

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『ちょぉっとちょっと!なんでそんなあっさり魔法を使っておきながら落ち込んでんのよ?!「俺様てんさーい!」みたいに喜ぶとこじゃないのソコ?!』

「俺の十五年はなんだったんだ」

 ドン!と一つ床を叩いたトールヴァルドに、勇者の剣(または杖)は呆れた声をあげた。
『めんどくさい子ねぇ。いいじゃない。積み重ねてきた剣の腕が消えたわけじゃないんでしょう?ただほら、何もせずにちょちょいと使える魔法が追加されただけよ。武器が増えただけ!ね?剣ができるのに魔法までできるようになったのよ!』

「……そうか、剣ができなくなったわけじゃないな」
『そうそう!だから変な落ち込み方しないでよぉ。アタシが悪いみたいじゃないの!』
 トールヴァルドは、ベッドに横たわる勇者の剣(または杖)をぼんやりと眺めた。

 野太い声で女性のようなしゃべり方をするのはなんとも言えないが、どうやら悪い奴ではないらしい。
 長年努力した剣と、あっさり習得してしまった魔法を比べて落ち込んだトールヴァルドを励まそうとする優しさを持っているなら、きっといい奴に違いない。

 そこまで考えて、トールヴァルドはふと思いついた。

「そうか。剣(または杖)というよりは、魔法剣(予定)ってことでいいのか」
『えっ?なんでそうなるのよ!良かぁないわよ、諦めが悪いわね』
 魔法剣(予定)の言葉を無視したトールヴァルドは、希望に満ちて立ち上がった。

「魔法が使えるんだから、魔法剣(予定)でもいいだろう。大きく間違ってはいない」
『待ちなさいってば!アタシで魔物は切れないわよ!』
「それはわからんぞ。やってみないとな」
『えっ?やだやだヤメテッ?!アタシはキラッキラなまま綺麗でいたいのよ、返り血で汚れるなんて絶対に嫌よっ!』
「大丈夫だ、安心してくれ。俺の剣の腕は確かだ」
『いやぁああああフラグしかないいいいぃぃっ?!』

 魔法剣(予定)は野太い声で叫んだが、気分が上向いたトールヴァルドは明日のためにベッドに入って魔法剣(予定)をサイドテーブルに置いた。



 次の日は、一日何もない予定であった。

 だからトールヴァルドは、魔法剣(予定)の試し切りに出ることにした。
 昨日までと同じように、冒険者ギルドに行って魔物が出た場所の情報を仕入れて出かけるのだ。


『ね、ねぇ、本当にアタシでは切らないでよ?魔法の杖なんですからね!万が一振りかぶったところで、せいぜい殴ることしかできないわよ』
 トールヴァルドは、それに対して適当にうなずいて答えた。

 昨日の夜はかなり叫んでいたのできっと近くの部屋もうるさかっただろうと思ったのだが、魔法剣(予定)によると、その声は勇者にしか聞こえないらしい。

 つまり、魔法剣(予定)の言葉に答えてしゃべっていると、妄想相手に話しかける危ない人物に成り下がるということだ。

 もしかしなくても、歴代勇者が寡黙だった原因はこれかもしれない。


 トールヴァルドが冒険者ギルドに入ると、いつもよりも空いていた。

「何だ?ずいぶん今日は空いているな」
『まぁまぁまぁ。冒険者ギルドってまだあったのねぇ』

 思わず魔法剣(予定)の言葉に答えそうになって口を閉じると、トールヴァルドの独り言が聞こえたらしい受付の男性が答えてくれた。

「あぁ、今日はさすがに少ないよ。ほら、昨日は勇者様が誕生しただろう?だから、みんな飲めや歌えの大騒ぎでな。浮かれた奴らは軒並み二日酔いで休みだ」

 そういえば、昨晩はいつもよりも外が賑やかだった気がしないでもない。
 疲れているうえに色々と衝撃を受け、早々に寝てしまったトールヴァルドは気にもしていなかった。

「そういうのに流されずに働いてくれる人は貴重なんだ。今日も頼むよ」
「わかった」
『さすが勇者よねぇ。どの時代の勇者も、寡黙で真面目で正義感が強かったのよぉ』

 楽しそうに言う魔法剣(予定)の言葉には適当にうなずき、トールヴァルドは場所を確認してからギルドを出た。


 今日の魔物の目撃情報は王都の南東側の平原だった。

 実のところ、いつでもどこにでも魔物はいるのだが、特に多かった方面に対処した方が効率は良い。
 王都の中は騎士団が治安維持として活躍していて、王都の外は冒険者の範疇である。


