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はじめてのモフモフ

第15話 神毛の女王

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 洞窟の奥へと進む。薄緑色に光る壁、ジグザグの通路は相変わらずだが、敵の気配はなかった。ふと、髪の毛に違和感を感じなくなったことに気付いた僕は、頭を確認する。手には、いつもの髪の毛の感触が伝わった。フサフサだ。

「髪の毛が戻ってる!」

「どうしたニャ? ああ、柔人の髪の毛が戻ってるのニャ!」

「よかったですね、柔人殿」

 2人は、驚いた様子で僕の頭を見ていた。髪の毛が戻ったことで、安心した僕は、フードを深くかぶり、気を引き締めた。MFPは、徐々に回復しているが、回復速度はかなり遅い。それに今は何の能力も持ち合わせていないので、一度モフらなければ、能力を得られないようだ。だが、2人はさっきの戦闘で疲れているはずだ。今モフるのはやめておいた方がいいだろう。

「あんまりジロジロ見るなよ」

「柔人の頭、モフっていいかニャ?」

「こんなフサフサじゃない髪の毛モフったって、しょうがないだろう」

「モフらせるのニャ!」

 フィオラは、頬を僕の頭に擦り付け、モフりはじめる。くすぐったい。これだけ元気があるのなら、モフり返しても問題ないだろう。そう思った矢先、先行していたメリルが何かを見つけた。

「柔人殿、下に降りる階段です」

「階段? まだ下があるのか?」

 僕は、くっついてくるフィオラを、押し戻す。そして、警戒を強めた。

 階段部分を確認する。階段は綺麗な石段となっており、壁や天井が木材で覆われていた。木材には、蛍光石がちりばめられていた。おそらく、人為的に作られた物だろう。この先にケゾールソサエティーの本部でもあるのだろうか。僕は、怖いと感じる感情を無視してゆっくりと階段を下りた。

 階段を下り終えると、そこは、大きな居住区になっていた。通路は、今までの3倍の広さで網の目のように綺麗に整地されている。住居は、土の柱の周囲を、木材で覆って、扉をつけた感じだ。天井には、蛍光石が人工的にちりばめられ、周囲を照らしていた。

 奥から、紫装束を着た住人が、こちらに向かって近づいてくる。黒装束ではないようだ。僕たちは足を止め、警戒した。

「ケゾール司教様、お勤めご苦労さまです」

 顔はフードで見えないが、年を食った女性の声だ。彼女は、僕たちに、丁寧に挨拶をしてきた。やはり、ケゾールは宗教施設のようなものなのだろうか。であれば、紫装束はおそらく信者だ。黒が司教ということは、おそらく幹部クラスということだろう。それと、この住人はこちらの正体に気付いてはいないようだ。何か聞き出せるかもしれない。ここはケゾール司教になりきって、何か情報を聞き出すことにする。

「ちょっと聞きたいことがある。道に迷った。本部へはどういけばいい?」

「本部? ……ああ、本殿のことですね。でしたら、もうすぐ夜です。集会へ行きますので案内いたします」

「ああ……それと。羊人の子供たちはどうしてる?」

「どうしてると言われましても……子供たちは全員、浄化の間で教えを叩きこまれておりますが」

「ああ、そうだったな。ではその浄化の間はここからだと、どう行けばいい?」

「それは、私どもよりも司教様のほうがご存知のはず……本殿内部には私たちは入れませんから……」

「ああ、そうだった。悪い。近頃物忘れがひどくて困っている。思い出させてくれてありがとう」

「いえいえ。年を取ると大変ですからねぇ。わかります」

 ちょっと発言が危なかったが、なんとかごまかせたようだ。

 その信者はゆっくりと、居住区の奥へと歩き始める。僕らはその後をついていった。しばらくして、住居の扉が次々と開き、信者が家から出てきた。そして、紫装束の列ができ始める。その流れに乗って、先へと進む。

 数分歩くと、床や柱が大理石に変わり、広い所に出た。まるで、そこは神殿のようだった。なだらかな下り坂になっており、どんどん天井が離れていく。逆円錐形の空間だ。

 中央は柱がない。どことなく、ライブ会場のような雰囲気だ。中央に大きな台座のようなステージがあり、ステージの四隅には、装飾の施された大きな槍が立っている。そして、ステージの中央には魔法陣が描かれていた。

 紫装束の信者は、そのステージの周りにあつまり、ひざまずきはじめる。僕らは黒装束だ。目立つのまずいので、案内してくれた信者に礼を言い、後方で様子をみながら待機することにした。

「まさか、こんなに巨大な組織だったなんて……」

 信者だけで、一万人は、軽く超えていそうだ。これは無理やり勧誘されたものなのだろうか、それとも自分の意志で、ここにいるのだろうか。

 フィオラは、ステージの奥の方に視線を向ける。細い渡り廊下の先に、階段と入口があった。

「あの台座の奥に通路があるニャ」

「ありますね……その先に階段と入口。おそらく、そこが本殿への入り口のような気がします」

 メリルは、そう言うと、今にも乗り込みそうな勢いで、前に進み始めた。それを察したかのように、フィオラはメリルを静止する。

「落ち着くのニャ。まずは様子見ニャ」

 メリルのはやる気持ちはわかる。自分の村の子供たちをさらわれているのだ。早く助けたいに決まっている。だが、そのせいでチャンスを失うことになったら、大変だ。ここは慎重に事を進めたい。

「そうだね。フィオラの言う通りだ。必ず隙はできるはずだ。それまで待機しよう」

「ああ……申し訳ない。勝手に動こうとした。すまない」

 しばらくして、奥の入り口から黒装束を着た赤毛のゴリラのようなモヒカン男が階段を下りてきた。その後ろをフードを被った白装束の信者がついてくる。その二人は、ゆっくりと渡り廊下を進み、ステージへと上った。そして二人は、神殿の入り口に頭を向け、しゃがんでひれ伏す。集まっていた紫装束の信者たちも、一斉にひれ伏す。

 よく見ると、入口の上の方にバルコニーがあった。そこに3人の人影が映る。両端に、黒装束の男。真ん中にいたのは、金色の髪の女性のような姿だった。黒装束の男が、バルコニーの両端にたいまつを差し込む。すると、中央にいた女性の姿がたいまつの明かりで露になった。その姿は、長い金髪で美しい体をした、パレオ付きの水着姿の女性だった。

 ──彼女は…………人間だ!──

 台座にいたゴリラ男が顔を上げ、大きな声を出した。

「神毛の女王、ペレイ様! その艶やかなる神の毛を、どうかこの者にお与えください!」

 するとペレイは、空間全体に響く高い声で、それに答えた。

「無駄毛は怠惰の証である。勤勉なる知性を得たいのならば、無駄毛を滅せよ。さすれば、神の毛を得られん!」

 白装束を着た信者は立ち上がり、服を脱ぎ始める。そして、全身モフモフな姿を現した。このモフモフは、アライグマだ! ケゾールソサエティーにおいて、毛を伸ばすことは禁忌なはずだ。なのに、なぜこんなに毛を伸ばしているのだろうか。

 アライグマは、台座中央の魔法陣の上に立った。先程バルコニーにいた黒装束の男の一人が台座に上っていた。そして、細長い筒から、一本の髪の毛を取り出す。金色の髪の毛だ。もしかして、ペレイの髪の毛なのだろうか。

 黒装束の男は、その髪の毛をアライグマの頭の上に乗せ、バルコニーへと戻っていった。ゴリラ男は、台座を降り、アライグマの様子を伺っている。

「神の毛の加護を、そなたにあたえん。全ての毒を焼き払い、汚れなき体へと浄化せよ」ペレイは、そう言うと魔法陣に腕をかざしてスキルを唱えた。

「【不毛炎上永久脱毛ふもうえんじょうえいきゅうだつもう】!」

 その瞬間、魔法陣から炎が噴き出した。そしてアライグマは、その炎に包まれて炎上した。
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