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はじめてのモフモフ
第7話 クラウド村へ
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「うわああぁぁぁ!」
それは、あっという間の出来事だった。カニ男のハサミは僕の髪の毛の両端を刈り取り、真ん中だけを綺麗に残した。そして、残った髪の形を整えられ、散髪は終了した。
「ちょっと物足りなかったわねぇ。本当は全身の毛を刈りたかったのだけど、毛がないんじゃしょうがないわねぇ。まあ、毛があったらこんな任務、だれも受けないけどねぇ。ふふっ」
カニ男は手鏡を取り出し、僕に見るように促した。鏡に映ったのは……モヒカンに狼耳の生えた、今までとは違う寂しい姿だった。された事のない髪型にされた僕は、モヒカンショックで倒れた。
……………………。
しばらくして、硬いベッドの上で目を覚ます。ベッドは、診察ベッドのような小さいものだった。医務室なのだろうか、それにしては包帯や洗面器がずさんに転がっている。戸棚には怪しい黒い瓶が横たわり、埃をかぶっていた。
「お目覚めかニャ」
フィオラが、ニヤケ面で顔を覗き込んでくる。僕は飛び起き、心の内を叫んだ。
「おい……いったいどういうことだ。モヒカンにされるなんて、聞いてないぞ!」
「これも、潜入のためなのニャ。耐えてほしいのニャ。それに、ちょっと男前なのニャ」
フィオラは僕の背中をバシッと叩く。軽く咳き込んだが、褒められたのであまり気にしないことにした。フィオラは手鏡を持ち、顔の前にかざした。顔を見ろということなのだろう。僕は、もう一度鏡を覗き込んだ。モヒカンにされた自分の顔は、世紀末に荒くれ物として出てくるやられキャラのような姿だった。
──でも、よく見るとアウトローっぽくって、わりといい感じじゃないか。
これは、潜入するのに必要な措置だろう。いや、そのはずだ! そういうことにしておこう……。
「まあ、そんなに悪くないか」
「ぷっ……(含み笑い)いや、なんでもないニャ」
──その含み笑いはなんだ! 結構気にしているのを気遣ってくれていたと思ったのに…………この猫っ娘! あとでモフり倒す!
だが、僕の怒りをよそに、話が進む。
「それより、もう一人この任務に同行したいって人がいるのニャ」
「もう一人?」
その時、部屋の戸を叩く音が聞こえた。戸が開く。すると、黒装束を着た犬っ子が部屋の中に入ってきた。よく見ると、玉座で土下座していた犬っ子だ。彼は、僕の側まできて一礼する。
「柔人様…………先程もお会いしましたが、わたし、姫の一件でお世話になった親衛隊騎士ペスと申します。いえ……親衛隊騎士などとわたしが語る資格はないのですが……。おっと、そうでした。今回の任務、わたしも同行させていただけないでしょうか? もちろん、報酬はいりません。ただ……お手伝いをさせてください! 名誉を挽回したいのです!」
「えっと、ペスさん。でいいのかな。別に、僕はかまわないけど」
「わたしもかまわないニャ。数は多いにこしたことはないニャ」
「あ、ありがとうございます! あと、ペスと呼び捨ててもらって結構です」
「そうか。じゃあペス、頭のモヒカンはどうするんだ。全身剃られてモヒカンじゃなくなってるぞ」
「それは大丈夫です。先程、散髪屋のケガーニさんから、付け毛をいただきました」
そう言って、ペスは黒い付け毛を懐から出す。その付け毛の毛並みは、見覚えのある黒い毛だった。
──まさか……僕の毛じゃあ……さっき、切り落としたやつか!?
少し複雑な気分になったが、気にしないようにすることにした。
「さあ、柔人さまぁ~。これに着替えてくださいねぇ」
フィオラは、突然僕の服を脱がせ始めた。
「バカ! 何するんだ! そのぐらい、自分でできる!」
僕は、抵抗する間もなく、上着とズボンを脱がされ、黒装束を、無理やり着せられていた。どうしてこう、娘っ子は無理やり服を着せたがるのか……僕は着せ替え人形じゃない!
