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はじめてのモフモフ

第3話 黒装束と狐っ娘姫

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「気をつけろ、早く目を塞げ!」

 黒装束たちは、慌てた様子で狐っ娘姫の目を黒いタオルで縛って塞いだ。さらに嫌がる狐っ娘姫を無理やり縛っている。

んええうああいやめてください!」

 狐っ娘姫は、抵抗はするものの、為す術はなく、黒装束たちにいいように自由を奪われていった。

「塞ぎました!」

「よし、撤収だ」

 嫌がる狐っ娘姫を大きなズタ袋に詰め、用意していた棒にその袋を縛り付た。そして、その棒を4人ほどで担ぎ、黒装束たちは逃げ始めた。

「あ、あいつら……あんな少女に……ゆ、ゆるせない! あの神がかったシッポは僕がモフモフしなきゃダメなんだ!」

「な、何をする気ニャ!?」

 僕は、狐っ娘姫を助けようと、後先考えずに黒装束たちの襲撃現場へと突っ込んだ。どういうわけか、地面が蹴りやすい──これが猫っ娘の能力なのだろうか──まあ、これはこれで、いい感じだ。全力で走らずに、黒装束たちに追いつくことができた。

「まて、黒装束ども! その狐っ娘姫をどうするつもりだ!」

「チィっ! 変なのが来やがった!」

 黒装束たちは、担いでいた棒を下ろすと短剣を抜いて構えを取った。

「まて、ここは俺にまかせてねぇ。お前たちはそれを運んでぇ」

「「「わかりました!」」」

 黒装束の1人が命令口調で他の4人に司令を出した。4人は、もう一度棒を担ぎ、狐っ娘姫を運び始めた。

「逃さないぞ!」

 狐っ娘姫のシッポの毛並みにつられて、救出に向かったのはいいが、もしかするとやばいかもしれない。だが、今は自分になんらかの能力があることを信じるしかない。

 狐っ娘姫が入った袋を取り返そうと、彼らを追った。だが、目の前に1人の黒装束が立ちはだかった。

「お兄さ~ん、だめだよだめだよぉ。仕事の邪魔しちゃだめだよぉ。僕は【爆砕のジャック】っていうんだ。よろしく頼むよぉ」

 黒装束は、嫌味な声を出し、短剣を僕の顔へ突きつけてきた。

「爆砕のジャック? それに仕事? 単なる誘拐だろ!」

「チッチッチ! それが仕事なんだよねぇ。わかるでしょ。し、ご、と。それより、君の名前は?」

「悪党に名乗る名なんてない!」

「つれないねぇ」

 ──こいつら、犯罪集団か何かか!?

 ここでは、正当防衛の概念があるかどうかはわからない。だが、目の前に凶器を突きつけられて、何もしないわけにはいかない。それに……体が軽い。なんだか勝てるような気がしてきた。

「そこをどけ! さもないと……!」

 ジャックに飛びかかり、爪を立てて引っ掻くように腕を振るった。その瞬間、爪は黒いフードを切り裂き、ジャックの素顔を覗かせた。その素顔は、モヒカンの狼男だった。余裕で勝てそうな気がする。だが、油断はできない。

 ジャックは、怒りで顔を歪め、口調を変え、ドスの効いた声を出す。「て、てめえ猫族か! なら容赦しねえ」と、そう息巻いて短剣を振るってきた。だが、僕の体はそれに反応し、体を丸めてクルっと避けた。

 相手の攻撃に反応してからでも、ものすごい瞬発力で動ける。これが猫っ娘の力!? 僕は、ジャックの連続攻撃をことごとく避け続けた。

「このっ! ちょこまかと逃げやがって!」

「お前こそ、剣振り回してるだけで当たらないじゃないか!」

「うるせえ!」

 確かに、攻撃を避けるのは簡単だ。だが、攻撃しなくてはどうしようもない。だが、今の状態だと、攻撃を避けるだけで手一杯で反撃に移るチャンスがない。さらに、動けは動くほど、体が熱くなってくる。早いうちに勝負をつけないと、オーバーヒートしてしまいそうだ。

「おいお前、顔に毛が生えてきてるぞ」

「そんなことを言って気を逸らさせるつもりか!」

 ──顔? そんなことがあるわけ……(顔を軽く手で触れる)なんだこの髭……いや……少しモサモサしてる! いや、顔だけじゃない! 体も……!?

