猫カフェは探偵事務所ではありません。〜女子高生店長の奮闘記〜それ別の階デスネ!?

猫寝 子猫

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いらっしゃいませ!ようこそ『森の猫さま』へ。

ある日の騒動〜地下室より暗いところ、カツ丼は出ないよ。

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 猫カフェ「森の猫さま」が営業しているビルは築五十年程の古い雑居ビルだが昨今の耐震偽装が横行する中で、
当時このビルの建設施工に携わっていた方々に大変感謝したい。
多少の増改築工事は有ったが基礎がかなりしっかりしているのであと百年経っても大丈夫、かもしれない。
地上六階、地下二階、屋上には庭園と増築した住居(探偵付き)も有る。
当時からしても随分お金をかけたのだろう、最初のオーナーさんは既に他界されているが、まさか自分のビルで猫カフェが開店するとは思わなかっただろう。
 初代オーナーは一、二階にある喫茶店の初代マスターでも有る、現在は四代目、「マスター」イコール「オーナー」だと思って間違いない。       
 
しかし50年近い歴史が有る喫茶店、地元の常連客も多い、そんな店を巻き込んでしまうとは…


 さて、今このビルの地下一階にある警備室では、ある女性が折り畳み式のパイプ椅子に腰掛け俯いていた。
折り畳み式の長テーブルを挟んで、喫茶店のロゴ入りのエプロンをした美形の男性が座っている。
重い空気では有るが、男性は威圧感を出していない、むしろ相手を気遣いハーブティーなんて出してる。イイヒトだ! 
 警備室には、ほかにも防犯カメラの映像を複数のモニターで確認する人や各店舗に物品を届けに来た車両の応対、その店舗に連絡する人、等の数名がいた。 等間隔でビル内を巡回もしている。不法な理由で共有スペースのトイレに居座る者があるので割とマメに。
 この部屋の奥を衝立で仕切って出来たスペースに女性たちがいる。服装は地味めのパーカー、フードで顔を隠しているが、彼女は知らないがすでにビル内の防犯カメラがこのビルの敷地内で不審な行動をしている彼女を写している、顔をとらえた画像もあるのであまり意味が無い。
女性はこの部屋に入ってから一度も口を聞いてない。ダンマリを続けている。
この男の人は優しそうだから、このまま黙っていればいずれ解放してくれる、そんな甘い事を考えている。
 そんなことは絶対無いのだが。
 
 そして彼女は後悔する、この時嘘でも何か理由をでっち上げて男性を信じ込ませれば、解放してくれたかも、
 もちろんだけどそんな甘い事は絶対無い、無いのだ。

 この後、別の人物がこの部屋に現れた時、彼女は絶望感に襲われる事を予測出来なかった。

 『お茶、冷めちゃったね。新しいの入れ直すね。』少し歳イッテるけどかなりのイケメンだ、優しく接してくれるのは私が可愛いから、もしかして私に気があるのかも…って馬鹿もマメに休憩を取り発言してほしいものだ、時間の経過が彼女の身勝手な頭脳に余裕と有りもしない妄想を産ませた。

 『とにかくもうすぐ迎えが来るから、お茶でも飲んで落ち着こうか?』 

 えっ?迎え?何で、私何も話して無いけど、家から迎えなんて来るはず無いのに?何言ってんの? 
 男性は彼女の表情が一瞬でも強張った事を見逃さなかった。 
 すると警備室の入り口のドアが開く音がした。警備員と二言三言、挨拶している声が聞こえる。 
 『蒼、様子は?』 
 『義兄さん、それが何とも…』…ちなみに実兄の事は「兄貴」と呼んでるらしい。 
 『変わるわ、さてっと…渡部 涼子さん、何でこんな事したの?訳教えてくれる?』部屋に入ってきたムっさいオヤジがイケメン男性と席を変わった。 
って何?教えてほしいのは私!なんで私の名前知ってるのよ! 
 『ち、ちがう!わ、私そんな名前じゃないし、違うから!』 
 『やっと話してくれたね。』
 あの優しそうなイケメンの顔が、急に恐ろしくなる。美形な分、余計に。
  
