12 / 17
第二幕 黒百合
凛月、母性に目覚める
しおりを挟む
「うわ?!」
突然の出来事に、凛月は慌てて数歩後ろへと下がる。
一体何事……と、さっきまで自分の立っていた場所を見ると、座り込んだ2人の子供が震えながらこちらを見ていた。
「こ、子供……?」
訝しげに凝視してくる凛月を、まるでこの世の終わりをもたらす怪物でも見るかのような表情で見返す2人の幼児。
「ひっ……」
「あっ、あの、あの……わたしたち……その……」
4つの大きな瞳が、今にも泣きだしそうなほどに揺れている。逆にこっちが驚くほどのその怖がられっぷりに、何もしていないはずの凛月に謎の罪悪感がのしかかってくる。
「あ、あのー」
「ひゃ?!」
「しゃべった?!」
2人で固く手を繋ぎあったまま、ぺたりと座り込んだ状態でざざざーっと器用に後退していく幼児たち。
(ど、どうしよう……)
あまりにも取りつく島のない状況に、今まで子供と触れ合う機会なんて全くなかった凛月は早くもお手上げ状態だ。
そして、そのまま互いに無言で過ごすこと、数秒。いや、数分。
最初に口を開いたのは、2人のうち栗色の髪を背中まで伸ばしたかわいらしい幼女だった。
「わ、わたしたち……華おねえちゃんに、おねえさんをお顔洗うところまでつれてってあげてって……言われて」
「あ、そ、そうなんですか」
「は、はい……」
凛月にぎりぎり聞こえるかどうか、蚊の鳴くような小さな声で幼女は言った。
一方、小学校にあがったばかりか、下手したら幼稚園児に見える子供相手になぜか敬語の凛月。それほどに心の距離を感じる。物理的にもだいぶ遠い場所で会話をしているわけだが。
「えーっと……じゃあ洗面台、じゃなくて、お顔洗うところまで、連れて行ってくれるかな?」
とりあえず、華が気を利かせてこの2人を凛月のところまで向かわせてくれたのは分かった。
会話をリードする事がこの上なく苦手な凛月だが、ここは年上として、率先してこの状況を打破しなければならない。
「わ、わかりました……!」
ぎこちない、それでも精一杯の笑顔を浮かべた凛月の言葉に、よほど生真面目な性格なのか、それとも華の人徳なのか。身体を震わせながらも本来の任務を遂行しようと幼女は立ち上がり、もう片方の幼児の身体を引っ張り上げる。
「ほら、鈴! いこう!」
「い、痛いよ風~」
本来の調子を取り戻しつつあるのか、お使いを任された子供らしく張り切る風。
それに対し、鈴と呼ばれた幼児は駄々をこねながら一向に立ち上がろうとしない。
口調や声質、髪の長さからおそらく風が女の子で、鈴は男の子だろう。
だが、それ以外にぱっと見でどちらが風でどちらが鈴なのか、凛月には区別がつかなかった。
よく見るとこの2人、おそろしいほどに顔がそっくりなのだ。
スモックのようなものを頭からスポンと被り、栗色をした線の細い髪にこげ茶色のくりくりでまんまるとした愛らしい瞳。そして、モチモチとやわらかそうなそのほっぺた。
女の子の風に比べ鈴の方が髪が短く、少しだけ背が低いだろうか。すぐに思い浮かぶ違いはそれくらいだった。
「はぁはぁ……お、おまたせしました」
「ご、ごめんなさい……おねえさん」
「ううん、全然大丈夫だよ」
もう! 早く立って!
