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01 ー nothing ー
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しおりを挟むその彼の班に、ある日、異動で新しい作業員が来たかと思ったら、しばらくしてそれが班長に指名された。
班長は若いが面倒見が良く、ずっと黙って作業している彼にも、よく進捗確認の声かけをしていた。
そういう所も見込まれてのグループ長なのだろう。
業務は円滑かつスムーズに進行して、処理も速い班だと評判も良かった。
ここでは業務の上で、ブロック名と本人コードの組み合わせで呼ばれる。
利便性優先なので、名前は知らなくとも不便はないし、実際に名前で呼びあっているのは、互いに名乗り合う程度の親密な間柄同士くらいだった。
個人情報保護が行き過ぎた世界だが、それも一体どこまで保護されているものなのか。
班長はグループ全員のコードを確認し、業務報告書に記入する。
終了時間に進捗纏めと報告をさせ、その場で直せるミスはその場で処理する。
黒づくめの痩せた無口な男のメモには、彼だけの気付きからのレアな事例の報告も多く、その記録を報告するので、班長はなんとなく彼のコードを覚えた。
週末、他班で、よく一緒に行動していた二人が休日に一緒に事故に遭ったらしく、人員補充出来るまで、業務の前倒しが出来ている手早いチームから一時的に一人ずつスライドさせるという話になり、班長が一時的に借り出される事になった。
慣れない作業で遅れが生じ、自分の班の進行も後でまとめないといけないし面倒だなと思っていると、そのグループに同じ様にヘルプで追加されて来たのは、例の黒づくめの無口な男だった。
知らないチームの中に、同班で互いに一応は顔見知りだったので、自然と組んで作業したり、不明点を相談したりするようになった。
業務上は無言だが、彼の仕事には相変わらず変な所に気のつくメモが付いていた。
業務終了後、お疲れ様と労うと、男はぺこ、と頭を下げて無言で帰っていった。
話に聞いてた通り、本当に業務上の言葉しか口にしない。
ずっと黙っているのが苦にならないようだった。
というより、うるさいのも、賑やかしいのも、苦手なようだった。
休憩中でもどこか外に出ているようで見かけないし、たまにロッカールームで雑談を仕掛けてみても、面白くもなさそうにボソボソと短く返事をする。
身の上話や、本人周辺の話題などは、ほぼ皆無だった。
殆どは曖昧な会釈と極端に短い相槌。深く突っ込もうとしても、聞いてどうすると言われると黙るしかないし、尋ねる方もそれほどしつこくもできなかった。
「何でそんな事聞くんですか」
にべもない言い草に面食らってしまう。
「いえ、別に…」
言われた方もそう返すしかない。
「仕事中なので」
「失礼します」
そんな風に冷たく返されたり、席を立たれて、会話は終了する。
バッサリ切られた後、なんで話しかけたんだっけ、と思い返すこともしょっちゅうだった。
それでも、あまりにも普段、周りとコミュニケーションを取っていないのが心配になって、こっちで色々話しかけてやらなければ、と思ってしまう。
円滑で迅速な業務の進行のためにも必要な事だった。
他の作業員には、「あの人、ここに配属されて来た時からずっとあんな調子で、何話しかけてもあんなだし、放っておいた方がいいんじゃないですか」とも言われた。
「いや、まあでも、仕事は普通にやってくれますし…」
言われた通り、話しかけてもろくな反応が無く、意味は無いといえば無いのかも知れない。
「彼は一体どういう人なんですか」
無駄と知りつつ上司にも聞いてみるが、作業所の個人情報保護規定で、前職や来歴、ルーツなどはこちらからは何も言えない、という返事が返ってくるのみだった。
なのでやはり本人と話すしかないのだが、本人があの始末なので、どうにも何の会話のきっかけもなかった。
来て、働いて、帰る。
通常の単調な日々が続く。
彼とは特に話すこともないまま毎日は過ぎて行った。
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