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はじめてのモフモフ

第12話 入口

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 荷馬車に乗り、僕たちはケゾールのアジトを見つけるため草原を探索をする。黒装束は、ずっと西の方からやってくるという話なのだが、見渡す限り草原があるだけで、建物すら見当たらない。

「なあ、フィオラ。アジトは遠いの?」

「そんなに遠くはないと思うニャ。でも、ここまで何もないと、場所の見当がつかないのニャ」

「考えられるのは、ここからすこし北西に進んだところにある小さな森ですかね。でも、そこはわたしたちも足を踏み入れていますので、アジトがあれば、すぐわかるのですが……」

「地下……って線はないか?」

「森は水脈が通っているので、掘ればすぐに水が湧き出てきます。恐らく、森には無いでしょう。あるとすれば、平地か山ですね。でも、山は見当たらないので……」

 メリルは、そう言って森の可能性を否定した。と、なると、考えらる場所は限られる。

「なら、平地で怪しい場所を探せばいいってことか」

「柔人、頭がキレるのニャ」嬉しそうに

 しかし、平地で怪しい場所なんて、そんな簡単に見つかるのだろうか。

「柔人さぁ~ん、これ、怪しくないですか?」

 突然、ペスが叫んだ。ペスは、草むらの上に立ち、下を指差していた。ペスの足元を見てみると、直径3メートルほどの円盤状の石で出来たプレートが敷かれていた。中央には、人を大の字にしたような窪みがあった。それだけなら、遺跡のようなもので済んだのだが、頭から縦に伸びたモヒカンのような窪みを見つけた瞬間、怪しさが倍増した。

「確かに……怪しいな」

「すっごく怪しいのニャ」

 メリルが口を開く。

「ケゾールソサエティーの入り口だったりしないか?」

「ここは私も調べたのですが、何もありませんでした。このプレートはびくともしません。それに、このプレートはこの辺一帯に散らばっています」

「物は試しだ。もう一度動かしてみよう」

 プレートの端の方を持って動かそうとする。だが、びくともしない。「手伝うニャ」と、フィオラが加勢し、その後、ペスとメリルもそれに続いた。だが、プレートはびくともしない。

「回すのも……ダメ。持ち上げるのも……ダメ。押しても……ダメ……」ただ、疲れるだけだった。

「あーもう限界ですー」ペスは、そう言うと、疲れたのか、プレートの上に大の字に寝転がった。その時、なぜかペスの体はプレートの窪みにしっかりハマった。その瞬間、突然プレートが光を発し、ゆっくりと反時計回りに回転を始めた。

「な、なんですかこれはいったい!」ペスは驚いた声を上げ、プレートから飛び降りた。

 ──まさか、これがトリガーだったのか!?

 怪しいプレートは、ゆっくりと回転しながら隆起して、円柱状の入口が出現した。入口をのぞくと、下に降りる階段が長々と続く。壁には光る石のようなものが埋め込まれており、通路を薄い緑色に照らしていた。

「探しても、見つからないわけだ……。その人型に入るのは、我々も試した。しかし、何も起こらなかったのだ。おそらくは、毛を剃った者にしか反応しないのだろう。」

「ケゾールソサエティーのやつらなら毛が無いから自由に行き来できるわけか……ペス! よくやった!」

「た、たまたまですよ」

「そうだな。たまたまだ」

「そんな、柔人さん……」

 以外と簡単に入口が見つかったのには驚いた。だが、こんな偶然はそうそうないだろう。僕らは、警戒しながら地下への階段を降りて行った。

 中は洞窟のようだった。壁は人工物だが、その他は自然の洞窟だ。壁はただ、明かりを灯すためだけに置かれているような具合だった。

「この石、自然に発光しているのか?」

「蛍光石ニャ。大気の汚れた空気を食べて綺麗な空気を出す石ニャ。その過程で、発光するのニャ」

 どういう原理だかは知らないが、すごくエコロジーな代物だと感心した。たしかに、いろいろとガスが溜まりそうな洞窟の中なのに嫌な臭いがしない。逆に深呼吸をしたくなるような澄んだ空気だ。

 奥へと進む。ジグザグに曲がった通路だ。曲がり角に、敵が潜んでいないか心配だ。だが、そういう不安は、だいたい的中するのが世の理だ。

 ────ジャキーン! ジャキーン!