そんなこんなで、今日はだいぶ疲れた。各自、ギルドの宿泊施設で一夜をあかすことにした。なんとなく、フィオラにいろいろと仕組まれているようなフシがあるが、悪い方向にさえ行かなければ良いのだが、この、利用されてるような感覚だけは、どうも気に入らない。考えても仕方がないので今日はゆっくりと寝ることにした。
次の日、ギルドのメイドが運んできたパンとスープをぺろりとたいらげ、仲間と合流する。装備を確認し、出発の準備を整えた。なぜか、フィオラだけは、毛を剃らずに黒装束を着ていたが、バックアップということなので、直接潜入はしないのだろう。役割分担としては、僕はもちろん狐っ娘姫の救出だ。そして、アジト発見後に城へ報告する役がペスだ。最後に、フィオラはバックアップなのだが、いったい何をするのかは不明だ。
その後、ギルドの受付に頼んで荷馬車を借り受けた。馬は普通の馬だ。アジト付近までは徒歩で3日の距離のようだが、何があるかわからないので体力は温存しておきたい。それに馬車なら早く着く。
馬車の御者はペスにまかせ、僕とフィオラは荷台に乗る。そして、城門を出てケゾールのアジトに向けて南下を開始した。
サバンナのような光景が眼前に広がる。通常のサバンナと違うのは危険そうな動物が見当たらないことだ。だが、別な危険がある。そう、ケゾールソサエティーだ。奴等には注意しなければならない。バレるとやっかいだ。
5時間程度、ゆっくりと南下して、大きな川を見つけた。川は北西から南東に向けて流れている。川には、石造りの大きな橋がかかっていた。だが、よく見ると、中央が崩されたように壊れていて渡れそうにない。
「アジトはおそらく、この川を渡った先なのニャ。でも、この橋は無理ニャ。川沿いに南に下って村の橋を使わせてもらうのニャ」
「南に村があるのか?」
「ああ、ありますよ。たしか……クラウド村とかいいましたね」
ペスも同意した。どうやら、それしか方法がないようだ。
「じゃあ、そこへ行こう。なんだか日が暮れてきた。そこで一泊できそうか」
「多分、できると思いますよ」
橋が壊されているのを見て、少し気になることができた。
──この壊れた橋を渡った先にアジトがあるのだとしたら、ケゾールは、どうやってこちら側にきているんだ? フィオラは村の橋を使わせてもらうと言っていたが、ケゾールのやつらも同じく使っている可能性があるんじゃないのか!? 僕は思わずフィオラに声をかけた。
「フィオラ、この先の村、注意しろよ」
「わかってるのニャ。それに、柔人の頭がキレてるので安心なのニャ」
──なんだ、わかってたのか……ま、いいか。
僕らはゆっくりと、警戒しながら川沿いに南を目指した。
しばらくして、木柵に囲まれた集落を発見した。木でできた簡素な家が並んでいる。ちょうど川の方に細い橋がかかっていた。おそらくクラウド村だ。
馬車が止まると、フィオラが黒装束を脱いで村に入る。僕とペスは、ギルドからあらかじめ持ち出していた麻のローブに着替えて待機した。もちろん、ケゾールソサエティーのやつらと間違われないようにするためだ。
フィオラは、金貨を持って一晩の宿と橋の利用するための交渉をしに、村の中央にある大きな屋敷に入っていった。僕ら2人は、屋敷の外で待つ。
しばらくして、フィオラが屋敷から出てきた。なぜか表情が暗い。ため息をつきながら声を出してきた。
「フニャニャ~。宿は大丈夫だったのニャ~。でも、橋がダメなのニャ~。金貨100枚でもダメなのニャ~」
「橋がダメ? 使えないのか?」
「ケゾールの連中に子供たちを預かられているらしいニャ。それで、ケゾール以外は通れないように徹底しているのニャ」
「んん……、村の人は子供を人質にとられて橋の使用を制限しているってこと!?」
「そ、そうニャ!」
──ケゾールソサエティーはそんなことまで……ただ毛を刈る集団ではないのか……。
