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01 ー nothing ー
12-1
しおりを挟むそれから少し経った帰り道、地元の駅で、電車から降りる彼を見かけた。
ここ数日、避けられ続けられている。
業務でのやり取りはしてくれるので支障はないが、それ以外では全くと言っていいほど逃げられる。
名前を聞いたくらいでそんなに怒るのかなと思い、こちらも少し向きになる。後を追い、声を掛けた。
「お疲れ様」
彼は振り返ってはっと息を吸い込み、口元を歪める。
「…」
途端に、足速に逃げるように歩く。
けれどこちらの方が背が高く歩幅もあるので、追いつくのはそれほど苦ではないし、あんながりがりに体力なら負けない。
こっちも、この数日避けられ続けて、何となく、この生き物を追いかけるのが楽しいような、意地悪な気分になっていた。
「名前…」
「…」
しつこいと思いつつ聞いてみるが、相手ももう何も言わない。
速足で階段を上がり、改札を通って、駅ビルをぐるぐる周った挙句、どこかに消えた。
アッと思ったが、黒い姿が公衆トイレにサッと入って行くのが辛うじて見えた。
追いかけて中に入ると、奥の広めの個室がひとつだけ閉じている。
ここに隠れてやり過ごそうとしているのだ。
互いに地元で土地勘もあり、家も知られているので、苦肉の策と言った所か。
その子供っぽさが面白くなって洗面台の側でしばらく待ったが、出てこない。
用を足しているような音もしない。
更に待ったが、何の気配もしない。
…あれ、大丈夫かな。調子に乗って、追い詰めてしまったかな…。
急に心配になってくる。
体力の無いのを知っているのに、無駄に追い回して疲れさせ、また貧血か何か起こして、中で倒れているのだろうか。
そうだった、こっちには思いもよらない弱さで突然倒れる奴だったっけ。
まずいな。
自責と不安でドアに駆け寄り耳をそば立て、何度もノックした。
「…あの…?」
返事がない。焦る。
「あの、あの、大丈夫ですか。また具合悪いのでは…」
「…」
「嘘だろう。おい、おい、きみ、返事をしろ。頼むから」
焦りでノックの音が強くなる。
中は静かで、何の音もしない。
どうしよう、まずいぞ、何かあったのか。
電話番号くらい知っておけば良かった。
中からは何の音もしない。
最悪を考える。
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