海のこと

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01 ー nothing ー

31-2

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「こんばんは」

「…」

何でここに来る。何でわざわざこんな時間に走ってるんだ。朝にでもやっててくれ。
この間ここでみっともない姿を晒して、ぐちゃぐちゃに悩んで、ここの仕事も辞めてしまいたいとさっきまで思っていた事など、この人には知る由もない。
なのに、逃げたい、と思ったのに、あんまり嬉しそうに来るから、呆気に取られて動けなかった。

「どうしたの。散歩?」と普通に話し掛けて来た。

「…買い物…」

「そっか。足は、もう大丈夫なのか」

「ああ…はい、もう」

「そうか。良かったな」

「はい」

しばらく二人とも黙り込む。落ち葉がカサリと音を立てる。
こうして話すのも、近くで互いの声を聞くのも久し振りだった。

「もしかしているかもと思ってた。元気そうでよかった」

「はい…、あ、じゃあ、失礼します、お疲れ様でした」

今すぐに立ち去りたくてそそくさと逃げる。

「あ、待って」

「は」

「こないだ、ここで、…その、大丈夫だったかな」

「…」

泣いたこと。見られたこと。
恥ずかしくて、顔を伏せる。

「あのあと、少し心配した。やっぱり送っていけば良かったって…」

「いえ。すみません、でした」

頭を下げる。
班長も頭をかいていた。

「僕が何か余計な事言ったのがいけないんだろう。済まなかった」

「…」

また、この人は、自分なんかにこうして謝って来る。
勝手な事したのは自分。海は慌てて首を振る。

「いえ、そんな、俺も…俺だって…」

言ってる途中でくしゃみが出た。

「あ、ごめんなさ…」

「ふっ」

はは、と明るく笑われた。

「寒いよね」

そう言うと、少し間を置いて、
「うち、おいでよ。また何か飲み物作るよ」と言った。

「…え」

まただ。また…
戸惑って、キョロキョロしてしまう。
またこの間みたいにみっともない事になってしまう。

でも、目の前で凄く、優しく微笑んで来る。

「来てよ」

「あ…あの…」

ずるい。
班長ってやつは人に命令し慣れている。
断れない…。

「…ハイ…」

「うん」

班長は嬉しそうに微笑んで、この前の時のように、着いて来てくれているか、気にしながら先を歩く。
海はその後を黙って歩きながら、気がついた。

「あっ…」

「え?」

後ろから小さく声がしたので、どうしたかと振り向く。
海は慌てて首を振って、また黙って班長の後を歩き続けた。
 
 
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