ケゾールソサエティーの脅威を、僕は認識しなおした。
それは、あっという間の出来事だった。カニ男のハサミは僕の髪の毛の両端を刈り取り、真ん中だけを綺麗に残した。そして、残った髪の形を整えられ、散髪は終了した。
「ちょっと物足りなかったわねぇ。本当は全身の毛を刈りたかったのだけど、毛がないんじゃしょうがないわねぇ。まあ、毛があったらこんな任務、だれも受けないけどねぇ。ふふっ」
カニ男は手鏡を取り出し、僕に見るように促した。鏡に映ったのは……モヒカンに狼耳の生えた、今までとは違う寂しい姿だった。された事のない髪型にされた僕は、モヒカンショックで倒れた。
……………………。
しばらくして、硬いベッドの上で目を覚ます。ベッドは、診察ベッドのような小さいものだった。医務室なのだろうか、それにしては包帯や洗面器がずさんに転がっている。戸棚には怪しい黒い瓶が横たわり、埃をかぶっていた。
「お目覚めかニャ」
フィオラが、ニヤケ面で顔を覗き込んでくる。僕は飛び起き、心の内を叫んだ。
「おい……いったいどういうことだ。モヒカンにされるなんて、聞いてないぞ!」
「これも、潜入のためなのニャ。耐えてほしいのニャ。それに、ちょっと男前なのニャ」
フィオラは僕の背中をバシッと叩く。軽く咳き込んだが、褒められたのであまり気にしないことにした。フィオラは手鏡を持ち、顔の前にかざした。顔を見ろということなのだろう。僕は、もう一度鏡を覗き込んだ。モヒカンにされた自分の顔は、世紀末に荒くれ物として出てくるやられキャラのような姿だった。
──でも、よく見るとアウトローっぽくって、わりといい感じじゃないか。
これは、潜入するのに必要な措置だろう。いや、そのはずだ! そういうことにしておこう……。
「まあ、そんなに悪くないか」
「ぷっ……(含み笑い)いや、なんでもないニャ」
──その含み笑いはなんだ! 結構気にしているのを気遣ってくれていたと思ったのに…………この猫っ娘! あとでモフり倒す!
だが、僕の怒りをよそに、話が進む。
「それより、もう一人この任務に同行したいって人がいるのニャ」
「もう一人?」
その時、部屋の戸を叩く音が聞こえた。戸が開く。すると、黒装束を着た犬っ子が部屋の中に入ってきた。よく見ると、玉座で土下座していた犬っ子だ。彼は、僕の側まできて一礼する。
「柔人様…………先程もお会いしましたが、わたし、姫の一件でお世話になった親衛隊騎士ペスと申します。いえ……親衛隊騎士などとわたしが語る資格はないのですが……。おっと、そうでした。今回の任務、わたしも同行させていただけないでしょうか? もちろん、報酬はいりません。ただ……お手伝いをさせてください! 名誉を挽回したいのです!」
「えっと、ペスさん。でいいのかな。別に、僕はかまわないけど」
「わたしもかまわないニャ。数は多いにこしたことはないニャ」
「あ、ありがとうございます! あと、ペスと呼び捨ててもらって結構です」
「そうか。じゃあペス、頭のモヒカンはどうするんだ。全身剃られてモヒカンじゃなくなってるぞ」
「それは大丈夫です。先程、散髪屋のケガーニさんから、付け毛をいただきました」
そう言って、ペスは黒い付け毛を懐から出す。その付け毛の毛並みは、見覚えのある黒い毛だった。
──まさか……僕の毛じゃあ……さっき、切り落としたやつか!?
少し複雑な気分になったが、気にしないようにすることにした。
「さあ、柔人さまぁ~。これに着替えてくださいねぇ」
フィオラは、突然僕の服を脱がせ始めた。
「バカ! 何するんだ! そのぐらい、自分でできる!」
僕は、抵抗する間もなく、上着とズボンを脱がされ、黒装束を、無理やり着せられていた。どうしてこう、娘っ子は無理やり服を着せたがるのか……僕は着せ替え人形じゃない!
