海のこと

文字の大きさ
18 / 401
01 ー nothing ー

12-1

しおりを挟む
 
それから少し経った帰り道、地元の駅で、電車から降りる彼を見かけた。

ここ数日、避けられ続けられている。
業務でのやり取りはしてくれるので支障はないが、それ以外では全くと言っていいほど逃げられる。
名前を聞いたくらいでそんなに怒るのかなと思い、こちらも少し向きになる。後を追い、声を掛けた。

「お疲れ様」

彼は振り返ってはっと息を吸い込み、口元を歪める。

「…」

途端に、足速に逃げるように歩く。

けれどこちらの方が背が高く歩幅もあるので、追いつくのはそれほど苦ではないし、あんながりがりに体力なら負けない。

こっちも、この数日避けられ続けて、何となく、この生き物を追いかけるのが楽しいような、意地悪な気分になっていた。

「名前…」

「…」

しつこいと思いつつ聞いてみるが、相手ももう何も言わない。

速足で階段を上がり、改札を通って、駅ビルをぐるぐる周った挙句、どこかに消えた。
アッと思ったが、黒い姿が公衆トイレにサッと入って行くのが辛うじて見えた。

追いかけて中に入ると、奥の広めの個室がひとつだけ閉じている。
ここに隠れてやり過ごそうとしているのだ。

互いに地元で土地勘もあり、家も知られているので、苦肉の策と言った所か。

その子供っぽさが面白くなって洗面台の側でしばらく待ったが、出てこない。

用を足しているような音もしない。
更に待ったが、何の気配もしない。

…あれ、大丈夫かな。調子に乗って、追い詰めてしまったかな…。

急に心配になってくる。

体力の無いのを知っているのに、無駄に追い回して疲れさせ、また貧血か何か起こして、中で倒れているのだろうか。

そうだった、こっちには思いもよらない弱さで突然倒れる奴だったっけ。
まずいな。

自責と不安でドアに駆け寄り耳をそば立て、何度もノックした。

「…あの…?」

返事がない。焦る。

「あの、あの、大丈夫ですか。また具合悪いのでは…」

「…」

「嘘だろう。おい、おい、きみ、返事をしろ。頼むから」

焦りでノックの音が強くなる。
中は静かで、何の音もしない。

どうしよう、まずいぞ、何かあったのか。
電話番号くらい知っておけば良かった。
中からは何の音もしない。
最悪を考える。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...