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04 ー touch ー
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しおりを挟む「子供用みたいだけど、君そんなに頭大きくないから多分………おおー、いい」
ごそごそと装着するその頭を見て、想像以上の出来栄えに嬉しくなる。
黒髪と、黒い立ち耳との、何という一体感。
「ちょっと幅がきつい」
「そっか。けど、凄くいい。ハマってる」
少し長めの髪が彼の両耳を覆い隠していて、頭の上にある方が本当の耳のように、黒髪から真っ直ぐ立ち上がっている。
僕は、ちょっとごめんと言って頭に触れ、プラスチックの部分を黒髪の流れで完璧に覆い隠してみた。
「ワー……」
黒の衣服。黒の靴。黒の頭。
小さめの顔に黒い目の、ちょっと不機嫌そうな黒い猫が、そのまま人間の服を着て、猫背でベンチに座っているようだった。
「猫だ。完璧」
少し締め付けるのを押さえている海の隣で、もう凄い笑顔でそのサイズ感や造形に見惚れてしまう。
「猫じゃない。耳だって自分で動かせないし、ちょっと痛い」
「写真撮っていい」
「駄目だ」
「にゃんって言って」
「言わない」
笑いながら、もういいだろ、とすぐにカチューシャを外してしまう。
「あ、取るなよ」
「だって痛いし」
「後で尻尾も買ってあげるから」
「いらない」
「似合ってたのに」
「こんなの付けて外出られない」
「知り合いの行ってる会社なんか、職場でやってるよ。内勤の人だけ、仮装で仕事してOKらしくて、毎年みんなですごい格好して記念撮影してるってさ。うちみたいな堅い所は無理だけど、楽しそうだよなあ」
「仕事って言っても、倉庫なんだろ。凄い格好でも何でもすればいいじゃないか」
「僕?僕はそんな凄い格好はしないよ。ああいう芸術的なのは上手い人に任せて、僕が学生のときやってたのは、コンタクトレンズだけ」
「だけ?」
「うん。真っ赤な奴をね。普段はサングラスをかけて、たまにチラッと見せるのがコツでさ。大袈裟な格好じゃない、普通の人のふりをして、普通の人たちの中に紛れてるのが本当の魔物みたいだろ。目だけ隠せばどこでも普通に行けるしね。サングラスを外すとみんなビックリして面白かったな」
その格好で、あちこちパーティーに参加した。同行の彼女はウィッグも使って、目は色違いでやっていたものだった。そんなのもしばらく誰ともやってない。
今年は猫の相棒と二人で、どこかのバーを冷やかすのもいいな。
「フーン……」
海は、カチューシャの輪の部分を広げたり閉じたりしながら、大人しく聞いている。
せっかく似合ってたのに、一瞬で外してしまって、残念だ。
「……魔物が来るから魔物の格好をするっていう話なのに、普通の人の振りをするのか」
「当日は街中魔物だらけでみんな凄いからなぁ。でも、普通の人の中に潜んでる方がリアルだろ。実際そういうのもあるかも知れないしさ」
「……」
「君はその耳付けて、帽子でも被って隠せばいい。それで飲みに行こうよ。どこかのバーでも、クラブでも」
「俺はいい」
「えー」
即答。わかってはいたけど。
「凄く似合ってたよ。女の子受けも良さそうなのに」
本当に、こいつは普通に、こんなに陰気にしてなければ、普段小綺麗にしてるし、嫌な感じの顔立ちでもないし、ちょっと駄目人間な所なんかも、そういうのが好きな女性には可愛がられると思うんだけどな。
「俺はそういうのはいいよ」
海はスッとベンチから立ち上がって、街灯の届かない所まで歩いて行き、樹の陰に入る。
黒い姿が闇に溶け込んで、影も形も判別出来なくなってしまう。
「おい……」
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