「じゃあまずは、魔法を試してみるか」
『待ってましたっ!アタシも補助できるから、持ってくれていいわよ!』

 トールヴァルドは一瞬躊躇したが、しかしこれも訓練だ。
 腰に下げていた魔法剣(予定)を右手で持ち、ゆっくりと歩きながら魔物を探した。

 すぐに見つけた魔物は、体長二メートルほどの大きさだった。このあたりにいるにしては大きめの個体である。

「どんな魔法がいいんだ」
『え?何でもいいわよ。最後に魔物が倒されるイメージさえできれば』
「昨日も思ったんだが、魔法ってイメージしたものを形にするものなのか?もっとこう、『炎の刃』とか『水の鞭』とかだったと思う」

 平原までの間にも魔物を数体見かけたので、通りすがりに剣で倒してきた。
 しかし、ギルドの職員が言った通り今日は冒険者があまり動いていないらしく、平原には見渡す限り誰もいない。

 だから、一応気をつけつつも魔法剣(予定)と普通に会話することにした。

『それはね、単純にそれがイメージしやすいってことよ。多分、誰か最初に成功した人が魔法に名前をつけて、その名前を言いながら実現しているのを見た人が真似をしたんじゃないかしら。成功例を目の前で見ていたなら、真似もしやすいわよね』
 つまり、誰かが『炎の刃』と言いながら火の魔法を使うのを見た人が、その成功例をイメージして実現したというわけだ。

「なるほど……。イメージできれば、ほとんどの魔法は使えるのか?」
『それは、使う魔力の量にもよるわ。例えばそうね、王城を空に飛ばすイメージをしたとして、実際に飛ばすにはものすごい量の魔力が必要よ。さすがのトールヴァルドでも一人では無理ね』
「つまり、実際に作用するためには相応の魔力量が必要なのか」

『そういうこと。水でもそうよ。コップ一杯の水を出すだけなら簡単でも、干からびた湖に水を満たすなんていういのは無理でしょうね。トールヴァルドの魔力容量なら、ちょっとした池の水くらいはいけるかもしれないけど』
「俺の魔力容量はそんなに多いのか?」

 トールヴァルドは、こちらにまだ気づいていない魔物に照準を合わせた。

『そうよぉ。まぁそれでも、アタシが起きるのにはかなり魔力を使わせてもらったから、昨日はかなり疲れたでしょう?』
「ん?昨日謎に疲れたのは、魔力を使ったからだったのか」

 答えながら、トールヴァルドは魔法剣(予定)を魔物に向けて氷の礫をぶつけた。
 魔物は、氷が当たったところから全身凍っていき、そしてぼろぼろと崩れていった。

 砕けた氷が消えると、後には何も残っていない。
 魔物を討伐すると、何も残さずに消えるのだ。

『ってまた、ずいぶんと面白いイメージをしたものねぇ。そうそう。今後はアタシに魔力はいらないから安心してね。あと、あの感じが続くと魔力切れになっちゃうから気を付けて』
「魔力切れ?魔力がなくなるってことか。そうなったらどうなるんだ?」

『別に、魔法が使えないのと、全身だるいくらいよ。でもしんどいから、その前に休んだ方が良いわ。魔力の入れ物が空になるけど、休めばまたその辺から魔力を補充できるのよ。だけど、人界はちょっと魔力が薄いから大きな魔法はやめておいた方がいいかもねぇ』

 うなずいて聞きながら、トールヴァルドは次の魔物を探して歩きだした。

「そうか。魔力が切れた状態で魔法を使おうとしたらどうなる?」
『何も起きないわよ。空っぽのコップをひっくり返しても何も出てこないでしょ』
「なるほど」

 わかりやすい。
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