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03 ー slowly ー
14-1
しおりを挟む「おおい」
地元の駅。
ではなく、その一つ隣の駅。
いくつか路線が交差し、空港行きのバスなども出入りするターミナル駅で、出口が何か所かある。
そこの中央改札口で待ち合わせをした。
夜の帰宅や乗り換え客でごった返す中、スーツ姿の班長が、改札の向こうからめちゃくちゃ機嫌良さそうに、こっちに手を振っている。
そのあまりの笑顔に、何を言っていいか分からない。
改札を抜けて脇に寄り、仕事先の相手にする挨拶のようにぺこりとお辞儀をする。
「……んばんわ……」
「お疲れ様。ごめんな、混雑した所で」
「あ、うん。平気」
「じゃあ、行こうか」
「どこに行くの」
「ここ、ステーションホテルがあるのは知ってる?」
「ああ、うん」
駅ビルの上階に造られた、旅客用のホテル。クリーニング店やヘアサロンのあるショッピングモールに併設されていて、豪華では無いけれど、利便性は良さそうだ。
「君が、腹減ったなんて言ってくるから、もう嬉しくってさ。ちょうど僕もこんな格好だし、そこのレストランにしたんだ」
「ホテルのレストランって、そういうスーツじゃなきゃ駄目なのか」
海は慌てて自分の服装を確認する。
仕事用なのでだらしなくはないと思うが、あくまでも作業用の格好であって、きっちりとした他所行きではない。しかもこんな真っ黒なのでいいんだろうか。
「じゃあ、俺、いいよ」
小声であっさり引いていくので、班長は慌てて引き止める。
「平気平気。ローカル駅ナカのホテルなんて、旅行客が中継地として泊まるような所だし、スウェットやジャージじゃなければ大丈夫だと思うよ。真っ黒なのも、むしろ大人しくていいんじゃない」
「でも……」
「レストランは一番上の階で、窓際の席が取れたよ」
ダメ押しすると、海はそこでちょっと顔を上げる。
「前に衛星を見た、あそこのタワーの展望台ほどじゃないけど、ここもそんなに見晴らし悪くなさそうだよ」
「そう……なのか……」
それきり大人しく後をついて、一緒に歩く。
「でも、俺多分今日そんなにお金持って無い」
「僕が予約したんだし、今日は奢るよ」
「そんなの、駄目だ」
「だって、休暇中は全然使わなかったからなあ」
誰かさんのおかげだ。
横目で隣の男を見た。
事実、先日の全体休暇は、一緒に何処か泊まりがけで遠出、という選択肢もあったので、ある程度の予算をよけておいていた。
それなのに、誘いたかった奴から休め休めと言われ振られてしまい、結局友人のオートキャンプに呼ばれて参加しただけだ。
それも費用は仲間内で等分したし、独身だからと割り引かれ、子供や犬の相手をしてもらって助かったからと更に安くなって、その上犬にやられた寝袋のお詫び代まで貰ってしまったのだった。
「君と出掛ける予定のお金だったんだし、いいんだよ」
「けどやっぱり、後で、払う」
「別にいいってー。なあ。何食べる?何食べたい?」
班長はニッコニコでエレベーターのボタンを押した。
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