そんなこんなで、今日はだいぶ疲れた。各自、ギルドの宿泊施設で一夜をあかすことにした。なんとなく、フィオラにいろいろと仕組まれているようなフシがあるが、悪い方向にさえ行かなければ良いのだが、この、利用されてるような感覚だけは、どうも気に入らない。考えても仕方がないので今日はゆっくりと寝ることにした。
次の日、ギルドのメイドが運んできたパンとスープをぺろりとたいらげ、仲間と合流する。装備を確認し、出発の準備を整えた。なぜか、フィオラだけは、毛を剃らずに黒装束を着ていたが、バックアップということなので、直接潜入はしないのだろう。役割分担としては、僕はもちろん狐っ娘姫の救出だ。そして、アジト発見後に城へ報告する役がペスだ。最後に、フィオラはバックアップなのだが、いったい何をするのかは不明だ。
その後、ギルドの受付に頼んで荷馬車を借り受けた。馬は普通の馬だ。アジト付近までは徒歩で3日の距離のようだが、何があるかわからないので体力は温存しておきたい。それに馬車なら早く着く。
馬車の御者はペスにまかせ、僕とフィオラは荷台に乗る。そして、城門を出てケゾールのアジトに向けて南下を開始した。
サバンナのような光景が眼前に広がる。通常のサバンナと違うのは危険そうな動物が見当たらないことだ。だが、別な危険がある。そう、ケゾールソサエティーだ。奴等には注意しなければならない。バレるとやっかいだ。
5時間程度、ゆっくりと南下して、大きな川を見つけた。川は北西から南東に向けて流れている。川には、石造りの大きな橋がかかっていた。だが、よく見ると、中央が崩されたように壊れていて渡れそうにない。
「アジトはおそらく、この川を渡った先なのニャ。でも、この橋は無理ニャ。川沿いに南に下って村の橋を使わせてもらうのニャ」
「南に村があるのか?」
「ああ、ありますよ。たしか……クラウド村とかいいましたね」
ペスも同意した。どうやら、それしか方法がないようだ。
「じゃあ、そこへ行こう。なんだか日が暮れてきた。そこで一泊できそうか」
「多分、できると思いますよ」
橋が壊されているのを見て、少し気になることができた。
──この壊れた橋を渡った先にアジトがあるのだとしたら、ケゾールは、どうやってこちら側にきているんだ? フィオラは村の橋を使わせてもらうと言っていたが、ケゾールのやつらも同じく使っている可能性があるんじゃないのか!? 僕は思わずフィオラに声をかけた。
「フィオラ、この先の村、注意しろよ」
「わかってるのニャ。それに、柔人の頭がキレてるので安心なのニャ」
──なんだ、わかってたのか……ま、いいか。
僕らはゆっくりと、警戒しながら川沿いに南を目指した。
しばらくして、木柵に囲まれた集落を発見した。木でできた簡素な家が並んでいる。ちょうど川の方に細い橋がかかっていた。おそらくクラウド村だ。
馬車が止まると、フィオラが黒装束を脱いで村に入る。僕とペスは、ギルドからあらかじめ持ち出していた麻のローブに着替えて待機した。もちろん、ケゾールソサエティーのやつらと間違われないようにするためだ。
フィオラは、金貨を持って一晩の宿と橋の利用するための交渉をしに、村の中央にある大きな屋敷に入っていった。僕ら2人は、屋敷の外で待つ。
しばらくして、フィオラが屋敷から出てきた。なぜか表情が暗い。ため息をつきながら声を出してきた。
「フニャニャ~。宿は大丈夫だったのニャ~。でも、橋がダメなのニャ~。金貨100枚でもダメなのニャ~」
「橋がダメ? 使えないのか?」
「ケゾールの連中に子供たちを預かられているらしいニャ。それで、ケゾール以外は通れないように徹底しているのニャ」
「んん……、村の人は子供を人質にとられて橋の使用を制限しているってこと!?」
「そ、そうニャ!」
──ケゾールソサエティーはそんなことまで……ただ毛を刈る集団ではないのか……。
ケゾールソサエティーの脅威を、僕は認識しなおした。
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