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はじめてのモフモフ
第6話 国王からの依頼
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──モフテンブルク城 玉座の間──
僕は、兵士たちに玉座の間に案内され、国王の目の前に連れてこられた。国王は、からだに羊のような毛を纏い、なんともふくよかなお腹だった。国王は立ち上がると、ゆっくりと声を発した。
「モフテンブルク城へようこそ、冒険者。国王、アルパッカード・モフテンじゃ」
──冒険者!? やはり、僕のことなのだろうか……。
冒険者になった覚えはないが、ここではこの方が都合が良さそうだ。
「残念ながら、姫のアンナはケゾールソサエティーにさらわれてしまった。そなたには頑張ってもらったが、うちの黒騎士でもこのザマだ。ペス! 前に出よ」
「ハッ」
黒い鎧を装備した男が、返事と共に姿を現した。肌がピンク色になっている。まさか、転倒した馬車から出てきてケゾールソサエティーの黒装束たちにあっけなく毛を剃られた黒い犬っ子なのだろうか。彼は、僕の側で跪き、悔しそうに言葉を発した。
「わ、私は……なす術もなく、姫を拐われてしまいましたぁ! 鍛錬が足りませんでしたぁ! 醜態を晒しましたぁ! ご迷惑をおかけして、すみませんでしたぁ!」
ペスは、まるで、土下座のように頭を低くし、僕に誤り続けた。相当悔しかったのだろう、ペスの目に涙が滲んでいた。
「冒険者よ。たしかに、見てられない状況だったのはわかる。この騎士が不甲斐ないのもわかる。じゃがどうかこの騎士を許してやってくれないか。それに、アンナが拐われたのは、私の甘さゆえの出来事じゃ」
──いや、許すも何も……ただ、その場に偶然居合わせただけで、狐っ娘姫をモフモフしたいから助けようとしたなんて……言えない! そんなこと言えない! でも、国王の話だと、前提が狐っ娘姫を助けるために戦ったということになってるじゃないか。一体なぜだ?
「柔人様~。服をお持ちしましたニャン」
後ろから、どこかで聞いたことのある声がした。聞き覚えがありすぎるこの声は、フィオラだ。フィオラは、僕の学生服を大事そうに持っていた。やっぱり、彼女はあの場にずっといたのか。ことが終わった後、服を回収してくれたんだな。
「おお、お付の方、この度は大変無礼なことをした。彼を疑ったこと、心より詫びよう。これはほんの気持ちだ。受け取って欲しい」
すると、後ろの方で待機していた兵士が、重そうな袋をもってきた。その袋をフィオラに渡す。フィオラは嬉しそうに袋の中身を覗く。
「金貨がいっぱいニャ~100万モフカはあるニャ!」
──ああ、なるほど。フィオラが手を回してくれていたのか。彼女がいなければ、僕はそのまま黒装束の一味と間違われて……。これは、フィオラには感謝しなくてはならない。あとでとっておきのモフモフをしなければ……。
フィオラが僕の側にきて耳打ちする。
「いい稼ぎになったのニャ! そして、とてもいい仕事もらえるのニャ!」
「いい稼ぎって、僕を利用したのか!? それより、いい仕事って何のこと?」
「もう依頼金はもらったニャ! それと、この100万モフカは柔人のものニャ!」
100万モフカ? 依頼金!? なにか、嫌な予感がする。
「じゃあ、そなたたち、仕事を引き受けてもらっても良いのじゃな。そこの猫っ娘と毛無しの冒険者よ」
国王は、当然受けると言わんばかりに話を進めていた。
──ああっ! 冒険者って……僕のことだよね……勝手に話が進んでる……。
「もちろんですニャ! 彼ならきっとうまくやってくれるですニャ!」
──やっぱりこいつか、こいつの仕業なんだな! フィオラ! あとで、モフモフ地獄に落としてやるっ!
国王とフィオラの話に割り込むことが出来ず、僕は呆然と話の成り行きを眺めてしまった。
「お腹が空いていなければ、彼らごとき敵ではなかったということじゃな。じゃが、姫が囚われているのじゃ。うかつな動きはできんのじゃ。それも気をつけてほしいのじゃが」
「大丈夫ですニャ! お腹いっぱいお金もいっぱいになれば、ケゾールだかハゲールだかなんだかわからない組織なんて目じゃありませんニャ!」
「我々も、もう一度部隊を編成し、機会をうかがうつもりじゃ。アジトの発見と姫の救出、任せたぞ! 冒険者!」
「大船に乗ったつもりで待ってるのニャ!」
──マ・ジ・デ・ス・カ!
