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はじめてのモフモフ
第16話 ケゾールの儀式
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「あのアライグマ、燃えてる……しかも、ピクリとも動かない」
「焼け死んでしまうニャ」
「柔人殿、助けないと!」
僕は、燃えているアライグマを助けに行こうと動こうとした。だが、その瞬間、アライグマを包み込んでいた炎は、一瞬のうちに消えてしまった。立っていたアライグマの体は火傷一つなかったが、体毛だけが綺麗に焼き削がれていた。
「怠惰な毛根は浄化された。ここにまた一人、司教が誕生した。教えを守り、広め、そして、邪を滅するのだ」
「あ、ありがたき幸せです~」
「これでおまえも一人前の信者だ。我がケゾールのために、布教に努めるがよいさあ、これを着ろ」
ゴリラが黒装束を渡す。毛のなくなったアライグマは、黒装束を羽織り、両腕を広げた。
「「「オオオオォォォォ~!」」」
歓声が沸き起こる。儀式場は異様な熱気に包まれていた。ゴリラは拳を振り上げ、叫び声を上げる。そして、その声に信者たちが、拳を振り上げながら答える。
「怠惰とはなんだ!」
「「「剃らぬ者!」」」
「邪とはなんだ!」
「「「怠惰な無駄毛!」」」
「敵は誰だ!」
「「「体毛を生やす者!」」」
「ケゾールゴッド! ペレイ!」
「「「ケゾールゴッド! ペレイ!」」」
「ケゾールゴッド! ペレイ!」
「「「ケゾールゴッド! ペレイ!」」」
歓声は鳴りやまない。この異様な雰囲気に飲まれそうになる。
「毛は……敵……剃らなきゃ……」
メリルが突然頭を抱え始めた。
「おい、メリル、しっかりしろ!」
「毛は剃らなきゃだめなのニャ~」
さらに、フィオラも様子が変だ。うつろな目をして酔っ払いのようにフラフラとしている。
もしかすると、何らかの洗脳効果があるのかもしれない。自分が、なんともないのは、おそらく体毛がないからだろう。それに、この熱気のせいだろうか、毛に対して、嫌悪の感情を抱かされている気がした。この場に長くとどまるのは危険だ!
──いったんこの場を離れなければ……。
僕は、二人の腕をつかんで強引にこの場から引きずり出した。居住区の方へ避難した。徐々に、正気を取り戻していく。
「ああ、毛は剃る物じゃないのニャ」
「ああ、わたしはいったい……」
「多分、洗脳か何かだ。人の意思を操るような……そんな能力に心当たりはあるか?」
2人に尋ねる。メリルは首を横に振るだけだった。だが、フィオラは、何かしっているようなそぶりで答えた。
「んニャ~、そういえば……そんな能力……そうだニャ、思い出したニャ! モフテンブルクの姫様の能力ニャ! でも、条件が整わないと、能力は使えないはずなのニャ」
「もしかして、アンナ姫がその能力を持っているのか!? 条件って何だ?」
「一週間断食して山に登って滝に打たれて逆立ちしたまま町を一周して歌を歌って1000人の魔導師を集めて三日三晩踊りあかして支配の神を下ろすのニャ」
「…………本当か?」
僕は、話の信憑性の薄さに、一発ぶん殴ろうと拳を握った。
「ほ、本当ニャ! 本当にそう聞いたニャ! 猫族は嘘つかないニャ!」
フィオラの目は、本気だった。それにしても、これが本当だとすると、苦行過ぎる。そもそも、この条件だと、姫はさらわれてから、まだ一週間経ってない。もしこれが、嘘だというのなら、考えられるのは、力を利用されるのを回避するための方便だ。それなら、ケゾールソサエティーがアンナ姫の力を利用している事のつじつまが合う。実は、アンナ姫は能力をすぐに使うことができ、そのことをケゾールが知っていたとしか、考えられない。
「とりあえず、わかった。アンナ姫は、確実に奴等に利用されているってことだな」
「そうなのニャ!」
フィオラは、ホッとした様子を見せた。意外にも、情報に詳しく、出し惜しみしているような彼女に不信感を持たざるを得ないが、今はそんな情報でも重宝する。情報に関して言えば、売り買いできるものあるだろう。フィオラはおそらく、それで金を得ている側に違いない。
僕たちは、儀式が終わるのを待つことにした。居住区の壁にもたれて一息つく。
先ほどの儀式にいたペレイの姿を見て、気になることがあった。彼女の姿だ。あれは、人間そのものに間違いない。
そして、神毛と呼ばれているのは、ただの金髪だ。それに、この獣人だけの世界にいる人間となると、何らかの理由で絶滅した人間の生き残り、あるいは転生者、そのどちらかになるだろう。
