これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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36 その馬はズーパー

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 次の村に入ると、宿を決めて魔導協会に向かった。

 途中で数えきれないほどの魔物を倒してきたので、かなり財布が温かくなった。
 一通りの手続きを終えて、牧場に馬を買いたいと言いに行こうとしたときに、協会の職員に声をかけられた。

「すみません、えー、焼肉パフェのお二人に、折り入ってお願いがあるのですが」
『その焼肉パフェっていうの、聞くたびに違和感しかないわぁ』
「なんでしょう?」

 この状況で依頼といえば、多分魔物関連のことだとは思う。
 まずは聞いてみようと、トールヴァルドとピヒラは窓口に戻った。

「その、ピヒラさんはあのピヒラさんですよね?それに、トールヴァルドさんも相当な魔法使いとお見受けします。頼みたいことというのは、ここから南東の位置にある森の近くの魔物のことです。あの森は木の実や動物が豊富なので、村の大事な資源なんですよ。ですが最近、大型の魔物が何体も森の入り口近くに居座っていて採取ができないんです。できれば、あれを倒してもらえませんか?協会からの緊急特別依頼ということで、価格は五割増にさせていただきます」

「ヴァルド、どうする?」
「受けてもいいんじゃないか。あ、できれば、価格はそのままでいいから、馬の牧場に口をきいてもらえないか?二人で乗れる馬がいれば買い取りたいんだ。あまり個体数がいないなら厳しいかもしれないが、移動時間が短縮できるからな。可能なら買いたい」
『交渉交渉!協会に口をきいてもらったら、いい馬を買えるかもね☆』

 それを聞いた職員は、にこりと微笑んでうなずいた。

「そんなことでよければ、もちろん。牧場主には話を通しておきますね。依頼価格については、二割増とします」
 そう言って、さらさらと紙に何か書いていた。

 手渡された紙には、『依頼対応により達成後二割増・馬の購入権は別途』と書かれていた。

「こちら、お戻りになったときに窓口でお出しください。村人の話では大型の魔物が少なくとも三体はいたそうなので、三体以上の大型の魔物の討伐で依頼達成となります。このあたりの大型は森のところにしかいませんので」
 受け取ったトールヴァルドはうなずいた。

「わかった。明日取り掛かる。じゃあ、今日は武器の手入れくらいで休むか、ピヒラ」
「そうね、そうしましょうか」
『お休みも大事よねぇ』



 大型の魔物の討伐はすぐに終わった。近くに魔力溜まりがあり、むしろそちらの方が少し苦戦した。

 これまでの水たまりや池のような感じではなく、範囲は狭いのにやたら深い魔力溜まりだったため、蒸発させるのに何度も魔法を使わされた。
 ピヒラは魔物が出てくるたびに討伐して、トールヴァルドはひたすら魔力溜まりに魔法を放った。

 五回蒸発させてもまだ底が見えなかった。
 最終的に、十三回魔法を使ってやっと枯渇させられたのだ。

 途中から魔力溜まりの表面の位置が深くなりすぎて、湧いて出た魔物もそこから上がってこられないという珍事が発生した。
 もしかすると、昔の井戸の跡だったのかもしれない。

 ピヒラが、上から風の斬撃を放って倒していた。


 難しくはなかったが、とにかく時間をくわれてしまった。

 ついでに森の中を少し歩いて魔物を倒し、小さな魔力溜まりを蒸発させてまわった。

 平原よりも、森の中の方が魔力溜まりに遭遇する率が高い。
 人があまり入らない分、魔力が留まりやすいのだろう。

 結局二十体以上の魔物を討伐して、村に戻った。


 すると、村人に取り囲まれた。

 既視感しかない。

「魔王様!魔王様!!」
「カッコいい、魔王様!」
「素敵!今日、良かったら宿にまいりますよ」
『あらら、やっぱりトールヴァルドが魔王扱いなのね』

 若い女性はトールヴァルドに抱き着こうとしてきたので、ピヒラがダンスでも踊るようにひょいと手を取ってくるりと回し、向こうにやっていた。
 あまりに自然に人垣の中に戻されたので、女性は目を白黒させていた。

「うるさい!ヴァルドは勇者!あたしがパートナーなの!あたしこそが魔王なのよっ!この大剣さばきを見なさい!」

 ひょいと大剣を背中から抜き、ぶんぶんと軽く振り回してまた背中にすちゃっと戻す。
 鼻息荒く腕を組んだピヒラに、大剣を見て数歩下がった村人たちは目を煌めかせた。

「魔王様っ!」
「可愛くてカッコいい!すごい!」
「黒髪がなびいて美しい」

 じりじりと人が寄ってきたので、もみくちゃになる前にトールヴァルドが手を打った。

「申し訳ないが、今日は三十体近く魔物を倒してきたんだ。魔導協会に報告もしたいし、ここは通してもらえるか?」
 若干魔力で威圧しながら言うと、村人たちは顔を見合わせて道を開けてくれた。