いや、これ普通に考えて無理だろ! アジトとか救出とか! どうして……こうなった!? 僕は怒りを抑えて小声でフィオラを問い詰めた。
「おい、フィオラ! お前、なに勝手なこと約束してるんだ!」
「あれれぇ。私のお陰で助かったじゃーニャいですかぁ。それニャーのにぃ、いいんですかニャ。そんなこと言って」
──く……こいつ、恩を着せるつもりか!
「わかった。それよりも、大丈夫なんだろうな。僕はまだハゲたくはないぞ」
「大丈夫ですニャ。ちゃんとわたしがバックアップするのニャ。シッシッシッ……」
──この先どうなってしまうんだ……(大きくため息をつく)異様な事態に巻き込まれているのは確かだ。それに、あの狐っ娘姫の安否も気になる。あんな娘の毛が刈られる姿なんて、見たくはない。やっぱり、モフモフは大事だ。これは受けるべき依頼だ。毛を賭けてでも、達成するべきだ。その先に、モフモフがある! きっとある! 絶体ある!
僕は、心にそう言い聞かせて、自分を奮い起こした。
学生服に着替えた僕は、国王の依頼書を持ちフィオラと2人でギルドへと向かった。一応手続き上の問題で、ギルドに登録しておかないとダメらしい。今回の場合は、国王の依頼なので、装備品などの準備はギルドがしてくれるようだ。
ギルドの受付に着いた。受付には、モッフモフなうさ耳のメイドが立っていた。すごく……耳のモフモフが気になるが、とりあえずそれを我慢して、登録申請をした。
「ギルドの登録したいんだけど……できますか?」
「初めての方ですね。大丈夫ですよ。では、この申請用紙に名前を書いて、手を添えてください」
メイドはペンと用紙を渡してくれた。用紙には魔法陣が書いてあり、その下に名前を書く欄があった。言われたとおりに名前を書く。
「手は、この魔法陣のところでいいんですか?」
「はい。すこしピリッときますが、我慢して下さいね」
「はあ……」
とりあえず、言われたとおりに手を添えてみた。すると、魔法陣が光り、数秒後に消えた。
「これでいいの?」
「はい。用紙の裏をご確認ください。今のあたなのステータスが確認できますよ」
「ステータス!?」
僕は用紙を捲った。すると、なにやらゲームのステータスのような数値が書き込まれていた。
[
Name Yawato Ikenami (名前)
LV 2 (レベル)
GRA NOVICE (ギルドランク ノービス)
HP 110 (体力)
MFP 1100 (?)
AP 6 (アタックポイント)
DP 6 (ディフェンスポイント)
SP 6 (スピードポイント)
SK もふもふ (?)
RA 人間 (?)
]
「人間……はて、耳慣れない種族ですね。それと、スキルのモフモフって……あとMPがMFPに……別の表記になってますね。異国の方……でしょうか……」
「そ……そうです……!」
「わかりました。それと、これからは【ステイト】というスキルを使うことにより、自分のステータスが確認できますので、そちらをご利用ください。じゃあ、これで登録はおしまいです。依頼受付所の方に相方さんがおられますので、依頼申請はそちらでお願いします」
「わかりました、ありがとうございます」
登録が済んだので、受付を出て依頼所に向かった。依頼所ではフィオラが首を長くして僕を待っていた。
「やっときたニャ! 柔人は潜入役が最適ニャ。それでもって、私はバックアップニャ!」
「勝手に決めるなよ……って、やっぱり僕が潜入になるのか?」
「その通りニャ。それに、この任務では都合がいいニャ」
突然、目の前に一人の男が立ちふさがった。赤くて硬そうな体に、腕がカニのようなハサミの男だった。その男は、お姉のような声を発した。
「あら、いい男じゃなーい。じゃあこの子、刈っていいのねぇ」
「もちろんですニャ!」
「刈るって……な、何を……」
──まさか……まさかまさかまさか……!
────シャキーン! シャキーン!