それと、なぜ教祖になっているのかだ。体毛はないが、髪の毛は全部生やしている。モヒカンじゃないのは、教祖の特権なのだろうか、それとも、神毛と呼ばれる金髪は、体毛扱いじゃないということなのだろうか。
いろいろと考えているうちに、紫装束の信者たちが、ぞろぞろと居住区に戻り始めた。彼らは、僕らに軽く挨拶して、家へと戻っていく。
「どうやら、終わったようだな」
「そのようですね、柔人殿」
「もう一度、行ってみるのニャ」
僕らは、儀式場へと戻った。儀式場には、誰もいなかった。頭の中で、何かが変化する様子はない。今は洗脳は行われてはいないようだ。
メリルは、階段の上の入り口を指差す。
「あそこが本殿への入口ですね」
「多分な」
僕たちは、足を進める。台座の裏手にある渡り廊下を渡り、階段を上る。そして、ぽっかりと空いた入口から神殿内部へと侵入した。蛍光石の光は薄暗く、足元が見づらい。通路は舗装されておらず、石がゴツゴツと突き出ている。
「この先には、さっきのゴリラみたいなのもいるのかニャ?」不安そうにフィオラがたずねる。
「まあ、いるだろうな。強そうだったから、あまり会いたくはないな」
「そうですね、柔人殿」
足元に気をつけながら先へと進む。しばらく進むと、通路は石畳になる。柱が縦横一列に綺麗に並び、らせん階段と大小の入り口を発見した。らせん階段は、位置的にみて、ペレイのいたバルコニーの場所だ。大きな入口は派手な装飾があり、そこには、2人の黒装束男が立っている。おそらく、見張りだろう。残るは、少し離れた所にある小さな入り口だが、木の枠で囲まれていて、見張りはいない。
「まず、あの小さな入り口から探索してみよう」
小さな入り口の中を進む。少し湿度が高いせいか、肌に不快感を感じる。新しく掘られたような通路で、土と木材の臭いが鼻を突く。通路には、横穴が複数あった。そのどれもが倉庫のようになっており、大きな樽や、木箱などで埋め尽くされていた。
一つだけ、扉がついた横穴を発見した。扉には魔法陣が書いてあり、いかにも怪しい場所だった。
「毛の臭いがするのニャ」
「お前、ケゾール教に入れるぞ……じゃなくて、毛のあるやつがいるのか」
「間違えなくいるニャ」
フィオラの鼻が利いたようだ。ということは、ここに、アンナ姫がいる可能性が出てきた。毛を剃られてなければだが。
「どうしますか、柔人殿、ぶち破りますか?」
メリルは、拳を合わせて、破壊する気満々だ。
「いや、普通に開けてみようよ」
すんなりと扉は開いた。別にトラップも鍵もかかっていない。中は、何もない蛍光石のちりばめられた真っ白な壁だけの部屋だった。その部屋の中央に、白装束を着た信者が1人、祈りながら跪いていた。
「焼け死んでしまうニャ」
「柔人殿、助けないと!」
僕は、燃えているアライグマを助けに行こうと動こうとした。だが、その瞬間、アライグマを包み込んでいた炎は、一瞬のうちに消えてしまった。立っていたアライグマの体は火傷一つなかったが、体毛だけが綺麗に焼き削がれていた。
「怠惰な毛根は浄化された。ここにまた一人、司教が誕生した。教えを守り、広め、そして、邪を滅するのだ」
「あ、ありがたき幸せです~」
「これでおまえも一人前の信者だ。我がケゾールのために、布教に努めるがよいさあ、これを着ろ」
ゴリラが黒装束を渡す。毛のなくなったアライグマは、黒装束を羽織り、両腕を広げた。
「「「オオオオォォォォ~!」」」
歓声が沸き起こる。儀式場は異様な熱気に包まれていた。ゴリラは拳を振り上げ、叫び声を上げる。そして、その声に信者たちが、拳を振り上げながら答える。
「怠惰とはなんだ!」
「「「剃らぬ者!」」」
「邪とはなんだ!」
「「「怠惰な無駄毛!」」」
「敵は誰だ!」
「「「体毛を生やす者!」」」
「ケゾールゴッド! ペレイ!」
「「「ケゾールゴッド! ペレイ!」」」
「ケゾールゴッド! ペレイ!」
「「「ケゾールゴッド! ペレイ!」」」
歓声は鳴りやまない。この異様な雰囲気に飲まれそうになる。
「毛は……敵……剃らなきゃ……」
メリルが突然頭を抱え始めた。
「おい、メリル、しっかりしろ!」
「毛は剃らなきゃだめなのニャ~」
さらに、フィオラも様子が変だ。うつろな目をして酔っ払いのようにフラフラとしている。
もしかすると、何らかの洗脳効果があるのかもしれない。自分が、なんともないのは、おそらく体毛がないからだろう。それに、この熱気のせいだろうか、毛に対して、嫌悪の感情を抱かされている気がした。この場に長くとどまるのは危険だ!
