上 下
3 / 7

貧困の村

しおりを挟む
 私は、オークに牢屋から出され、奥の広間へと連れていかれた。
 広間につくと、そこには一人の青年が立っていた。
 私より少し背の高い爽やかな青年だ。
 その青年は、私に腰を低くして話しかけてくる。

「クッコ・ローゼ様。お初にお目にかかります。数々のご無礼、お許しください」
「なぜ、謝る……どういうことか説明せよ!」
 こんなひどいことをしておいて……謝って済まされるものではない!

「それは、私から説明しますわ」
「エミリア様……お願いします……」

(くっ……エミリア……)

 エミリアは語り始めた。
「今、この村は大変な危機に陥っています。それも、この村を収めるバーボン伯爵の容赦ない税の取り立てのせいで、貧困を余儀なくされているのです」
「何! それは本当か……」
「しかも、城にいるリキュール侯爵家の人たちと通じていて、彼らは甘い汁を吸っています。なので、姉様に協力してほしかったのです」

「それなら、国王に直訴すればいいのでは……」
「いいえ、そのことを知っているわたしは、侯爵家の人たちに見張られています。なので、うかつな行動ができなかったのです。だから、こうしてオークの襲撃を装って……」
「なんだ……そういうことだったのか……」

 事情は大体わかった。おそらく、国王に近づくたび、何かしらの妨害を受けていたのだろう。それに、エミリアは王家の血といえど腹違いだ。うかつに動けば消される可能性もある。だからここまで慎重だったのか。

 エミリアは、青年から書類のようなものを受け取った。そして、その書類を渡しに差し出す。
「なので、この書類と今の件を、国王に姉様から伝えてもらいたいのです」
「書類?」
「はい。その書類は伯爵家が大量に税を徴収している証拠です。徴収した金のほとんどは私利私欲に使っています。さらに侯爵が裏取引をしている証拠、密売に関わっている証拠、その他、いろいろな悪事が記録されています」
「そうか……ならばその役目、わたしが引き受けよう」
「あ、ありがとうお姉さま!」

「あ……ありがとうございます! わが村のために……」
 青年は感激し、涙ながらに頭を下げた。

「それにしても、オークを使うことはなかったんじゃないか?」
「いいえ、村の人を危険に晒すことはできません。私は一応オーク使いですので……それで……」
「まあ、いいか。それより、さっき牢屋で怪しい物音を聞いたのだが……」
「ああ、そこには厨房があるんですよ。おそらく魚の料理をしていたのだと思います」
「魚……」

「みなさま、できました!」
 かわいいメイドのエルフが料理を運んできた。

「これはこの村の人たちが作った最高の料理です。もっといい料理を出せたはずなのですが……今はこれが手一杯なのです。ささ、どうぞ、お召し上がりください」

「ああ、ありがたく頂戴する。それにしても……サバの煮つけが最高の料理とは……」
 これが、最高の料理だとすると、村の人々はいったい何を食べているのだ。
 よほど貧しい生活を強いられているのではないか!

 こんな不正を見逃してはいけない。
 大事な民を守れずして、何が国家だ!
 バーボン伯爵と、リキュール侯爵には、それ相応の償いをしてもらわなければならない。

 私は、この村のために一肌脱ぐことにした。
しおりを挟む

処理中です...