 物音が聞こえた。金属が擦れながらぶつかる音。この音には聞き覚えがある。ハサミの音だ。なにか嫌な予感がする……。

「誰かくるニャ」

 フィオラの声を聞いた僕らは、足を止めた。

「ここで誰かといったら、当然ソサエティーの奴等だな」

 メリルは、そう言って黒装束の中のサーベルを握りしめる。

 フィオラとメリルは警戒を強めた。しばらくして、通路の角を曲がった辺りに人影が見えた。ハサミの音を立てながら、ゆっくりと角を曲がり、姿を現した。

 その姿は、黒装束を纏い、両手に植木ばさみのようなものを持ったケゾールソサエティーの男だった。

「お前たち、毛はきちんと剃ってますか? きちんと剃らないと、怠惰になってしまいますよ」

 ────ジャキーン! ジャキーン!

「そ……剃ってます! 剃ってますよぉ!」

 ペスは、慌てて黒装束を脱ぎ、肌を見せる。

「あなたは、素晴らしい信仰心ですねぇ。けど……何か、臭い毛の臭いがするですよ……クンクンッ! とっても怠惰な……毛の臭いが!」

 黒装束の男の目が緑色に光った。壁の光を反射したのだろうか、その目はとても不気味だった。

「そこのお前とお前、黒装束を脱ぎなさい! とても臭いがプンプンします!」

 黒装束の男は、フィオラとメリルを指差した。

 ──しまった! 二人は毛を剃っていない……このままじゃ……。

 それを見ていたペスは、黒装束の男の目の前に立ち、低い姿勢で声を上げた。

「いえ、この方たちは、ケゾールに入信したいと申し出たケゾール崇拝者です。怠惰な毛を剃り、務めに励む所存でここへ来ました」

 ペスは、その場をうまくごまかした。だが……。

「ほう……新しい信者か。ちょうど良い。このわたし、『ハサミのジョー』が、そなたたち二人を浄化してやります! このハサミでええぇぇ!」

 やはり、この場で刈るつもりだ。黒装束の男は、服を脱ぎ、姿を現した。ぱっと見、狼ではない。やけに筋肉質な体付き、黒と黄色のまだらなトサカ。僕はそんな動物を知っている。そう……彼は……チーターだ!

 ────ジャキーン!

 ハサミの音が洞窟内に響き渡る。その瞬間、ジョーは、地面を蹴り、跳躍する。壁を蹴り、天井を蹴り、洞窟内を跳弾のように飛び回る。そして、メリルめがけて飛びかかってきた。

「ものすごい毛の臭い! ここまでくると悪臭です。ですが、安心してください……今から浄化しますからね!」

 さすがに速すぎて、僕には反応ができなかった。メリルは黒装束を剥ぎ取られ、フサフサな毛をむき出しにした。ジョーのハサミは、その毛めがけて、襲いかかる。

 ────ドフッ!

 その時だ! フィオラが機転を利かせてメリルを突き飛ばした。間一髪、フサフサな毛が刈り取られるのを防いだ。

「何事ですか! 私の神聖な無駄毛浄化を邪魔するなんて……あなた、本当にケゾールの信者なのですか?」

 ジョーの言葉は、フィオラに向けられた。

「そんなつもりはなかったニャ。何も食べていなくて、倒れそうになったのニャ。食べ物を食べたら、その養分が毛に吸収されるニャ。怠惰な毛を育たないようにするために、なるべく食べなかったのニャ」

 よくわからない理屈だが、ケゾールソサエティーを信じ込ませるには十分だった。だが、それもただの時間稼ぎに過ぎない。フィオラはこっちを見て、何とかしろというような眼差しをこちらに向けてきた。

「なんと! それほどまでに! そうか……じゃあ、お前を先に浄化してさしあげよう。その呪いから、今、解放してやる」

 ────ジャキーン!

 ジョーは、鋭いハサミを振り上げた。

 ──まずい! このままでは、二人のモフモフが犠牲になってしまう!!
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