だって~……。
そんな2人のかわいらしいすったもんだを眺めているうちに、凛月の人見知りフィルターもだいぶ効力が弱まったらしい。
少しだけ緊張のほぐれた凛月の態度につられたのか、風もはにかむようにえへへと笑う。
その笑顔は、同性でありながら凛月の庇護欲をこれでもかと強烈に掻き立てるものだった。
──嗚呼、母親になるというのは、こんな感じなのかもしれない。
突然吹き荒れた天使のような微笑みに、天を仰ぎながら謎の感慨に耽る久遠凛月、20歳であった。
突然の出来事に、凛月は慌てて数歩後ろへと下がる。
一体何事……と、さっきまで自分の立っていた場所を見ると、座り込んだ2人の子供が震えながらこちらを見ていた。
「こ、子供……?」
訝しげに凝視してくる凛月を、まるでこの世の終わりをもたらす怪物でも見るかのような表情で見返す2人の幼児。
「ひっ……」
「あっ、あの、あの……わたしたち……その……」
4つの大きな瞳が、今にも泣きだしそうなほどに揺れている。逆にこっちが驚くほどのその怖がられっぷりに、何もしていないはずの凛月に謎の罪悪感がのしかかってくる。
「あ、あのー」
「ひゃ?!」
「しゃべった?!」
2人で固く手を繋ぎあったまま、ぺたりと座り込んだ状態でざざざーっと器用に後退していく幼児たち。
(ど、どうしよう……)
あまりにも取りつく島のない状況に、今まで子供と触れ合う機会なんて全くなかった凛月は早くもお手上げ状態だ。
そして、そのまま互いに無言で過ごすこと、数秒。いや、数分。
最初に口を開いたのは、2人のうち栗色の髪を背中まで伸ばしたかわいらしい幼女だった。
「わ、わたしたち……華おねえちゃんに、おねえさんをお顔洗うところまでつれてってあげてって……言われて」
「あ、そ、そうなんですか」
「は、はい……」
凛月にぎりぎり聞こえるかどうか、蚊の鳴くような小さな声で幼女は言った。
一方、小学校にあがったばかりか、下手したら幼稚園児に見える子供相手になぜか敬語の凛月。それほどに心の距離を感じる。物理的にもだいぶ遠い場所で会話をしているわけだが。
「えーっと……じゃあ洗面台、じゃなくて、お顔洗うところまで、連れて行ってくれるかな?」
とりあえず、華が気を利かせてこの2人を凛月のところまで向かわせてくれたのは分かった。
会話をリードする事がこの上なく苦手な凛月だが、ここは年上として、率先してこの状況を打破しなければならない。
「わ、わかりました……!」
ぎこちない、それでも精一杯の笑顔を浮かべた凛月の言葉に、よほど生真面目な性格なのか、それとも華の人徳なのか。身体を震わせながらも本来の任務を遂行しようと幼女は立ち上がり、もう片方の幼児の身体を引っ張り上げる。
「ほら、鈴! いこう!」
「い、痛いよ風~」
本来の調子を取り戻しつつあるのか、お使いを任された子供らしく張り切る風。
それに対し、鈴と呼ばれた幼児は駄々をこねながら一向に立ち上がろうとしない。
口調や声質、髪の長さからおそらく風が女の子で、鈴は男の子だろう。
だが、それ以外にぱっと見でどちらが風でどちらが鈴なのか、凛月には区別がつかなかった。
よく見るとこの2人、おそろしいほどに顔がそっくりなのだ。
スモックのようなものを頭からスポンと被り、栗色をした線の細い髪にこげ茶色のくりくりでまんまるとした愛らしい瞳。そして、モチモチとやわらかそうなそのほっぺた。
女の子の風に比べ鈴の方が髪が短く、少しだけ背が低いだろうか。すぐに思い浮かぶ違いはそれくらいだった。
「はぁはぁ……お、おまたせしました」
「ご、ごめんなさい……おねえさん」
「ううん、全然大丈夫だよ」
もう! 早く立って!
だって~……。
そんな2人のかわいらしいすったもんだを眺めているうちに、凛月の人見知りフィルターもだいぶ効力が弱まったらしい。
少しだけ緊張のほぐれた凛月の態度につられたのか、風もはにかむようにえへへと笑う。
その笑顔は、同性でありながら凛月の庇護欲をこれでもかと強烈に掻き立てるものだった。
──嗚呼、母親になるというのは、こんな感じなのかもしれない。
突然吹き荒れた天使のような微笑みに、天を仰ぎながら謎の感慨に耽る久遠凛月、20歳であった。
0
あなたにおすすめの小説
【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】
里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届くはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前にいる。
奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。
近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。
憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる