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はじめてのモフモフ

第4話 獣の力

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 それにしても、毛を剃られてここまで脱毛ショックを受けるとは思わなかった。自慢の髪型を虎刈りにされた時の数十倍のショックだ。──それとは少し、違う気もするが──もし、全身刈られたとしたら……考えたくもない。

 でも、これはジャックも同じ条件だろう。もし、毛を剃れば、さっきの黒い男と同じように、脱毛ショックを受けるはずだ。だが、ジャックの毛はおそらくモヒカンだけだ。あんな少ない量の、モヒカンを刈って効果は望めるのか!?

 そして、気になるのは今の攻撃だ。オーラを避けたはずが、なぜ纏わりついたのか。考えられるのは、【オーラが飛ぶ】もしくは、【オーラが伸びる】この2つだ。オーラが飛ばせるのなら最初から飛ばしてくればいいだけの話だ。それをしなかったということは、おそらく後者だからだろう。じゃあ、どこまで伸びる?

「さあ、かかってこい! その時がお前の最後だ!」ジャックは、ナイフを舌なめずりして、クルクルと回す。ナイファーでも気取っているのだろうか。

 とにかく、狙いはジャックの頭に生えているモヒカンだ。それと、やつのナイフの攻撃をギリギリで避けるのではなく、大げさに避け続けること。この2つが今回の課題だ。ここで時間を潰されると、狐っ娘姫を追えなくなる。早くなんとかしなくてはいけない。

「最後かどうかはお前が決めるものじゃない!」

 ──そんな安い挑発なんて、踏み潰してやる!

 もう少しだけ素早く動ければ、きっとあのモヒカンをどうにかできるはずだ。だが今の速度じゃ足りない。この足の力じゃ、避けるので手一杯だ。とにかく今は、出来ることをしながら、対策を練らなくてはいけない。

 僕は何も考えずに何度もジャックにアタックした。流石に何度もアタックしていると、動きを読まれ、オーラを食らってしまう。だが、少量程度なら、動いているうちに消えるようだ。それに、その程度の纏わりつきでは、ジャックはスキルを発動しない。

 しばらく攻防は続いた。何度も攻撃を食らったせいでオーラの間合いをつかむことができた。間合いは約1メートルほど伸びるようだ。だが、その間合いは剣の間合いと等しい。無手で普通に戦っていては話にならない。今のた。

「うろちょろするだけかぁ、お前は!」

「だまれ、モヒカン野郎!」

 あとはタイミング。それもだいたいつかめてきた。一度の攻撃であのモヒカンを刈り取れれば、僕の勝ちだ。

 ジャックはナイフをめちゃくちゃに振り回しながら踏み込んでくる。オーラを僕の体に絡めるためだけにナイフを振っているような動きだ。僕はオーラの射程外に逃げる、距離さえ保てば怖くない。

「終わりだな」ジャックは、そういってニヤリと笑った。

「何が終わりだ!」

「くらえ!【毛脱爆砕】!」

 ジャックが叫んだ瞬間、左足の毛が飛び散り、足元がぐらついた。

 ──何が起こった!?

「うわああぁぁ!」

 喪失感が精神を蝕み、思わず悲鳴を上げてしまった。よそ見をしていて、足を溝に落として汚した時の数十倍のショックだ!

 よく足元を見てみると、魔法石のナイフが地面に突き刺さり、オーラを出していた。そのオーラに左足が触れていたのだろう。おそらく、ジャックは別のナイフを隠し持ち、すきを突いてそのナイフを投げて罠を張っていたのだ。僕はまんまと罠にハマったわけだ。

「怠惰な無駄毛め、飛び散るがいい! あ~っハッハッハッハ!」ジャックは、勝ち誇ったように雄叫びを上げ、ナイフを振り下ろした。

 だが間一髪、バランスが崩れていたおかげで運良く転がり、その攻撃を回避することができた。僕は、四つん這いになり、距離を取った。

「チッ、外したか」

 ──危なかった。

 まだ奥の手を持っているかもしれない。だからといって、ここでちんたら戦っていたら、狐っ娘姫のモフモフがどこかへ連れ去られてしまう……時間がない。でも、諦めるもんか!

 僕は、四つん這いでジャックを睨みつけた。そのままゆっくりとジャックに近づく。

 ──あれ、なんで僕、四つん這いなんだ!? この方が動きやすい……まさか……。

 違和感なく、四つん這いで動いていたので気にも止めなかったが、明らかに動きの質が変化していた。一度静止し、体を注意深く調べる。すると、どうだろう……僕の体は普通の猫のようになっていた。骨格も、筋肉も、正しく猫のソレだ!

 ──やっぱりだ。まさか、毛が生えると同時に、骨格や筋肉まで変化していたのか……。

 どうやら、僕は完全に猫化していたようだ。普通、獣は4本足で大地に立つ。2本足で素早く動けるわけがない。つまり、4本足の方が素早く動けるということだ。

 じゃあ、ジャックはそれをわかっているのだろうか……いや、そんな素振りは見せていない。現に、このジャックは狼男だ(毛は刈ってあるが)。本来、猫よりは強いはずだ。だが、奴の動きは完全に道具に頼り切った人間の動きだ。

 僕は体を低くして、ジャックに向かって前進する。

「なんだ、土下座でもするつもりか?」

「そんなつもりはない!」

 ジャックの周囲を反時計回りに円を書くように移動した。獲物を狩ろうとする猫になった気分だ。ジャックも、僕の動きから目を離そうとはしない。

 ジャックは僕の方を向こうとして体をずらした。その瞬間、僕の体が勝手に反応し、四本足で地面を蹴った。

 ──速い! なんだこれ!?

 気がつくと、僕はジグザグに動きながらジャックに狙いをつけさせないように近づいていた。自分でも、あまりの速度にびっくりしている。本能に身を任せて動いたような、そんな感覚だった。

 ジャックのナイフが振り下ろされる。ナイフの先にオーラがほとばしる。魔法石ナイフの攻撃範囲だ。だが、ナイフが振り下ろされるよりも早く、僕はジャックの頭上に飛んだ。そして、前転しながら爪を立て、ジャックのモヒカンに照準を合わせた。

 「くらえええぇぇぇ! 猫パアアアンチイィィィィ!」

 僕は、叫びながら攻撃を仕掛けた。にもかかわらず、ジャックは僕の攻撃に反応できなかった。トドメとばかりに大振りして硬直したジャックは格好の的だった。

 ────シュパッ!

 僕の爪は、ジャックのモヒカンを刈り飛ばす。モヒカンが宙を舞い、切り口からピンクの肌が露出する。

「う……うわああぁぁぁ! ば、ばかなああぁぁぁぁ!」

 ジャックは頭を抑えて脱毛ショック状態に陥り、その場に倒れた。

「僕の……勝ちだよ……ジャック……」

 脱毛ショック。それは、ジャックにとって、どれほどのダメージだったのか、僕にはわからない。わかるのは、それを剃っただけで奴は脱毛ショックで倒れたということだけだ。

 ケゾールソサエティーという謎の組織。彼らはいったい何者なのか。なぜ毛を剃っているのか。

 どちらにしろ、毛の無いやつらには用はない。僕は、早くあの狐っ娘姫を助けて、あのふっわふわでもっふもふなシッポをモフモフしたい! ただそれだけだ。だから、僕は……奴等を追う……。せっかくモフモフな世界にやってきたんだ! モフモフハーレムで最高なモフモフを味わってみせる! 僕は、そう決意した。

 次の瞬間、強烈な目眩に襲われた。

 ──あれ、力が抜ける……これから狐っ娘姫のモフモフを……追わなきゃいけないのに……。

 体に生えていた猫っ娘の毛は突然消失し、耳も消え、骨格は人間に戻った。そして、僕はその場で倒れ、裸のまま意識を失った。
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