カニの男は、ハサミの音を奏でながら、僕に近づいた。
僕は、兵士たちに玉座の間に案内され、国王の目の前に連れてこられた。国王は、からだに羊のような毛を纏い、なんともふくよかなお腹だった。国王は立ち上がると、ゆっくりと声を発した。
「モフテンブルク城へようこそ、冒険者。国王、アルパッカード・モフテンじゃ」
──冒険者!? やはり、僕のことなのだろうか……。
冒険者になった覚えはないが、ここではこの方が都合が良さそうだ。
「残念ながら、姫のアンナはケゾールソサエティーにさらわれてしまった。そなたには頑張ってもらったが、うちの黒騎士でもこのザマだ。ペス! 前に出よ」
「ハッ」
黒い鎧を装備した男が、返事と共に姿を現した。肌がピンク色になっている。まさか、転倒した馬車から出てきてケゾールソサエティーの黒装束たちにあっけなく毛を剃られた黒い犬っ子なのだろうか。彼は、僕の側で跪き、悔しそうに言葉を発した。
「わ、私は……なす術もなく、姫を拐われてしまいましたぁ! 鍛錬が足りませんでしたぁ! 醜態を晒しましたぁ! ご迷惑をおかけして、すみませんでしたぁ!」
ペスは、まるで、土下座のように頭を低くし、僕に誤り続けた。相当悔しかったのだろう、ペスの目に涙が滲んでいた。
「冒険者よ。たしかに、見てられない状況だったのはわかる。この騎士が不甲斐ないのもわかる。じゃがどうかこの騎士を許してやってくれないか。それに、アンナが拐われたのは、私の甘さゆえの出来事じゃ」
──いや、許すも何も……ただ、その場に偶然居合わせただけで、狐っ娘姫をモフモフしたいから助けようとしたなんて……言えない! そんなこと言えない! でも、国王の話だと、前提が狐っ娘姫を助けるために戦ったということになってるじゃないか。一体なぜだ?
「柔人様~。服をお持ちしましたニャン」
後ろから、どこかで聞いたことのある声がした。聞き覚えがありすぎるこの声は、フィオラだ。フィオラは、僕の学生服を大事そうに持っていた。やっぱり、彼女はあの場にずっといたのか。ことが終わった後、服を回収してくれたんだな。
「おお、お付の方、この度は大変無礼なことをした。彼を疑ったこと、心より詫びよう。これはほんの気持ちだ。受け取って欲しい」
すると、後ろの方で待機していた兵士が、重そうな袋をもってきた。その袋をフィオラに渡す。フィオラは嬉しそうに袋の中身を覗く。
「金貨がいっぱいニャ~100万モフカはあるニャ!」
──ああ、なるほど。フィオラが手を回してくれていたのか。彼女がいなければ、僕はそのまま黒装束の一味と間違われて……。これは、フィオラには感謝しなくてはならない。あとでとっておきのモフモフをしなければ……。
フィオラが僕の側にきて耳打ちする。
「いい稼ぎになったのニャ! そして、とてもいい仕事もらえるのニャ!」
「いい稼ぎって、僕を利用したのか!? それより、いい仕事って何のこと?」
「もう依頼金はもらったニャ! それと、この100万モフカは柔人のものニャ!」
100万モフカ? 依頼金!? なにか、嫌な予感がする。
「じゃあ、そなたたち、仕事を引き受けてもらっても良いのじゃな。そこの猫っ娘と毛無しの冒険者よ」
国王は、当然受けると言わんばかりに話を進めていた。
──ああっ! 冒険者って……僕のことだよね……勝手に話が進んでる……。
「もちろんですニャ! 彼ならきっとうまくやってくれるですニャ!」
──やっぱりこいつか、こいつの仕業なんだな! フィオラ! あとで、モフモフ地獄に落としてやるっ!
国王とフィオラの話に割り込むことが出来ず、僕は呆然と話の成り行きを眺めてしまった。
「お腹が空いていなければ、彼らごとき敵ではなかったということじゃな。じゃが、姫が囚われているのじゃ。うかつな動きはできんのじゃ。それも気をつけてほしいのじゃが」
「大丈夫ですニャ! お腹いっぱいお金もいっぱいになれば、ケゾールだかハゲールだかなんだかわからない組織なんて目じゃありませんニャ!」
「我々も、もう一度部隊を編成し、機会をうかがうつもりじゃ。アジトの発見と姫の救出、任せたぞ! 冒険者!」
「大船に乗ったつもりで待ってるのニャ!」
──マ・ジ・デ・ス・カ!
