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天使系王子は成人の儀を行う
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しおりを挟むこの国では成人の儀で神々の祝福を受けた後、それをお祝いする盛大なパーティーが開かれるのが通例となっていました。
そしてその準備を今回は王子自ら行っています。
王子の成人の儀となれば他の王族の成人の儀よりも大きな規模になり、苦労も通常の倍だと思っていいでしょう。
『いつも主は甘いものなんて食べないでしょ?それに、こんな子どもみたいに口元にクリームをつけるなんて主らしくない。』
「心配してくれたの?」
『まあ、一応私の主だし?倒れられたら困るもの。』
アステリアは王子が努力家なのを知っていました。比べる人間を知らないので、人間が皆そうなのかもしれないけれど、悪魔では考えられないほど努力を王子は積んでいました。
その真っ直ぐな努力がアステリアには怖くすら感じられ、アステリアは悪魔らしく王子が自分の部屋に仕事を持ち込もうものなら、仕事の書類は全部放り投げた事もありました。
せめて自分の側では仕事をして欲しくなかったのです。
「今度の成人の儀は成功させたいからね。でもリアが思ってるほど無理はしてないよ?」
王子はアステリアを信愛をこめて“リア”と呼ぶようになっていました。
「それにリアの側では、私はいつでも子どもみたいなものだよ。」
王子は甘えるようにアステリアの手を自分の頬にスリスリとあてました。
こんなに悪魔に心を許していいものかとアステリアは胸がチクっと痛みます。
王子に大切にされている分、自分も王子を大切にしたいのに、いずれ自分はこの人間の魂を食べるのかと…。
胸を締め付ける程の罪悪感と手から感じる王子の頬の熱さに思わずアステリアはボンっと猫の姿に変化しました。
そしてさも当然の様に王子の膝の上に座ります。
「おや、どうしたの?リア。猫の姿になるなんて珍しい。」
『別に。もうお腹いっぱいだから眠たくなったの。』
「そう。どのケーキが美味しかった?」
『さぁ、どれもいいんじゃない?それよりいいから背中撫でてよ。』
「えー、リアの意見を参考にしようと思ってたのに。」
『ふん。』
アステリアは悪魔。まだ契約を結んでない人間相手なら、これくらい気まぐれに動いていいのだと自分に言い聞かせていました。
しかし、王子は知っています。
アステリアが猫に変化する時は自分の気持ちを隠したい時だという事を。
変化前、アステリアの顔は真っ赤になっていたので、おそらく恥ずかしい気持ちを隠したかったのだろうと笑うのを必死に堪え、言われた通り猫に変化したアステリアの背中を撫でます。
王子の小さくて可愛かった指は、今ではごつっとした男の指になっていました。アステリアは王子の大きな手で背中を撫でられるとすぐにウトウト眠くなります。
そしてアステリアが眠りにつく直前、王子は決まって猫の背中にキスをします。
アステリアは眠さもあり、これまでも今も特にその事を気にした事はありませんでした。
そして、そのまま深く深く眠りにつきます。
王子は眠ったアステリアの背中に1つまた1つとキスをしました。
今はいい…でも、いつか気づいて欲しい。
背中へのキスは“束縛”という表れを含んでいたのです。
王子は誰にも見せたことがないほどの狡猾な笑みを眠っている猫に向けていました。
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