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第一章
3
寛明にお茶をたっぷりごちそうになり、二人は帰途についた。
「ああ疲れた。家に帰ったらちょっと昼寝しよう。ちょっとだけ膝枕してくれる?」
利都の傍らを歩いていたチカがそうつぶやいて微笑む。
完璧な横顔に一瞬見とれてしまい、利都は慌ててそっと目をそらす。
――久しぶりにチカさんと、家で二人っきりで過ごすんだな……。
慣れた楽しい時間のはずなのだが、一ヶ月も時間が空いたせいか妙にドキドキする。
「どうしたの?」
利都のどんな異変も見逃さないチカが、かすかに頬を赤らめた様子を見咎めて、そう聞いてきた。
「なんでもない」
利都は笑顔で首を振り、指先でそっとチカの長い指を掴んだ。
「膝枕してあげるね」
「添い寝でもいいよ。やっぱり添い寝して」
そう言われた瞬間、ますます心臓がドキドキ言い始めてしまい、利都は口を小さく開けたまま俯いた。
――そ、添い寝……するの……?
「りっちゃん?」
「な、なんでもないっ!」
顔を覗きこまれ、利都は飛びのいてブンブンと手を振った。
チカはきょとんとした顔で、利都を見つめている。
「あ、あの……あの……えっと……」
何か言い訳しようと思ったのだが、心臓がドキドキ言い続けていて何も言葉が出てこない。
――ち、チカさんってこんな綺麗な顔してたっけ……?
利都は真っ赤になった自分を意識しながら小刻みに首を振った。
「あの、違うんだ、あのね……えっと……あ……あ……」
「熱があるの?」
チカが眉をひそめ、指先をそっと利都の額に当てた。
ひんやりした指先の感触に、ほんの少し利都の火照りが収まる。
「だ、大丈夫だよ。なんかチカさんの家に行くの久しぶりだから緊張した……だけ……?」
「えー?」
利都の答えに、チカが不満気な顔で眉根を寄せた。
「なにそれ。何を緊張するの?」
「わ、わかんな……い……」
再び恥ずかしくなってきた。利都は赤くなったまま落ち着かなく視線を彷徨わせる。
「……もしかして俺と寝るの、嫌になった?」
チカの言葉に、利都は飛び上がりそうになる。
往来で何を言っているのだろう、この美しい恋人は……。
「ち、ち、ちが……」
とんでもないことを言われた衝撃で、口から心臓が飛び出しそうになる。両手を組んで胸に押し当て、利都はチカから目をそらした。
だめだ、恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
「違うの?」
「ち、ちがう……」
まともに口も聞けないまま、利都はますます強く手を組み合わせた。
「よかった。しばらくしてないから忘れちゃったのかな? だとしたら新鮮な気持ちで楽しめそう。全部思い出させてあげるから大丈夫だよ」
チカが小さく笑い声を立て、ふわりと利都の肩を抱いた。
足が震えてうまく歩けない。
「そ、外で、そんなこと言わないで……」
「ん? りっちゃんは何の話してるの?」
からかうように言って、チカが利都の髪を優しく撫でた。
意地悪な言葉に涙ぐみそうになりながら、利都は赤く染まった顔でチカを見上げた。
「知らない!」
「ごめんね、からかって。俺、出張中会いたくてたまらなくてさぁ、ディスプレイ越しじゃ物足りなくて辛かったんだ」
チカの透き通るような目が、じっと利都を見つめている。
なめらかな白い顔に明るい笑みが浮かび、長い指が利都の頬に軽く触れた。
「もうすぐ一緒になれるんだよね、俺たち。りっちゃんが奥さんになったら、俺も今よりは落ち着いた気持ちで出張にも行けるかな。あ、むしろ夫婦で海外赴任とかあるかも。なんにせよ不安な気持ちで離れずにすむよね」
チカの言葉に、利都の心にきらきらした光が差し込む。
さっきまで感じていた恥ずかしさも少し和らいで、利都はチカの顔を見上げた。
「う、うん、もうすぐ、毎日一緒に暮らせる……はず!」
「はずって何? 絶対でしょ? 怖いこと言わないで」
チカが眉をひそめたので、利都は慌てて言った。
「あ、ご、ごめんなさい……」
利都の脳裏に、部屋にこもって出てこなくなる父の姿が浮かんだ。
どうすれば父を無事説得できるのだろう。何ヶ月もかけて説得していれば父も折れてくれるだろうか。
その前にチカに愛想を尽かされたりしないだろうか……。
先程までの恥ずかしさはどこへやら、だんだん気持ちが沈んでくる。
――お父さんのバカ……! 何であんな子供みたいな態度なの!
父は、チカの家族が自分にしてくれたように、チカを歓迎して優しく迎えてくれる気はないのだろうか……。
もの思いにふけっているうちに、チカの家に着いた。久しぶりの帰宅だが、定期的にホームクリーニングの人に来てもらっていたらしく、家の中は綺麗で、空気も篭っていなかった。
「今日は泊まってくよね?」
チカの言葉にドギマギしながら、利都は小さな声でうん、と返事をした。
チカが大きく伸びをし、大股でリビングを横切ってダイニングの冷蔵庫を開ける。
「うーん、空っぽ。しばらく出張はないはずだからデリバリー頼もうっと。りっちゃんなにか食べたい? ヨーグルトとかゼリーとか……」
「わ、私、食べるものをスーパーで買ってくる……チカさんがお昼寝してる間に……」
「添い寝してって言ったでしょ」
チカが笑いながら言って、片手で軽々と利都の身体を引き寄せ、胸に抱きしめた。
久々に感じた引き締まった胸の感触に、利都の心臓が躍り上がる。
「あ……」
何か言おうとするのに、顔に血が集まるばかりで何も言葉が出てこない。
「あー可愛い。ちょっと太った?」
「ふ、太ってないよ……」
ぎくりとなって利都は答えた。チカがいない間、友達や親に誘われるがままに美味しいものを食べ歩いていたせいだろうか?
「なんかムニムニしてていい抱き心地……気持ちいい」
チカの溜息が利都の耳に落ちてくる。
なんだか、かつて抱き合っていた頃の心地よさを少し思い出し、利都はうっとりとチカの胸に頭を預けた。
――やっと帰ってきてくれたんだ……寂しかったな。嬉しい。
そう思いながら、利都はチカの温もりを味わう。
「ただいま。やっと帰ってきたって気がしてきた。ほんとに逢いたかったよ」
チカはそういうと、利都の唇に幸せそうにキスをした。
「ああ疲れた。家に帰ったらちょっと昼寝しよう。ちょっとだけ膝枕してくれる?」
利都の傍らを歩いていたチカがそうつぶやいて微笑む。
完璧な横顔に一瞬見とれてしまい、利都は慌ててそっと目をそらす。
――久しぶりにチカさんと、家で二人っきりで過ごすんだな……。
慣れた楽しい時間のはずなのだが、一ヶ月も時間が空いたせいか妙にドキドキする。
「どうしたの?」
利都のどんな異変も見逃さないチカが、かすかに頬を赤らめた様子を見咎めて、そう聞いてきた。
「なんでもない」
利都は笑顔で首を振り、指先でそっとチカの長い指を掴んだ。
「膝枕してあげるね」
「添い寝でもいいよ。やっぱり添い寝して」
そう言われた瞬間、ますます心臓がドキドキ言い始めてしまい、利都は口を小さく開けたまま俯いた。
――そ、添い寝……するの……?
「りっちゃん?」
「な、なんでもないっ!」
顔を覗きこまれ、利都は飛びのいてブンブンと手を振った。
チカはきょとんとした顔で、利都を見つめている。
「あ、あの……あの……えっと……」
何か言い訳しようと思ったのだが、心臓がドキドキ言い続けていて何も言葉が出てこない。
――ち、チカさんってこんな綺麗な顔してたっけ……?
利都は真っ赤になった自分を意識しながら小刻みに首を振った。
「あの、違うんだ、あのね……えっと……あ……あ……」
「熱があるの?」
チカが眉をひそめ、指先をそっと利都の額に当てた。
ひんやりした指先の感触に、ほんの少し利都の火照りが収まる。
「だ、大丈夫だよ。なんかチカさんの家に行くの久しぶりだから緊張した……だけ……?」
「えー?」
利都の答えに、チカが不満気な顔で眉根を寄せた。
「なにそれ。何を緊張するの?」
「わ、わかんな……い……」
再び恥ずかしくなってきた。利都は赤くなったまま落ち着かなく視線を彷徨わせる。
「……もしかして俺と寝るの、嫌になった?」
チカの言葉に、利都は飛び上がりそうになる。
往来で何を言っているのだろう、この美しい恋人は……。
「ち、ち、ちが……」
とんでもないことを言われた衝撃で、口から心臓が飛び出しそうになる。両手を組んで胸に押し当て、利都はチカから目をそらした。
だめだ、恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
「違うの?」
「ち、ちがう……」
まともに口も聞けないまま、利都はますます強く手を組み合わせた。
「よかった。しばらくしてないから忘れちゃったのかな? だとしたら新鮮な気持ちで楽しめそう。全部思い出させてあげるから大丈夫だよ」
チカが小さく笑い声を立て、ふわりと利都の肩を抱いた。
足が震えてうまく歩けない。
「そ、外で、そんなこと言わないで……」
「ん? りっちゃんは何の話してるの?」
からかうように言って、チカが利都の髪を優しく撫でた。
意地悪な言葉に涙ぐみそうになりながら、利都は赤く染まった顔でチカを見上げた。
「知らない!」
「ごめんね、からかって。俺、出張中会いたくてたまらなくてさぁ、ディスプレイ越しじゃ物足りなくて辛かったんだ」
チカの透き通るような目が、じっと利都を見つめている。
なめらかな白い顔に明るい笑みが浮かび、長い指が利都の頬に軽く触れた。
「もうすぐ一緒になれるんだよね、俺たち。りっちゃんが奥さんになったら、俺も今よりは落ち着いた気持ちで出張にも行けるかな。あ、むしろ夫婦で海外赴任とかあるかも。なんにせよ不安な気持ちで離れずにすむよね」
チカの言葉に、利都の心にきらきらした光が差し込む。
さっきまで感じていた恥ずかしさも少し和らいで、利都はチカの顔を見上げた。
「う、うん、もうすぐ、毎日一緒に暮らせる……はず!」
「はずって何? 絶対でしょ? 怖いこと言わないで」
チカが眉をひそめたので、利都は慌てて言った。
「あ、ご、ごめんなさい……」
利都の脳裏に、部屋にこもって出てこなくなる父の姿が浮かんだ。
どうすれば父を無事説得できるのだろう。何ヶ月もかけて説得していれば父も折れてくれるだろうか。
その前にチカに愛想を尽かされたりしないだろうか……。
先程までの恥ずかしさはどこへやら、だんだん気持ちが沈んでくる。
――お父さんのバカ……! 何であんな子供みたいな態度なの!
父は、チカの家族が自分にしてくれたように、チカを歓迎して優しく迎えてくれる気はないのだろうか……。
もの思いにふけっているうちに、チカの家に着いた。久しぶりの帰宅だが、定期的にホームクリーニングの人に来てもらっていたらしく、家の中は綺麗で、空気も篭っていなかった。
「今日は泊まってくよね?」
チカの言葉にドギマギしながら、利都は小さな声でうん、と返事をした。
チカが大きく伸びをし、大股でリビングを横切ってダイニングの冷蔵庫を開ける。
「うーん、空っぽ。しばらく出張はないはずだからデリバリー頼もうっと。りっちゃんなにか食べたい? ヨーグルトとかゼリーとか……」
「わ、私、食べるものをスーパーで買ってくる……チカさんがお昼寝してる間に……」
「添い寝してって言ったでしょ」
チカが笑いながら言って、片手で軽々と利都の身体を引き寄せ、胸に抱きしめた。
久々に感じた引き締まった胸の感触に、利都の心臓が躍り上がる。
「あ……」
何か言おうとするのに、顔に血が集まるばかりで何も言葉が出てこない。
「あー可愛い。ちょっと太った?」
「ふ、太ってないよ……」
ぎくりとなって利都は答えた。チカがいない間、友達や親に誘われるがままに美味しいものを食べ歩いていたせいだろうか?
「なんかムニムニしてていい抱き心地……気持ちいい」
チカの溜息が利都の耳に落ちてくる。
なんだか、かつて抱き合っていた頃の心地よさを少し思い出し、利都はうっとりとチカの胸に頭を預けた。
――やっと帰ってきてくれたんだ……寂しかったな。嬉しい。
そう思いながら、利都はチカの温もりを味わう。
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