いや、これ普通に考えて無理だろ! アジトとか救出とか! どうして……こうなった!? 僕は怒りを抑えて小声でフィオラを問い詰めた。
「おい、フィオラ! お前、なに勝手なこと約束してるんだ!」
「あれれぇ。私のお陰で助かったじゃーニャいですかぁ。それニャーのにぃ、いいんですかニャ。そんなこと言って」
──く……こいつ、恩を着せるつもりか!
「わかった。それよりも、大丈夫なんだろうな。僕はまだハゲたくはないぞ」
「大丈夫ですニャ。ちゃんとわたしがバックアップするのニャ。シッシッシッ……」
──この先どうなってしまうんだ……(大きくため息をつく)異様な事態に巻き込まれているのは確かだ。それに、あの狐っ娘姫の安否も気になる。あんな娘の毛が刈られる姿なんて、見たくはない。やっぱり、モフモフは大事だ。これは受けるべき依頼だ。毛を賭けてでも、達成するべきだ。その先に、モフモフがある! きっとある! 絶体ある!
僕は、心にそう言い聞かせて、自分を奮い起こした。
学生服に着替えた僕は、国王の依頼書を持ちフィオラと2人でギルドへと向かった。一応手続き上の問題で、ギルドに登録しておかないとダメらしい。今回の場合は、国王の依頼なので、装備品などの準備はギルドがしてくれるようだ。
ギルドの受付に着いた。受付には、モッフモフなうさ耳のメイドが立っていた。すごく……耳のモフモフが気になるが、とりあえずそれを我慢して、登録申請をした。
「ギルドの登録したいんだけど……できますか?」
「初めての方ですね。大丈夫ですよ。では、この申請用紙に名前を書いて、手を添えてください」
メイドはペンと用紙を渡してくれた。用紙には魔法陣が書いてあり、その下に名前を書く欄があった。言われたとおりに名前を書く。
「手は、この魔法陣のところでいいんですか?」
「はい。すこしピリッときますが、我慢して下さいね」
「はあ……」
とりあえず、言われたとおりに手を添えてみた。すると、魔法陣が光り、数秒後に消えた。
「これでいいの?」
「はい。用紙の裏をご確認ください。今のあたなのステータスが確認できますよ」
「ステータス!?」
僕は用紙を捲った。すると、なにやらゲームのステータスのような数値が書き込まれていた。
[
Name Yawato Ikenami (名前)
LV 2 (レベル)
GRA NOVICE (ギルドランク ノービス)
HP 110 (体力)
MFP 1100 (?)
AP 6 (アタックポイント)
DP 6 (ディフェンスポイント)
SP 6 (スピードポイント)
SK もふもふ (?)
RA 人間 (?)
]
「人間……はて、耳慣れない種族ですね。それと、スキルのモフモフって……あとMPがMFPに……別の表記になってますね。異国の方……でしょうか……」
「そ……そうです……!」
「わかりました。それと、これからは【ステイト】というスキルを使うことにより、自分のステータスが確認できますので、そちらをご利用ください。じゃあ、これで登録はおしまいです。依頼受付所の方に相方さんがおられますので、依頼申請はそちらでお願いします」
「わかりました、ありがとうございます」
登録が済んだので、受付を出て依頼所に向かった。依頼所ではフィオラが首を長くして僕を待っていた。
「やっときたニャ! 柔人は潜入役が最適ニャ。それでもって、私はバックアップニャ!」
「勝手に決めるなよ……って、やっぱり僕が潜入になるのか?」
「その通りニャ。それに、この任務では都合がいいニャ」
突然、目の前に一人の男が立ちふさがった。赤くて硬そうな体に、腕がカニのようなハサミの男だった。その男は、お姉のような声を発した。
「あら、いい男じゃなーい。じゃあこの子、刈っていいのねぇ」
「もちろんですニャ!」
「刈るって……な、何を……」
──まさか……まさかまさかまさか……!
────シャキーン! シャキーン!
カニの男は、ハサミの音を奏でながら、僕に近づいた。
応援ありがとうございます!
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