運命の番

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初日

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今回の山間部の山越え視察は10日間かかる。
グラーツ帝都からは、移動距離は短いが、段々標高が高くなる。ただでさえ寒いグラーツ。高山地帯ほど生活が厳しくなるので、今回はその改善策を見い出すために、視察団が組まれた。

初日は街の水道設備を中心的に見て回った。
レイドが作画や図面を広げて説明を受けている時などは、アーシェンは横で静かに眺めていた。
もしアレンがここいたら、古代遺跡と現代都市を連想して感想を言い出しそうだなと、双子の兄を思い出した。


視察隊も護衛兵達も、皇太子の番が黒髪の美少女だと聞いていたので、馬車から小さく細い姿が出てきた時には、そこに一斉に視線が集まった。

だが、残念なことに少女は全身を布で覆われていた。

「何だあれは?イシスの民族衣装か?」
「いや、砂漠の方じゃないか。イシスの女性達を見たが、顔は隠してなかったぞ」
「何でも他のオスに見られたくなくて、特別発注した物らしい」
「じゃあ、なんで連れて来たんだよ」

一緒にいたいけど、見せたくはない。
狼皇太子の苦肉の策は、行く先々で人々を戸惑わせた。



「アーシェン、顔を見せてくれ」

馬車の中でレイドにベールを取られると、唇が重なった。アーシェンの顔がポッと赤くなる。

馬車にはシャルカとユニスが同乗している。
2人とも遠くを見てくれているが、人前でこういう行為はいけない。
抱きしめられ、再度キスをしようとしてくるのを、さり気なく避ける。

「これの付け心地はどうだ?」
「温かいですが、視界が狭いです」
「そうか。ならよかった」

どこがいいのだろう、とシャルカとユニスは思った。



宿に着き、マティアスが部屋割りを伝える時、レイドが横に来た。
「アーシェンの部屋は取れたのか?」
「はい。3号室です。シャルカの隣に」
「余計なことを。形式上取ればいいと言っただろう」
「さすがに一緒の部屋にはできませんよ」

レイドはムスッとして行ってしまった。



「ユニスはシャルカと同室の4号室で」
「え・・・お待ちください。マティアス様」
「どうしましたか?」
「女性と同室がいいのですが」
「シャルカは女性です」
ユニスはポカンとした。

「ああ、彼女が男性に見えましたか?ユニスは人族でしたね。私は匂いでわかりますので」
はい、と鍵を渡された。
レイドが男を護衛に選ぶはずがない。



「アーシェン、眠るまで一緒にいよう」
「もう寝てしまいそうです」
「じゃあ、寝るまで見ている」
「でももう遅いですし・・・」
「遅いからベッドに行こう」
「あの、ですが、」


「シャルカさん、アーシェン様の部屋の前で皇太子様が」
ユニスが横になっているシャルカに、心配そうに言った。
「はい。聞こえています」
隣で発情期の狼がゴネているのが。さて困った。
あの皇太子は強引だが一応婚約者だ。
撃退する理由がない。

イングリッド様は、アーシェンのことは心配しているものの、神託の通りになると半ば放任ぎみだ。建国以来、外れたことがないと伝わっているので、イシス国民は王家の神託決定を何一つ疑っていない。シャルカは別だが・・・。

セーカ様からは、狼の入室を完全阻止しろとうるさく言われた「世間知らずで純朴なアーシェンは、グラーツでの厳しい生活と、皇太子の我の強さに必ず根を上げる。だから署名式の前日に、後悔している娘をイシスに連れて帰る」
もしアーシェンが帰国したら、シャルカの働き口がなくなる。セーカ様が外国赴任を斡旋してくれたことには感謝しているが、その就職先をすぐに潰すような真似をされては迷惑千万だ。

ノア女王との正式契約は、アーシェンと生まれてくる双子達の安全保障、不慮の事故を防ぐこと。暗殺者や暴漢から身を守ることだ。

うん。セーカ様以外のが正しいな。



ユニスはシャルカがベッドから動かないので、いいのかしらと思いつつも、これ以上は干渉しないようにした。


アーシェンは根気よく狼を撃退した。

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