サーチング・サーガ

相有 枝緖

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14 コロッタに向かうついでに護衛

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 護衛依頼が始まるまでの間、思わぬ休暇を得たルノフェーリとベラは、のんびりと近隣の魔獣を狩って過ごしていた。

 そもそも、逆鱗の欠片は数十年かけて集めているので、急いでいるわけでもない。
 ただ、確実に返してもらいたいものだから、きっちりと進めたいだけだ。


 明日は護衛任務についてコロッタに向かう、という日の夜。
 ルノフェーリがベラの部屋にやってきた。

「どうしたの?」
「ベラ、これ見て」
 ルノフェーリが鞄から取り出したのは、腕サイズの牙だ。
 なかなか高価そうな素材である。

「え、そんなの持ってたっけ?」
 ベラの持っている鞄はポケットだけが魔法袋になっていて、入れたものをベラしか取り出せなようになっている。
 大きさを無視して入れられるタイプで、容量は衣装箱程度だが、とても重宝しているものだ。

 しかし、ルノフェーリは逆鱗を入れている巾着以外に魔法袋は持っていなかったはずだ。
 そもそもそんな大きなものを持ち歩いていたという記憶はない。

「抜けたんだよね」
「ぬけた?」
「そう。俺の牙」
「え?牙って抜けるもんなの?乳歯だったの?」
「乳歯じゃないよ!ていうか、俺たちって長寿だからさ。さすがに牙とかも劣化するわけ。だから、数百年ごとくらいに生え変わるんだよ」

 あー、と開けて見せた口の中には、生えかけの犬歯がちらりと見えた。
「ふぅん。あ、じゃあそれって竜の牙ってこと?」
「そうそう!でさ、これは逆鱗と交換してもらえるかな?」

 大きな牙は、ずしりと重い。
 ほんのりとクリーム色が乗っており、ベラが見る限りルノフェーリの魔力がしみ込んでいた。
「いけるんじゃないかな。確か、国宝になっちゃってるのもあるんでしょ?これと交換なら、交渉しやすいと思う」
「そっか。じゃあ、帝都まではしまっておいた方が良さそうだね」

 ルノフェーリは牙を受け取ろうとしたが、ベラはそのまま牙を抱きしめた。
「ベラ?」
「なんかこれ、すごいすべすべで触り心地いいわ」
「そうかな。ただの牙だけど」
「それだけじゃなくて、なんかこう」

 上手い言葉が見つからず、うーん、と首をかしげたベラは牙を頬に寄せた。

 ルノフェーリは、ベラが牙に頬ずりする様子をじっと見下ろしていた。

「まぁいいわ。とりあえず、これは私の鞄の魔法袋部分に入れようか」
「え?そんなのあったの?」
「そうそう。あんまり大きくないけど、容量弄ってあって、私しか出し入れできないやつ」
「すごい魔法袋だった!お値段も全然可愛くないんじゃないの?」
「うん、まぁあのとき持ってた貯金全部つっこんだわ」
「だろうねぇ」

 容量を変えた魔法袋は、同時に重量軽減もかけてある。
 かなりの貴重品である牙を入れておくにもちょうどいいだろう。

「じゃあ、お願いするね」
「わかった。私しか出し入れできないから、帝都で取引するときにタイミング見て出すわ」
「うん。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
 鞄の魔法袋部分に牙を入れながらそう言ったベラは、ルノフェーリがどんな顔をしているのかなど見ていなかった。





「じゃあ、馬車の守りは頼む」
「はい」
 その商隊と何度か仕事をしたことのある5人のパーティと、ルノフェーリたちの合計7人が護衛で、商隊の商人とスタッフが4人、商隊直属の護衛が2人の合計13人だ。
 商品を乗せた大きめの馬車が2台なので、割とコンパクトな商隊である。

「なるほど、調味料の問屋だからなんとなく香ばしい感じがしてたのか」
「多分それは香辛料系っすね。塩が一番多くて、あとは砂糖とか胡椒とか赤辛子とかがあるっす。最近は、乾燥させたハーブを砕いたものなんかも扱ってるっすよ」
「だから馬車も2台だけですむと」
「そういうことっす」

