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01 ー nothing ー
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しおりを挟む朝、駅で、いつもの黒いコートとカバンの、ほっそりとした姿を見掛けて、声を掛けてみる。
「おはようございます」
海は、気がついて、こちらを一瞬見た。
「…」
けれど今日も、困ったように顔を逸らされ、離れた車両に乗り換えられてしまって、話が出来なかった。
仕事場でも、そうだった。
だから、昼休みもまだ、屋上には行けなかった。
そんな風にまたずっと何日か、彼とは特に話をする事もなく業務は終わる。
また声を掛けようとしたが、逃げるようにサッサと帰られてしまった。
今日もダメか。
しばらくダメなのかな。…もう少し、話したいのに。
このまま離れて行かれるのは切ない。
公園や、家に来てくれた時は、本当の事を話してくれている気がしていた。
この頃、二人でいる時は、何となく普段とは違う感じで話してくれている。
このまま、また閉じこもられてしまいたくない。
ふう、とため息をつき、引き継ぎをして帰ろうとロッカー室に入る。
「班長」
「あれ」
いつも一緒に昼食に出かけるグループの、栗色の綺麗なロングヘアの女性が立っていた。
仕事中はきっちりと髪をまとめているが、今は下ろしている。
「お疲れ様です。どうかしました?」
「あの…」
皆帰って、いつも海がその後から混雑の収まった頃にポツンと残っているけれど、今日はその人混みに紛れて帰られてしまった。
彼女は昼食の時も何か相談がありそうにしていたので、何かあったのかと思い歩み寄る。
「何か困りごとですか?」
話しやすいように、壁際のベンチに腰掛けて、相手より目線を下げた。
業務の事だろうか。それ以外の事だろうか。
個々の事情に立ち入らないまでも、何かあるなら、仕事に支障が出る前に把握したいし、相談には乗ってやりたい。
「何でも、どうぞ。何かありました?」
「あの、班長」
「はい」
「今日このあと、お時間ありますか?」
「あー…」
少し考える。
深刻そうな顔をしている。仕事場では話せない事か…
「うん、大丈夫ですよ」
「本当ですか。ありがとうございます」
「いつもの所行きましょうか。ちょっと待ってて」
さっと帰り支度をして、一緒にロッカー室を出て外へ出る。
昼食にいつも出掛ける店に行き、隅の方の静かな席に向かい合わせて座る。
「昼はいつもガヤガヤしてるから、みんなの前で言いにくい事あっても言えないですよね」
少し緊張しているようなので、促すように話し掛ける。
水が運ばれて来て、コーヒーを二つ注文する。
「はい、あの…」
「うん。何でしょう」
「今、お付き合いしているかた、いますか…」
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