海のこと

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01 ー nothing ー

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「あー…れ…。今晩は…」

ただ驚いて、普通に挨拶をする。

「…あっ、あの、…こんにちは…」

相手も、振り返って、おずおずと頭を下げる。

「いるのすぐ分かったよ。じゃあ、後はお二人でね」

そう言って、目の前の彼女はパッとレシートを取ってコーヒー2つ分の会計を済ませ、また明日、と笑顔で立ち去ってしまった。

「あー…」

残されて、二人は顔を見合わせる。

「そっちの席、行きましょうか?」

班長はコーヒーを持って立ち上がると、相手も慌てて立ち上がる。

「いいえ、私が移動します」

「や、いいよ。このテーブル、レシートもう無いし…」

そう言って、相手の向かいの席に移った。

「あの、どうも」

改めて挨拶をする。

「こちらこそ、友人がいつも、お世話になっています…」

相手もそう返してくる。

「いえこちらこそ…」

「…」

いつも楽しく喋っていたのに、今日はしおらしく黙られてしまう。

「…いつも、彼女の所に遊びに来てくれてますよね」

「騒がしくしてしまってすみません」

「いえ、お昼もいつも、楽しいですよ」

「あ、私も、その、皆さんの班、いつもみんなで仲良さそうでいいなって思ってました。A班の班長さん、いいなってみんな言ってます」

「いえ。ありがとうございます」

「…で、あの…私が初めてお昼ご一緒させて貰った時の事、覚えていますか」

「ええと、初めてはいつ頃だったかなぁ」

初めての時。
ちょっとうろ覚えだった。休憩時間なんだから、誰が誰を連れて来ようが構わないと言って人数が増えるのは良くある。賑やかなのは楽しい。

「すみません、私あの時、班長さんの注文、間違えて食べてしまって」

「あ?ああ、あれか。いえ。同じセット選んでたんですよね。サイドが違ったんだっけ」

さすがに思い出した。同じメニューを頼んで、先に届いたのをどうぞってやったら、よく見たら自分の注文のやつで。勧めたのは自分だったが、この子もびっくりして、何度も謝っていたっけ。

「そうです、恥ずかしい」

そうだった。女の子でもこれくらいは食べるのにと、全然食べない奴の事を思い出して、気持ちのいい食べっぷりに殊更ニコニコして見てしまった事があった。

「あ」

そうだった。ニコニコしながら彼女に、沢山食べてて、いいねみたいな事を言ったかも知れない。

「これが良かったんでしょって自分のぶんまでデザートくださって」

「ああ、そうだったね」

「…あの時私、凄い辛い恋愛してて、ダイエットもしてて、色々キツくて…。でも、班長さんが凄く、笑顔で喜んでくれて…とても、癒されたんです…」

「うん…」

「それで、あの…結局その人とは別れたんですけど…それで、こんな風に安心させてくれる人っていいなって…あの…彼女からもいつも凄くいい人だって聞いてて。その後も何度か寄るたびにお話して、やっぱりいい人だなって…」
 
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