 ルノフェーリは、商隊のスタッフと話しながら歩いていた。
 ベラは、もう一つの馬車の横をのんびりと歩いている。

 程よい天気で、街道にはほかに誰の影も見えない。

 穏やかな旅路は、2日ほど続いた。



「雨はめんどうだなぁ」
 3日目は、朝から小雨が降っていた。

 街道は踏み固められて雨水が道の端へと流れ落ちるようになっているので、馬車の車輪が取られるようなことはない。
 しかし護衛や馬車のそばを歩く者たちが、雨で体温を奪われてしまうので、体力を削られてしまうのだ。
 自然と、進みが遅くなる。

 一応余裕を持った日程とはいえ、やはり歓迎できるものではなかった。
 なにより、盗賊や魔獣などが近寄ってくる足音が消されてしまう。
 護衛が消耗しやすい天気である。

 雨よけのコートを着たベラは、街道から少し離れたところに見えてきた森を見て目をすがめた。

「待ち伏せしてるわね」
 ぐりん、と肩を回して、後ろの馬車についているルノフェーリに声をかけた。

「前に行くわ!馬車よろしく」
「わかった。多分群れで10体くらいだよ」
「それくらいね」
 ルノフェーリもしっかり把握していたらしい。

 ベラは、先行している護衛のリーダーのところに追いついた。
「リーダーさん、あれ、私が散らしてきてもいい?」
「索敵持ちか?」

「ううん。ただの魔力感知的なやつ」
「そういや、あんたはA級だったか。一人で行くのか?」
「ええ。魔法で一掃するから」
 ベラは、片手で水平に切る仕草をした。

「そういうやつか。雨だし、その方がいいだろうな。こっちとしては問題ない」
 今回の護衛任務は、討伐数の上乗せがない代わりに依頼費用が高いのだ。
 獲物の取り合いにならないので、お互いの信頼性があるならわりと平和な契約方法である。

「ありがとう。それじゃあ、先に行くわね。馬車はルノ一人でも何とかなるから」
「わかった。一応、先行チームから一人少し下げておく」
 頷いたベラは、雨をものともせず颯爽と駆けて行った。


「雨だし、雷はまずいわね」
 地面を伝って仲間まで感電する可能性がある。
 木の魔法は一掃には向かない。

 近づくにつれて、潜んでいる魔獣がじっと隠れている場所も大体わかった。
「じゃ、土で」

 少し離れた場所で立ち止まると、魔獣もこちらを窺っているのがわかる。
 ふぅ、と一息ついたベラは、魔力をまとめてから拳を突き上げた。
「たぁっ!!」

 森の中が、土の棘で埋まった。

 地面という地面から2~3メートルほどの土の棘が一気に突き出し、魔獣を穴だらけにしながら串刺しにした。
 唐突に出てきた棘を避けられなかったらしく、ほとんどの魔獣が秒で討伐された。

 残ったのは、2体ほどだ。
「しぶといわ、ね!」
 上に跳んで逃げ、仲間を踏み台にした魔獣めがけて、四方八方から土の槍が飛んでいった。
 1体は何もできずに地に伏し、もう1体は空中で身を捻って避けるも、避けた先にも槍が飛んできて突き刺さり、そしてすべて討伐された。

「ふふふ。たまには大技を使うのもいいわね!」
 そう言いながら、ベラは地面から生える棘を崩して土に返していった。
 倒した魔獣は全部で11体、3メートルもない程度の魔獣ばかりなので、魔石はすべてベラの言うところのクズばかりである。
 それでも小遣い程度にはなるとルノフェーリとも話していたので、商隊が追いつくまでにベラはサクサクと魔石を回収した。

 魔獣の遺体は、まとめて土の下である。

 追いついてきたリーダーが、感心したように言った。
「早いな」
「魔法で攻撃したからね」

「ベラ、お疲れ」
「ん」
 ルノフェーリも追いついてきたので、ベラは馬車の近くに戻った。
「魔石は?ちゃんと回収した?」
「一応ね。でも2センチくらいのクズばっかよ」
「普通はそんなもんだと思う」
「さすがに、10センチサイズはここまで出てこないかぁ」
「もっと奥の方で探さないといないだろうね」

 それを聞いていたリーダーたちは、顔を見合わせた。
「なぁ、10メートルサイズの魔獣とか会ったことあるか?」
「見たこともねぇよ。もし遭遇してたら死んでる」
「だよな」

 ドン引きされているとも知らず、ベラとルノフェーリはのんびりと歩いていた。
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