「ごめんなさい」
「えっと、勇者様?魔王様も、間違えてごめんなさい」
「ありがとうございます、魔王様と勇者様」

 魔力の威圧のおかげで興奮がおさまったらしい村人たちは、嬉しそうな笑顔や申し訳なさそうな表情で二人を見送った。


『もう、トールヴァルドは顔にでも〝俺が勇者だ〟って刺青を彫るしかないんじゃない?これ、どこに行ってもしばらくありそうよね』
 確かに、いちいちそうやって騒がれてピヒラが訂正してもみくちゃにされていたのでは大変だ。

 魔導協会は国内に広がっている組織なので、そこで軽く情報を流してもらうのが良いかもしれない。
 今代の魔王はすらっとしているが大剣使いで、勇者はムキムキだが魔法使いだと。

 依頼を達成して口座に割増した依頼金を振り込んでもらい、そこから多めに引き出した二人は牧場に向かった。
 二人で乗れる馬をという希望を伝えたところ、馬を見て考えてほしいと回答があったそうだ。


 牧場には、やはり数頭しか馬がいなかった。

 声をかけると、厩の方から恰幅のいい男性が出てきた。
 牧場主だ。


「今いる馬は六頭でね。二人乗れるというとこいつとこいつ。ただ、こっちはちょっと厳しいかもしれん。となると黒毛のこいつなんだが、ちぃとばかしわがままでな。頭数が少ない分、甘えさせ過ぎたかもしれん」

 厩の個別スペースには、白黒ぶちの馬と、黒毛の馬がいた。

 確かに、黒毛の方が大きくて足も太い。
 そして、トールヴァルドとピヒラが入ってきたのを見てものんびりと草を食み、我関せずといった風だった。

 トールヴァルドは黒毛の馬の前に立ち、じっと馬を見た。
 黒毛の馬はそれに気づき、ちらりとトールヴァルドを見た。

 じっと見つめ合うと、馬は耳をくるくると動かした後、口をもぐもぐさせた。

「そうか、来てくれるか」
『えっ?今どうやって会話したの』

「こいつを買おう。馬具も一緒に頼む」
「はい、かしこまりました。いやいや、目を見ただけで関係を築くとは、さすが魔王様ですね」
 牧場主の態度が変わった。

「いや、俺は勇者だ。魔王はピヒラの方だぞ」
 トールヴァルドが隣に並ぶピヒラを見て言うと、ピヒラは胸を張った。

「『魔王の大剣』を扱えるのはあたしだけだからね!」
 ピヒラの背にある大剣に目をやった牧場主は、一瞬目を見開いてからすぐに微笑んだ。

「さようでしたか。これは失礼いたしました。魔王様と勇者様に馬を提供できるとは、牧場始まって以来の栄誉です。どうか、よく使ってやってください」
『普通に買いに来ただけよぉ。ちゃんと料金は払うから、いい馬具をお願いね!』
 だからなぜ魔法剣(ごり押し)が言うのか。

「ありがとう。だが、大げさでなくていいから。二人乗りの馬具だけ頼む」
「もちろんですとも」

 にこにこと道具を揃えた牧場主は、黒毛の馬に馬具を乗せてくれた。

 料金を支払い、歩かせてみれば黒毛の馬は大人しく従った。
 乗るときにも静かに待っていたし、二人が乗っても堂々と歩き、ギャロップも軽やかだ。
 これなら、旅も快適になるだろう。

 牧場で飼葉を追加購入し、牧場の厩に馬を預けて宿に戻った。

「あの子、名前はどうしよっか」
『黒毛だから、可愛いのがいいんじゃない?』
「そうだな、ズーパーとかどうだ?」
「力強いわね。じゃあ、ズーパーで!」
『ええぇ可愛いのはどこいったのよ』

 黒毛の馬の名前は、ズーパーに決まった。

 次の日は南東の森以外の場所をズーパーに乗ってぐるりと巡り、魔物を討伐した。
 魔力溜まりもいくつか見つけたので蒸発させておいた。

 ズーパーはなかなか落ち着いていて、魔物がいても逃げるそぶりはなかったし、結界の中で待っているように言えば大人しく待っていた。
 この様子なら、問題なく旅ができそうだ。


 そして二人は、魔物を屠って魔力だまりを蒸発させる旅を続けることになった。
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