──いったんこの場を離れなければ……。
僕は、二人の腕をつかんで強引にこの場から引きずり出した。居住区の方へ避難した。徐々に、正気を取り戻していく。
「ああ、毛は剃る物じゃないのニャ」
「ああ、わたしはいったい……」
「多分、洗脳か何かだ。人の意思を操るような……そんな能力に心当たりはあるか?」
2人に尋ねる。メリルは首を横に振るだけだった。だが、フィオラは、何かしっているようなそぶりで答えた。
「んニャ~、そういえば……そんな能力……そうだニャ、思い出したニャ! モフテンブルクの姫様の能力ニャ! でも、条件が整わないと、能力は使えないはずなのニャ」
「もしかして、アンナ姫がその能力を持っているのか!? 条件って何だ?」
「一週間断食して山に登って滝に打たれて逆立ちしたまま町を一周して歌を歌って1000人の魔導師を集めて三日三晩踊りあかして支配の神を下ろすのニャ」
「…………本当か?」
僕は、話の信憑性の薄さに、一発ぶん殴ろうと拳を握った。
「ほ、本当ニャ! 本当にそう聞いたニャ! 猫族は嘘つかないニャ!」
フィオラの目は、本気だった。それにしても、これが本当だとすると、苦行過ぎる。そもそも、この条件だと、姫はさらわれてから、まだ一週間経ってない。もしこれが、嘘だというのなら、考えられるのは、力を利用されるのを回避するための方便だ。それなら、ケゾールソサエティーがアンナ姫の力を利用している事のつじつまが合う。実は、アンナ姫は能力をすぐに使うことができ、そのことをケゾールが知っていたとしか、考えられない。
「とりあえず、わかった。アンナ姫は、確実に奴等に利用されているってことだな」
「そうなのニャ!」
フィオラは、ホッとした様子を見せた。意外にも、情報に詳しく、出し惜しみしているような彼女に不信感を持たざるを得ないが、今はそんな情報でも重宝する。情報に関して言えば、売り買いできるものあるだろう。フィオラはおそらく、それで金を得ている側に違いない。
僕たちは、儀式が終わるのを待つことにした。居住区の壁にもたれて一息つく。
先ほどの儀式にいたペレイの姿を見て、気になることがあった。彼女の姿だ。あれは、人間そのものに間違いない。
そして、神毛と呼ばれているのは、ただの金髪だ。それに、この獣人だけの世界にいる人間となると、何らかの理由で絶滅した人間の生き残り、あるいは転生者、そのどちらかになるだろう。
それと、なぜ教祖になっているのかだ。体毛はないが、髪の毛は全部生やしている。モヒカンじゃないのは、教祖の特権なのだろうか、それとも、神毛と呼ばれる金髪は、体毛扱いじゃないということなのだろうか。
いろいろと考えているうちに、紫装束の信者たちが、ぞろぞろと居住区に戻り始めた。彼らは、僕らに軽く挨拶して、家へと戻っていく。
「どうやら、終わったようだな」
「そのようですね、柔人殿」
「もう一度、行ってみるのニャ」
僕らは、儀式場へと戻った。儀式場には、誰もいなかった。頭の中で、何かが変化する様子はない。今は洗脳は行われてはいないようだ。
メリルは、階段の上の入り口を指差す。
「あそこが本殿への入口ですね」
「多分な」
僕たちは、足を進める。台座の裏手にある渡り廊下を渡り、階段を上る。そして、ぽっかりと空いた入口から神殿内部へと侵入した。蛍光石の光は薄暗く、足元が見づらい。通路は舗装されておらず、石がゴツゴツと突き出ている。
「この先には、さっきのゴリラみたいなのもいるのかニャ?」不安そうにフィオラがたずねる。
「まあ、いるだろうな。強そうだったから、あまり会いたくはないな」
「そうですね、柔人殿」
足元に気をつけながら先へと進む。しばらく進むと、通路は石畳になる。柱が縦横一列に綺麗に並び、らせん階段と大小の入り口を発見した。らせん階段は、位置的にみて、ペレイのいたバルコニーの場所だ。大きな入口は派手な装飾があり、そこには、2人の黒装束男が立っている。おそらく、見張りだろう。残るは、少し離れた所にある小さな入り口だが、木の枠で囲まれていて、見張りはいない。
「まず、あの小さな入り口から探索してみよう」
小さな入り口の中を進む。少し湿度が高いせいか、肌に不快感を感じる。新しく掘られたような通路で、土と木材の臭いが鼻を突く。通路には、横穴が複数あった。そのどれもが倉庫のようになっており、大きな樽や、木箱などで埋め尽くされていた。
一つだけ、扉がついた横穴を発見した。扉には魔法陣が書いてあり、いかにも怪しい場所だった。
「毛の臭いがするのニャ」
「お前、ケゾール教に入れるぞ……じゃなくて、毛のあるやつがいるのか」
「間違えなくいるニャ」
フィオラの鼻が利いたようだ。ということは、ここに、アンナ姫がいる可能性が出てきた。毛を剃られてなければだが。
「どうしますか、柔人殿、ぶち破りますか?」
メリルは、拳を合わせて、破壊する気満々だ。
「いや、普通に開けてみようよ」
すんなりと扉は開いた。別にトラップも鍵もかかっていない。中は、何もない蛍光石のちりばめられた真っ白な壁だけの部屋だった。その部屋の中央に、白装束を着た信者が1人、祈りながら跪いていた。
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