海のこと

文字の大きさ
144 / 401
02 ー he ー

16-1

しおりを挟む
 
「駄目だっ…」

海は半分悲鳴のように叫ぶ。

班長は、手に持った袋の中身を軽く確認して、少し脱力した感じで笑った。

「あーあ。割れちゃった…」

そうして、シンクに残っていた破片をゴム手袋で丁寧に拾い、その紙袋に一緒に入れてゴミ箱に捨てた。

「はい、これでこの話は終了」

「……そんな事、…どうして……」

「いいんだよ。これで、オシマイ」

肩をすくめ、ソファの隣に腰掛けて、煙草に火を付ける。

「良くない…」

動揺する。

自分を庇ってくれた事がわかる。

酷い事をした。
自分のために、この人にも、酷い事をさせてしまった。

自分の身体を心配して、休みの日なのに、家に招いて、わざわざ自分のために食事を作って食べさせてくれた。
なのにこんな事をさせてしまった。

最悪だ。傷口がずきずきと痛む。自己嫌悪に陥って下を向く。

壊した。人の大事なものを。綺麗なものを。
庇わせて、同じ事をさせてしまった。
二つもあったのに、両方ともなくさせてしまった。ゴミにさせてしまった。

もう、どう謝ったらいいのか分からない。
それでも、侘びるしかない。

「…ごめんなさい…」

怪我をした拳を固く固く握り締める。

この人は、いつもいつもこんな事をする。
屋上で写真を失くしそうになった時も、警備を呼ぶために自分の貴重品を投げた。
公園の時も、寒いのに、自分の上着を脱いで寄越した。

俺なんかのために、いつも。どうして。

やめてくれ…。

「すみません……俺、やっぱり来るんじゃなかった。余計な事、するんじゃなかった」

海は、もう顔を上げられなくなって沈み込んで行く。

「帰ります……すみませんでした…」

そうしてのろのろと立ち上がって、お邪魔しました、と言って上着を掴み、出て行ってしまった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...