運命の番

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前国王と前女王

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セト前国王に背中を押してもらわなくとも、狼と番は相変わらず泉の畔でいちゃいちゃしていた。

変態狼は紳士を装い、番が嫌がらないギリギリの行為を徐々に増やしていった。開脚と挿入以外は大体許してもらえるようになり、嬉しいような生殺しのような、でもやっぱり嬉しい気持ちで、今日も愛しい番と愛を確認し合った。



夕食の時間になり、昼に会ったセト前国王と、ノアとウルシュの母、イングリッド前女王を紹介される。

2人はまだ50代前半だが、退職して10年近くになるらしい。まだ40才位かと思うほど若々しい。

とするとノアとウルシュは、30才前後だろう。
こちらももっと若く見える。
早くして王位に就いたことになる。

イシスは熱い国で、沐浴や水浴びを日に2回以上することが多いせいか、国民は殆ど短髪だ。ノアとアーシェンは肩よりやや上で切り揃えているが、もっと短い女性の方が多かった。

イングリッドに至ってはベリーショート。
レイドは女性でこんなに短い髪は初めて見た。
グラーツの新米兵士の髪型のようだが、スラリとした細身で長身の彼女には似合っている。

ちなみにレイドはいつも一つに束ねている。狼獣人は全般的に肩下から肩甲骨位までは伸ばしている。
その理由は狼になった時に、短いとフサフサせずハゲができるからだ。
誇り高い狼に部分ハゲがあったら、威厳もヘッタクレもない。



「セト、相変わらずむさ苦しい。その汚い髭とクルクルした髪の毛を今すぐ剃ってきて」

「イングリッド、数年ぶりに会って初めの挨拶がそれか?髭はワシの顔の一部だ。クルクルなのは生まれつきだ、頭髪を剃る意味もわからん。それにワシは毎朝毎夜、沐浴をしてるぞ」

「食事中に不衛生な髭面なんて、不潔で不味くなるじゃない。お客様にも不潔で失礼よ」

不潔を連呼する。イングリッドが潔癖なのではなく、イシス女性全般が清潔感に重きをおくのだ。

ウルシュ国王のようなスベスベ肌で長身細身の男性が標準値のようだが、そこを目指しても目指さなくても、女性とお付き合いできる確率はないに等しい。
イシス男性が国内で伴侶を見つけるのは至難の技だ。

筋肉質でお髭の素敵な豪快紳士セト。
は国内では女性に全く認知されないが、たまに外国に行くとモテモテにモテる。なので外国に行きたい、住みたいと、酔っ払ってはよく洩らしていた。

セトもウルシュもこんなに美男子なのに独身なのが、イシス七不思議の一つだろう。

2人とも何年も前に、子種採集をされて何人かに利用されたそうだが個人情報は即座に完全抹消するため、王族の特異な力を持ってしても、子供を見つけることはできないそうだ。
現在イシスの神殿では、結婚する相手と血の繋がりがないかどうかの判定しかできない。

アレン王子も同様だが、王族の男性がどんなに大きな能力があっても不思議なことに一代で消滅する。男性の子供に能力が出ることはまずない。

たまにアーシェンのように能力のない女の子が生まれるが、隔世遺伝で次代の女児へは王家の能力がきちんと引き継がれていく。
女性から女性へのみ伝承されていき、現在に至るのがイシス王家の歴史だ。

「グラーツに行けるのが楽しみだ。王宮内にイシスよりも機能的で聖水の溢れる神殿を建設するから、アーシェン、安心して嫁ぎなさい」

「おじいさま、ありがとうございます」

もう長らく外国に出ていないセトは、平和なイシスの生活に飽き飽きしていた。波乱万丈なグラーツ帝国を、それも城内を見られるなんて儲けものだ。
アーシェンの結婚に、まんまと外国行きを勝ち取ったのである。

物知りで面白いセトが来て、アーシェンもアレンも話に加わり賑やかだった。
ノア女王も楽しそうにレイドに言った。

「そうそうレイド殿下、契約書にある同行者3名ですが、イングリッド医師が同行します。あとは護衛のシャルカと、教師のリリアーナと言う者です」

「イングリッド前女王陛下が、ですか?」

「母も外国に行きたかったんですって。母は結界が張れるし毒殺や暗殺も防いでくれるから。百人力よ」

それは大変ありがたいが、身分ある中年の女性がそんな簡単に、外国移住して大丈夫だろうか。
セトは色々な場所に行っており頑丈そうだし、神殿建設の間の短期間滞在だ。
だが、イングリッドは繊細そうだ。医師とは言え、豊かなイシスで長年生活してきた。
今からグラーツの生活に耐えられるのか。
イングリッド本人もレイドの思案が伝わったのか、意思の強い目で狼を見つめた。

「私は医者になりたかったけど、誠に残念ながら王になりました。今は人生を取り戻している最中なのです。外国の医療事情も見てみたいし、こう見えてもセトよりは忍耐力がありますので心配ご無用。ああ、もちろん一番はアーシェンの安全保証のためについて行くのですよ」

誠に残念ながら王に・・・。
母マデリーンと話が合いそうだと思ったが、2人の前国王は身分を隠してのグラーツ滞在を申し出た。

「もう普通の人として生きたいのです。結界が張れるだけで王族だなんてバレないでしょう。イシスの国民は全員張れますって言っておけば、さすが神様の国だって納得するはずです」

隣でセトが、うんうん。それで全く問題ないな!と頷いている。

前国王が建築家として、前女王が皇太子妃の医師としてグラーツ帝国に来ることがわかり、力強いと感謝する思う反面やはりイシスは特殊な国だと思った。

ちなみにその日の夕食はいつもの倍近く出たが、見事に無くなっていた。前国王が平らげたのだ。
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