「本当に生えてる……」

 体が熱くなった原因がこれでわかった。体から毛が生えているのだ! しかも、さっきモフった猫っ娘と同じ毛だ! この発毛には、いったいなんの意味があるのだろう。

「やはりお前も怠惰なやつだ! 毛がないから、もしやと思ったが……その毛! 俺が剃ってやるぞ!」

「そ……剃られてたまるかっ!」

 ジャックは短剣を捨て、男の毛を剃るのに使った石のナイフに持ち替えた。それだと、逆にリーチが短くなって不利になるんじゃないのか? それはそれで僕にとっては有利なことなのだが……。

「気をつけるニャ! その石は魔法石ニャ! 見た目以上にリーチが長くて切れ味抜群なのニャ!」

「なんだって!? って、フィオラ? どこだ!?」

 フィオラの声が聞こえた。だが、辺りを見回しても姿はない。どこかの岩陰にでも隠れているのだろうか。だが、これで僕の油断もなくなった。フィオラには感謝しておこう。ひとまず、学生服を着たままじゃ、少し暑苦しいので、僕は着ている服を素早く脱ぎ捨て、猫男の体になった。

「ヒャッハー! そそるぜぇ! いい毛並みだぁ! そういうのを見てるとな、全部剃りたくたっちまうんだよおぉぉ!」

 さっきより、危険度が増した気がする。ジャックが持っている石のナイフ、毛を剃っていた時とは別に、禍々しいオーラが出ている。

 ジャックは、ナイフを振り回しながら襲ってきた。オーラに触れるとやばい気がしたので、早めに攻撃を避けた。その瞬間、ジャックは動きを止め、怒鳴り声を上げた。

「なんだてめえ! こいつのオーラが見えるのか!? しゃらくせぇ!」

 やはり、オーラは気をつけておいて正解だったようだ。通常は見えないものなのだろうか、だが、僕には見えている。なぜだか知らないが、これはこれで有利に戦えるということなのだろう。

 間合いギリギリまで詰め寄り、チャンスを伺う。しばらくして、ジャックは大振りを放ち、動きが硬直した。

「ここだ!」

 僕は一気に踏み込んだ。そして一回転して、両手の爪で引っかき攻撃をしかけた。だが、届かなかった。黒装束を切り裂いただけだった。切り裂いた所は、ピンク色の肌が露出していた。まさか、ケゾールソサエティーとかいうやつらは、毛を剃っているのか!?

「チィッ!」

 振り切ったナイフは、反動を利用して返ってくる。余裕で避けられる状況だ、ギリギリでオーラを避けて、もう一度踏み込み、ぶっ飛ばしてしまえばおそらく僕の勝ちだ。

 ナイフのオーラが襲ってくる。僕は、最小限の動きでオーラを避け、反撃に移った。踏み込んで一気に間合いを詰め……。

 ジャックがニヤリと笑う。踏み込んだ足は力が抜けたような状態になり、攻撃のチャンスを失った。気がつくと、僕の体にナイフのオーラがまとわりついていた。

「ばかな! たしかに避けたはず……!?」

「くらえ! 【毛脱爆砕けだつばくさい】!」

 ジャックはスキルのような言葉を放った。その瞬間、オーラに纏わりつかれていた部分が爆発し、生えていた毛が飛び散った。そして、無残にも、ピンクの肌を露出させてしまった。

「これでも手の内は見せないように戦っていたんだぜ! どうやら、いまのショックで動きが鈍くなったようだな」

「そんなわけ……」

 動こうとした瞬間、膝がガクンと落ちた。毛が抜けただけで、ほとんどダメージは受けていないはず。まさか、これが脱毛ショック!?

「覚悟しろ! その怠惰な毛、すべて刈り尽くしてやる!」

 僕は、よろけながらも体勢を立て直した。

 ──何か手を考えなければ……。
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