 『君ね、飲食店の、然も出入り口の側にあんな物を放置するなんて、不法投棄や営業妨害になるからね。』ムっさいオヤジが説教を始めやがった。
あんな物?猫カフェなんだから猫ぐらい引き取りなさいよ!かえって猫が増えてラッキーでしょ! 
 『知らない、知らないから、猫なんて!私じゃないから!』 

 『ね、猫?猫がどうかしたか?君が放置した紙袋の中は、汚れたタオルの様な物だけだっだぞ。』 
 『逃げ出したのかもしれないですね、猫だって汚い所は嫌でしょうし。』 


 『逃げた?逃げ出した?ありえない!バッカじゃないノ。あの猫はもう死にかけてたの!逃げ出すチカラなんて残ってる筈ないし、タオルだってクソ猫が自分で汚したの!』 

 『それってつまり!』
 『つまりは、君があの紙袋を置いたんだよな。そこまで詳しく袋の中身を言えるのだからね。』 
 
 『何よ!猫カフェなんでしょ!
子猫の一匹くらい引き取りなさいよ!』 
 
 『さっきから何を言っているのか理解出来ないのだか、ウチは猫カフェじゃないんだが?ここで君が生まれる前から営業している「喫茶店 スピカ」、この人のエプロンにもお店のロゴがプリントされているだろ。』 

 えっなに、何言って、このクソオヤジ、 猫カフェじゃない?

 『喫茶店の敷地内に不法に不衛生な物を置いた事に対して、被害届を近くの交番に出した。』 

 えっ 

 『先週も同じ事があって、お巡りさんに相談したら、被害届を出す事を勧められてね、その矢先だから警備の人も直ぐ対処したんだ。』 
 
 ちょっと誰よ、私の前に余計な事したのは!ネットに晒して社会的に殺してヤる! 

 再び出入り口が開く音がした。 
 
 『失礼します。鶴亀署の者ですが、こちらだと聞いて、よろしいですか?』 

 二人のオマワリが人の気も知らないでズカズカ入って来た。
 何、警察なんて呼んでるのよ、頭おかしくない? 

 『ご苦労様です、連絡した羽柴です。上の喫茶店の店主です。』 
 『こちらの方は?』 
 『この階の奥に有る古本屋の店番をしてます、北代です。羽柴の義理の兄になります。』  
 『失礼ですが、店番とは?店長さんでは無いのですか?』 
 『店長が仕入れの為、あちこち飛び回っているんで、あっ、古物商許可証は有ります。』 
 『あのぅ、もしかして北代さんは北代整体の和泉先生のご子息さんでは?』 
 『親父をご存知で?』 
 『し、失礼しましたー!わたくし、北代先生には20年前に柔道の試合で肩を負傷し、思うように動かず選手生命が危ぶまれ、国立医大病院をたらい回しされ、著名な外科医にも匙を投げられていたところ、有る道場の師範に御父上をご紹介頂き、すっかり元どおりに、いえ、元以上に身体が動くようになりました。』 
 『そうですか、ちなみに義弟はその道場の元師範代ですよ。』 
 『えっえー、お見それしましたー。』 
 『義兄さん、もうその辺で、』
 『失敬、えっとコレが入り口の側に置かれていた紙袋です、匂うのでゴミ袋に入れて口を縛りました。防犯カメラの映像ですが…』
 『存じてます。そちらは警備会社に問い合わせますので、大丈夫です。』 
  
 なんでニコニコ話してんの? 
私の事、無視して… 

 『では、さぁ君、ここだとこちらにご迷惑だから、署で詳しくお話し聴かせてくれないかな?』 
 『さわるな!エロオヤジ。キモいんだよ!』 
 ありえない、ありえない、逮捕なんてありえない、ざけんな!  
 『そんな態度を続けるなら公務執行妨害で緊急逮捕になるよ、いいのかい?』 
 『弁護士呼べよ、べ、ん、ご、し!』 
 『君、弁護士さんにお知り合いがいるの?呼ぶのは良いけど、警察署に着いてからだよ。』…… 


 『お疲れな、蒼坊。』地下駐車場にパトカーが止まっている。最近のパトカーってまたモデルチェンジしてカッコイー!とか思っているのだろう、義兄さんは繁々パトカーを見ていた。目の前でロボットなんかに変形したら本望だろう。 
 『後ほどご連絡します、前回の件も含め、一度署の方にもお呼びする事に成るやも知れません。』 
 実際にパトカーを見て、観念したのか、先程まで暴言を連発していた彼女は静かになった。 まぁ、アレだけ騒げば疲れるだろう。
 『では、これで失礼します。』
  
 パトカーを見送ると、警備員にひと言かけてから店に戻る。義兄さんにも
 『コーヒーでも、それとも梅昆布茶がいい?』と誘う。 
 『俺にもハーブティー。』 
 『かしこまり。』
 店には妻では無く、口の悪い親友が店番していた。もっともあの時点で店は急遽臨時休業し、お客もこの時間は地元の常連さんしかおらず、事情も全員が状況を目的しているので心配しながらも帰ってくれた。話し好きな方々だからこの事は明日には商店街を中心に広まるだろう、美談として。
 念の為この後に専門業者に消毒作業をしてもらう。 
 『新名から連絡有ったぜ。』
 『人の嫁さん、呼び捨てにすんな。』
  『人の妹、呼び捨てにすんっな(鬼の形相で)。』 
 『あとのはいいだろ!幼馴染なんだから、子供の頃は兄妹同然、一緒に住んでたろうよ。兄貴は俺に冷たいぞ。ツンデレか?』 
 『お前にデレて何か俺に功徳があるのか?』 
 『小鳩が首を傾げるように悩むなよ。』  
 『あと兄妹同然じゃない、姉弟だ。何気に立場上げんな。』 
 『細かいぞ!ナノレベルで。』
 『ハイハーイ、その辺でおしまい。それでなんて言ってた?』 
 『ん、姉貴が服貸してくれるとさ、一応風呂で髪とか洗ってくるからってよ。北代の家で。』 
 『う~ん、それはそれで大事な情報だけど、ほかの有ったんじゃない?子猫の事とか?』  
 
『それな、あぁ、大丈夫そうな、そうでも無いような、獣医師も最善を尽くすとは言っているそうだ。』 
 歯切れが悪い、こいつの姉貴に、いや俺の敬愛する義姉さんに聞いた方が速そうだ、と思っていると
 『もしもし、蒼ちゃん。そこにウチの口の悪いのと、もしかしてウチの猫バカ亭主いるよね?』
 口が悪い弟の姉も中々に口が悪い、いや機嫌が悪い様だ、自分のスマホではなく、店の固定電話にかかって来た。慌てて家を出たからスマホ忘れたそうだ。
 『七神ちゃんに連絡もらって動物病院行ったら、新名ちゃん服とかに猫のオシッコの臭いとか染み付いていたんで一度こっちで整えてからもう一度病院に行くね。』  
 姉も言いたいこと言って、そら亭主に代われと急かされた。
 『ん、なにかな?』 
 『何かなじゃない、私の可愛い妹にこんな酷い仕打ちをしたのは?もう調べて有るんでしょ?』
 『アレ覚えてるか、ミコやメイの動画を店のホームページで見れるようにするから、参考に他にもどんな風に撮影してるか、
YouTubeとか猫好き動画を皆んなで見てたろ、リビングで。』 
 『アレね、結果、ウチの子1番可愛いって騒いで参考にならないアレだ、で、それがどうしたの?』 
 『アレでさ、子猫で検索して順番に色々見ていたろ、たまに酷いのは飛ばして見ていたけど、いたろ?子猫に大人用のシリアルタイプ食べさせてた、オタサーのヒメみたいな子。』 
 『なんだか覚えている、その子なの?』 
 『ん、間違いない。小学生の頃、舞華たちに嫌がらせしてた上級生だ。』







 『失礼しまーす。わたくし、ネズミ、シロアリ、スズメバチなど退治、駆除、消毒など承っております、サンダー消毒の山田ともうします。本日はなんでも野良猫の糞尿の被害による清掃と消毒と伺っておりますが、』 
 『あ、ご苦労さまです。車は地下の駐車場に止めて下さい。係の人には伝えて有りますから。』 
 『承知しました。』
 『よろしくお願いします。』
 
    



『あれ、山田と書いて「さんだー」なのかな?』
 『マジで、聞いてくるか?』
 『失礼だよ、二人とも。』
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