運命の番

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竜人の過去

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「レイド殿下、グラーツから書簡が届きましたよ」

朝食時にノア女王に渡される。
さっと目を通し、静かに畳んだ。

「もしや急用か?」

セトが遠慮なく尋ねる。
前国王2人は遠方から来たため、しばらく王宮に泊まり、アーシェンの結婚までの調整業務や、父竜セーカについての話し合いをするようだ。

昨日はレイド暗殺未遂事件については戒厳令が敷かれていたのか、それに触れる者はいなかった。

「実は業務を放り投げて、突発的にイシスに来てしまい家族が怒っているようです。もし期日までに帰城しなければ妹を皇太子にするので、アーシェンとの結婚は諦めろと書かれています」

あっはっはっ!とセトが大笑いしている。

「レイド殿下も、母上の皇帝もやることが面白いな。アーシェンに惚れて寝ずに飛んできたと聞いた時は半信半疑だったが、なるほど狼獣人も番への愛はすごいんだな。竜人と同じ位か?」

「娘は竜の番で、孫が狼の番になるなんて。こちらも甚だ迷惑ですが、マデリーン様の心労もわかります。アーシェンの子供がこちらに来るまでの間、グラーツの姫君のイシス強制滞在は決定事項でしたが、こちらとしてはアーシェンに嫁いでほしくないので、お話がなくなるならそれで結構です」

セトは楽しんでいるが、イングリッドは辛辣だ。

母マデリーンは女帝になってから、人が変わったように厳格で怒りやすくなったので、規定の日時までに帰国せねば、本気で廃嫡されそうだ。
できたら、もう数日引き延ばして・・・と思っていた安直な息子の思惑は見通されていた。

イングリッドに迷惑だと、はっきり言われた狼獣人は言葉を選んで慎重に話す。

「妹のエスメラルダは憧れていたイシスに留学できると喜んでおりますので、本人に取って良い経験になると思います」

朝食の席で全員揃っていたのと、竜とエスメラルダの話が出てきたので憂慮していたことを口にする。

「ただセーカ様が私の代用として、エスメラルダに害をなさないか、それが非常に心配です」

神殿に封印されている黒竜。
殺し損ねた狼獣人の妹がやって来るのだ。
代わりにコイツを殺してやろうと、思ってもおかしくない。

アーシェンは父に頼んで、もうレイドに非道なことはしないと約束してくれたと言っている。
アレンもそんなことしたら母上もアーシェンも、父上と二度と口を聞きませんし、下手したら国外追放ですよと言ったら、もうしないと約束したそうだが。

可愛い子供達の前だ。表面上は何とでも言える。
あの竜はただの竜人じゃない。裏から平気で手を下せる人物だ。

「失礼ですが、セーカ様は闇の者ですか?」

ノアがさらりと答えた。

「そうよ。リュウ国の暗殺部隊にいたの」

リュウ王家の暗殺依頼を一手に請け負っていた下級貴族の父と、戦闘民族ザーデ族の娘との間に産まれたセーカ。

セーカの父はリュウ国には三つしかない、竜人の家系の一つに生まれた。この三家は共に、もう何代も竜が生まれてこないという問題に、頭を抱えていた。
病気にも戦いにも弱い人族のみの構成では、不安がある。竜人を増やさなければ、その内竜人族は絶滅してしまう。いや、もう絶滅したのではないかと誰もが思い始めていた。

竜人家系の貴族の長であるセーカの父は、人格が破綻していた。暗殺者にふさわしい非情な男で昔、手込めにした少数民族の少女が、しばらくして卵を産んでいたと調査部から知らされた時は、無感情な性格なのに狂気したと言う。

母は犯されて泣く泣く出産したのが卵で、中から出てきたのが竜だったのが驚愕だった。しかしヨタヨタした小さな子竜のあまりの可愛さに母性が勝った。

3才位から人の姿にもなれるようになり、セーカが10才まで部族の中で隠して、民族の戦い様式など教えながら愛情を持って育てていた。

成長するにつれ、本能で竜になり飛んでいくことが増える。外部から目撃されることがあったのだろう、いつの日か噂が広まり、セーカの父にばれてしまう。
子供を取り上げようとやってきて、抵抗した母は一太刀受けてしまった。
元は戦闘民族の女性、何とか生き延びたが寝たきりとなってしまう。セーカは怒りの余り、竜になって火を吹いたが、父を喰い殺し、その一族を滅ぼすには、まだ身体が小さかった。

セーカは母の命の保証と完全看護と、ザーデ族に手を出さないことを条件に貴族の家に入り、暗殺教育を受ける。
元々、戦闘の訓練を受けていただけあり、また父への復讐心と殺意を強く持っていたため、教えられたことを貪欲に吸収し、実体験で動きを覚え込んだ。

竜は毒が一切効かない強靭な体だが毒なしにしては暗殺者として迅速に機能できないので、毒薬の種類にも詳しくなった。
初めて人を殺めたのは13才だった。ロクでもない人物だったので何の感情も湧かなかった。それから幾度か業務をこなし16才になった時、弱っていた母が亡くなった。

セーカは母の実家ザーデ族の存続のために、この腐った貴族の跡取りになることを決心する。
まず全ての元凶である父には、毒で心身喪失の状態になってもらった。
邪魔な腹違いの兄弟や親戚を一人一人消していき、ザーデ族の人々に入れ替えていった。

亡くなった母はセーカを出産した後、結婚して弟が2人できたが夫が早世した。セーカは同腹の弟2人に後見人と、まともな教育係を付けた。18歳になった時に父の息の根を止め、家の乗っ取りは完了した。

その頃、リュウ王も代替わりした。
暗君から、凡庸だが比較的真面目な王になったのである。

前王のような無理難題や暗殺依頼が一気に減った。普通の貴族のような家風になってきたので、家のことは部族と弟たちに任せ、セーカは長い旅に出た。

竜の姿で何ヶ国か巡り巡って、リュウ国に帰る途中、イシスの上空を通った。本来は結界があって空も通れないはずなのだが、セーカには無いも同然で気がつかなかったし、イシス国についても無知だった。

飛んでいる際に何やらキラキラとした物が見え、気になって降り立ったら、そこに美しい番のノアが立っていたのだ。



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