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天使系王子は成人の儀を行う
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悪魔が大切にしているのは契約です。
故に契約遂行を楽しむ悪魔はいても、契約者に干渉する悪魔はほとんどおりません。
契約者が傷つこうが後悔しようが、悪魔には関係ない事だからです。
ですが、全ての悪魔がそうだというわけではありません。
アステリアの様に契約者の事を考えてしまう変わり者もいたのです。
『会いたい』
1度口にしてしまった言葉が、再びアステリア自身の肌に吸い込みます。
会いたい、会いたくて仕方ない。
金色の輝く髪を撫でてたいし、ほのかな石鹸の香りがする首もとに自分の鼻を押し当ててスリスリしたい。
低くいけれど、ゆったりとした声で“リア”と何度でも呼ばれたい。
アステリアはベットから降りるとフラフラした足取りでドアへと向かいました。
今度は部屋から出る為ではありません。いつ来るかも分からない王子をなるべく近くで待つためでした。
アステリアが契約者に抱いてる感情は悪魔にとってそぐわないものだというのは、アステリア自身も分かっています。
ドアの扉に背を任せ、アステリアはその場に座り込みました。
アステリアが何時間待とうと扉が開く事はありません。チクチクと古時計の音だけが部屋に響いていました。
『何やってんだろう…私は。』
アステリアは少し気持ちが落ち着いたのか、ふぅっと小さくため息をつくと重たい腰を上げました。
『っ!』
諦めてベットに戻ろうとしたその時、外からカツカツと歩く音だけが聞こえ、アステリアはドアにベッタリと張り付きました。
もしかして王子が来たのではないかと聞き耳を立てたのです。
甲高い女性の声。箒をはわく音。それも複数。
残念な事に外にいるのは王子ではなく、王宮で働くメイドたちの様でした。
メイドたちはここに部屋がある事を知りません。たまたま近くを掃除していたのでしょう。
メイドたちの立ち話を盗み聞きする趣味はありません。アステリアは残念な胸のうちを堪え、体勢を戻そうとしました。
ですが………
「ほらそこ、遊んでないで。王太子妃様がみえられるんだから。」
その言葉に対して、はーいと返事が聞こえ、メイドたちはパタパタと遠く去っていきます。
“王太子妃”
アステリアはその言葉を聞いた瞬間、足に力が入らなくなりました。
成人の儀を終えれば王子はいつでも結婚が出来ます。婚約者だっていてもおかしくないのです。
もしかして王子がパーティーの準備をこんなにも頑張っているのは、婚約者を妃として発表する為ではないだろうかとアステリアの脳裏をよぎりました。
休む暇を惜しんで妃の為に…?
王子に妃が出来たら、悪魔として契約をしていない自分はどうなるのだろう。
いつかは訪れる事だと頭では理解していたはずなのに、身体が強張ります。
王子はこれから幸せな結婚をし、子どもを作り、王としても、夫としても、父としても順風満帆に暮らすのでしょう。
その一方で自分はこの部屋から出ることも叶わず、捨てられるならまだしも、ただただ存在そのものを忘れられていくかもしれないとアステリアは恐怖でその身が強張りました。
“王太子妃”という言葉がアステリアの思考を悪い方悪い方へと向かわせるのです。
アステリアの赤とピンクの左右異なる瞳からポロポロと大粒の涙ながら溢れ出しました。
こんなことなら…
知らなければよかった。
気づかなければよかった。
10年もの歳月を王子と共に過ごしていく中で、アステリアは王子に家族とは違う愛情を抱いていたのです。
故に契約遂行を楽しむ悪魔はいても、契約者に干渉する悪魔はほとんどおりません。
契約者が傷つこうが後悔しようが、悪魔には関係ない事だからです。
ですが、全ての悪魔がそうだというわけではありません。
アステリアの様に契約者の事を考えてしまう変わり者もいたのです。
『会いたい』
1度口にしてしまった言葉が、再びアステリア自身の肌に吸い込みます。
会いたい、会いたくて仕方ない。
金色の輝く髪を撫でてたいし、ほのかな石鹸の香りがする首もとに自分の鼻を押し当ててスリスリしたい。
低くいけれど、ゆったりとした声で“リア”と何度でも呼ばれたい。
アステリアはベットから降りるとフラフラした足取りでドアへと向かいました。
今度は部屋から出る為ではありません。いつ来るかも分からない王子をなるべく近くで待つためでした。
アステリアが契約者に抱いてる感情は悪魔にとってそぐわないものだというのは、アステリア自身も分かっています。
ドアの扉に背を任せ、アステリアはその場に座り込みました。
アステリアが何時間待とうと扉が開く事はありません。チクチクと古時計の音だけが部屋に響いていました。
『何やってんだろう…私は。』
アステリアは少し気持ちが落ち着いたのか、ふぅっと小さくため息をつくと重たい腰を上げました。
『っ!』
諦めてベットに戻ろうとしたその時、外からカツカツと歩く音だけが聞こえ、アステリアはドアにベッタリと張り付きました。
もしかして王子が来たのではないかと聞き耳を立てたのです。
甲高い女性の声。箒をはわく音。それも複数。
残念な事に外にいるのは王子ではなく、王宮で働くメイドたちの様でした。
メイドたちはここに部屋がある事を知りません。たまたま近くを掃除していたのでしょう。
メイドたちの立ち話を盗み聞きする趣味はありません。アステリアは残念な胸のうちを堪え、体勢を戻そうとしました。
ですが………
「ほらそこ、遊んでないで。王太子妃様がみえられるんだから。」
その言葉に対して、はーいと返事が聞こえ、メイドたちはパタパタと遠く去っていきます。
“王太子妃”
アステリアはその言葉を聞いた瞬間、足に力が入らなくなりました。
成人の儀を終えれば王子はいつでも結婚が出来ます。婚約者だっていてもおかしくないのです。
もしかして王子がパーティーの準備をこんなにも頑張っているのは、婚約者を妃として発表する為ではないだろうかとアステリアの脳裏をよぎりました。
休む暇を惜しんで妃の為に…?
王子に妃が出来たら、悪魔として契約をしていない自分はどうなるのだろう。
いつかは訪れる事だと頭では理解していたはずなのに、身体が強張ります。
王子はこれから幸せな結婚をし、子どもを作り、王としても、夫としても、父としても順風満帆に暮らすのでしょう。
その一方で自分はこの部屋から出ることも叶わず、捨てられるならまだしも、ただただ存在そのものを忘れられていくかもしれないとアステリアは恐怖でその身が強張りました。
“王太子妃”という言葉がアステリアの思考を悪い方悪い方へと向かわせるのです。
アステリアの赤とピンクの左右異なる瞳からポロポロと大粒の涙ながら溢れ出しました。
こんなことなら…
知らなければよかった。
気づかなければよかった。
10年もの歳月を王子と共に過ごしていく中で、アステリアは王子に家族とは違う愛情を抱いていたのです。
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