155 / 401
02 ー he ー
-
しおりを挟む封筒と言っても、封もしていない、慌てて無造作に突っ込んだようなものだ。
何だろうと取り出して逆さに振ってみると、四角い紙片のようなものがはらりと落ちた。
貼って貰ったものと同じ、何枚かの絆創膏。
突然、
何もない部屋の中に、夕暮れの風が吹いた。
木漏れ日の光。
新緑の揺れる音。
……治りますように、と、呟く声。
手に、唇を付けられた。
あれは何だったろう。
触れられた部分に手を重ねる。
あの瞬間、手から全身に何かが走って、涙が出そうになった。
急に胸の奥で何かが起きて、
傷ついた手をぎゅっと押さえる。
あの人は、傷は残らないと言った。
割れた破片も全部捨てて。
それでも思い出は残ると言っていた。
消えない思い出って、どんなものだろう?
何故消えないのだろう?
どうやって思い出すのだろう?
グラスは2つとも割れてしまったのに。
傷は消えても、
身体に染み付いて、心に焼き付いて、消えないもの。
俺の持っていないものを、あの人は持っている。
思い出しかたを、知っている。
あの人はきっと覚えている。
俺が忘れてしまっても。
傷が痛む。
もっと開いて、血が全部流れてしまえばいいと、ほんのさっきまで、思っていたのに。
その傷から全身に、違う何かが拡がって行く。
不思議な感覚。
何だろう。
その部分を押さえて、何が起きているか知ろうとする。
感触。
煙草の匂い。
声。
優しさ。
あの人が、治りますようにと、祈ってくれたこと。
ぐっと、瞼が熱くなる。
込み上げて来る涙を、必死にこらえる。
俺はすぐ剥がしてしまうのに、
あの人はこうして、分かってるみたいに与えてくる。
自分で傷を開いて、ここから消えてもいいと思ってるのに、
こうやって塞ぐものをちゃんと用意する。
掴まれた手。
洗い流し、血を止め、塞いでくれる手。
治るよ、と言ってくれた声。
少し震える手でその絆創膏を拾い上げる。
裏紙を剥がし、まだ血の滲んでいる傷に何とか片手で貼るけれど、傷とパッドが合わずに、ずれてはみ出てしまう。
自分で貼ると、こんなに上手くいかない。
貼りながら、こらえていた涙が堰を切ったようにぼろぼろと溢れ落ちる。
ばさりとベッドに倒れこむ。
上掛けをぎゅうと握り締め、熱くなる瞼を閉じる。
傷の痛み。疼き。
眩暈がする。
付けっ放しの照明が眩しくて、手を上げて光を遮る。
ふわふわふらつく感じがして、何度も寝返りを打った。
この眩暈は、きっと他人の家でずっと緊張していた疲れのせいなのだ。
ただそれだけだと言い聞かせた。
流れる涙の理由は、考えたくなかった。
こんなにいちいち泣くような自分ではなかったはずだった。
気にしなくていいからな、と後で改めてメールが来ていた事に気付いたけれど、沢山の気持ちが混雑して、返事を返せないまま、その週末は過ぎた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる